第39話 ライムスとバーベキュー

「お肉、ししゃも、ピーマン、しいたけ、長ネギ、ホタテ、エビ、バター、大根、レモン、ビール、ハイボール、お箸に紙皿に氷、ゴミ用のビニール袋……。うん、必要なものはちゃんと揃ってるね。それじゃ行こっか、ライムス!」

『ぴきゅう~~っ!』




 あれから――岡田さんが逮捕されてから3日が経過して、金曜日になった。


 あの後はいろいろと大変だったよ。


 警察の人に夜遅くまで話を聞かれたり、岡田さんの上司に呼び出されたり。この3日間も、仕事のためというよりかは、社内調査のために会社に行っていたようなものだったからね。


 ようやく聞き取りが一段落ついたということで、今日は特別に休みをもらったよ。


 岡田さんが配信した動画は、翌日には再生回数20万回を突破していて、コメント欄には口にするのも憚られるような暴言の数々が飛び交っていた。


 自業自得とは思うものの、やっぱりいい気はしない。だからそれ以降、私は動画を開いていないよ。


 それに、岡田さんの顔を見たら嫌なことを思い出しちゃうからね。


 レイドクエスト配信がバズったと思ったら、今度は自らの罪を告白する動画が出た。


 そのせいで私の名前がまたトレンド入りしたんだけど、それにも関わらず次の日の会社は静かなものだった。


 野次馬たちが増えて大変になるかなと思っていたんだけど、聞いたところによると、とうとう社長さんが怒っちゃったみたいで、法的措置を検討すると発表したんだね。


 そして須藤さんだけど――。


 どこの国でも、Sランク探索者の処遇を決めるのはすごく難しいみたい。


 Sランク探索者は日本には9人しかいない。

 アメリカですら11人しかいないらしいから、Sランク探索者の希少性が分かるよね。


 Sランク探索者は、災害時には自国を守る盾になる。

 そして有事の際には武力装置として機能することもある。


 なにより、探索者というのは未知の資源を獲得するために身を粉にして国に貢献してきた存在であり、最高峰のSランクは様々な恩赦を受けることが出来るそう。


 でも須藤さんは「恩赦を受けるつもりはない」と警察に出頭したよ。


「どんな理由があれ暴力は暴力ですから」

「それじゃ私も行きます。たしかに暴力はいけないことですけど、須藤さんが来てくれなかったら私は酷い目に遭わされていました。だから証言させてください。須藤さんのお陰で助けられたって」


 結局、須藤さんが逮捕されることは無かったよ。


 岡田さんが何も喋らないこと、そもそも証拠が無いこと、Sランク探索者の扱いが難しいこと。それに加えて探索者協会の介入があったみたい。


「協会からは半年の活動停止処分を言い渡されました……最中ちゃんを助けられたことを考えると安すぎますね。お釣りが来るくらいですよ」


 スマホの向こうで、須藤さんがそんなふうに笑っていた。


「私のためにごめんなさい。助けてくれて本当にありがとうございました」

「謝らないでください。そもそも私、配信活動にそれほど力入れてないですし。それに、国に万が一の事態が生じれば私は動かざるを得なくなる。――活動停止処分とは言うものの、形式的な側面が大きいですよ」


#


 この3日間、さすがにちょっと疲れが溜まってしまったよ。


 明日にはまた警察の人が話を聞きたいと言ってきているし、息抜き出来そうなのは今日くらい。


 そんなわけで私は、キャリーカートを引きながら近場のFランクダンジョンにやって来たよ。


 今日の目的はダンジョン飯。


 ライムスと一緒に美味しいご飯を食べて、癒されるのが目的だよ!


 ホールを潜ると、青々とした草原が広がっていた。


 風も澄んでいて空気も美味しい。

 これはサイコーのバーベキューができそうだよ!


 私はキャリーカートを畳むと、クーラーボックスの上に乗せて、荷台用ゴム紐で固定した。それから配信用のドローンにフックを括り付けて、固定する。


「最大積載量200kg……ちょっとオーバースペックかなって思ってたけど、こういう時は安心できていいね」


 万が一にも落とす心配が無いし、安心して休憩スペースまで進めるね!




 時刻は10時。

 お昼前ということもあって、休憩スペースは閑散としていた。


「なんか、独り占めって感じがしてドキドキしちゃうね」

『ぴききぃ』

「ふふっ、ライムスはもう腹ペコさんだね? よし、さっそくはじめよっか!」

『ぴきゅい~~!』


 まずは火をつけて、お肉を乗せて、ホタテ、エビ、シイタケも焼いちゃおう!


「あっ、配信も付けなくちゃね。忘れるところだったよ。えーと、これで映るよね。みんな、おはよー。今日はダンジョン飯の配信をしていくよ! 気軽にコメントしていってね~」


 配信を開始すると、すぐに視聴者の数が500人を超えたよ。


 ちなみに”岡田”というワードはNGに登録しておいたよ。じゃないと絶対にコメント欄が荒れちゃうからね……。



――――――――――――――――――――  

上ちゃん

<モナちゃんおはよー!


ザンギ

<朝からバーベキュー。いいね!


らんまる

<おはようございます。今日はお仕事休みですか?


ライムス推し

<ライムス最強!!


佐藤さん

<初見です。ダン飯好きだから楽しみです


ただの学生

<授業中だけどこっそり見てます。バレたら消えますw


tomo.77

<おはよう~。今日は俺もダン飯しようかな~


コニー

<初見です。なんか色々大変そうですね。配信頑張ってください、応援してます!


あーくん

<ダン飯見ながら食うと普通の飯も美味くなる不思議

―――――――――――――――――――― 



「あー、それ分かる! 私もダン飯見ながら食べる時あるもん。ホントに美味しくなった気がするから不思議だよね~。あ、このお肉はもう良さそうだね。ライムスこっちおいで。あ~んしてあげる」


 私が呼ぶと、ライムスはぴょんっとジャンプして、膝の上に乗ってきたよ。


『きゅぴいっ!』

「はいはい、分かってるよ。そんなに急がなくてもお肉は逃げないから。はい、あ~ん」

『きゅうっ!』


 お肉を食べさせてあげると、ライムスは目を輝かせながらぷるぷると喜んでくれた。こんなに喜んでくれると私まで嬉しくなっちゃうよ。


「私はエビから頂こうかな。串で刺して、レモンをかけてっと。いただきまぁ~す!」


 程よく焦げ目のついたエビを殻ごと一口。


「んんぅ~~、美味しぃ~~~っ!! パリッと殻が割れて、肉厚の身がプリプリしてて……平日の朝からこんな贅沢しちゃっていいのかな? ちょっと申し訳なくなっちゃうよ。レモンの酸味とも相性抜群だし、ほんとにサイコーだね! もっとサイコーにするためにハイボールもキメちゃおーっと」



――――――――――――――――――――

村人B

<おおっ、朝から犯罪ムーヴ!!


通りすがり.Lv99

<やべぇww


たなか家の長男

<これは堪らんですな


ライムス推し

<これは準優勝。もちろん優勝はライムス


ただの学生 

<俺も早くお酒飲めるようになりたい!


上ちゃん

<見てるだけでヨダレ出てきそう


だーやま

¥200

<ライムスくんプルプルでかわいいw


spring

<それなw

――――――――――――――――――――



「わぁ、だーやまさんありがと~。ライムス可愛いだって! よかったねぇ、ライムス」

『ぴきゅいっ!』


 褒められたのが嬉しいみたいで、ライムスは元気に返事をしてくれたよ。元気に返事する姿も可愛いから、これはもう可愛いの永久機関だね!


「今日は夕方までのんびり配信する予定だから、たくさんライムスの可愛さを見ていってね~」



――――――――――――――――――――

上ちゃん

<モナちゃん相変わらずの親バカw


tomo.77

<最中さんブレないから好きw


ただの学生

<先生にバレたから撤退します泣


spring

<親バカ、それもまたヨシ!


村人B

<ライムスくんと相思相愛なのが伝わってきて癒されます!


かな

<今来た。朝から贅沢すぎて最高やねぇ

――――――――――――――――――――



「次はししゃもを食べるよ! そのために大根と卸金も持ってきてるからね!」




 この日、私は夕方の4時までダンジョン飯を配信したよ。


 どの食材も最高に美味しくて、ライムスもいっぱい喜んでくれて、視聴者さんとも交流できて――まさしく癒しの一日だったよ。


 こういう和やかな配信を仕事にできたら最高に楽しいんだろうなぁ。


 明後日は事務所の人と会う予定があるし、いろいろと相談してみるのもいいかもしれないね。



 



 

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