第33話 優雅なランチ時間

「ぜひゅー、ぜひゅー、ぜひゅー……」


 こ、怖かったぁ~~~!

 びゅぅ~んって高く飛んだかと思ったら、今度はいきなり急降下するんだもん! 


 乗ったこと無いけど、ジェットコースターってこんな感じなのかな?


 ほんと、生きた心地がしなかったよ。


「天海さん、短い空の旅は如何でしたか?」


 如何でしたかと言われても、怖かった以外の感想がないよ!


「怖かったです。超怖かったです」

「そうですか。ま、初めのうちはみんなそうですよ。私も初めてジェットコースター乗った時は怖かったですしね。でも、慣れれば存外楽しいものですよ」

「慣れる予定なんて無いですけどね……」

「そうですか。それは残念」


 いやいや、なにが残念なのか全然分からないんだけど!


#


 私が落ち着くと、須藤さんは近くの喫茶店に案内してくれたよ。

 

 内装は、よくあるシックな感じだね。

 店内BGMはジャズクラシック。

 照明はあえて薄暗く設定されていて、雰囲気があるね。


「オシャレなお店ですね。私、喫茶店ってあまり来ないから、ちょっと新鮮な気分です。なにかオススメのメニューとかありますか?」


 私が聞くと、須藤さんは迷うことなくメニュー表を捲っていって、フレンチトーストセットを指差したよ。


「断然これですね。ここのフレンチトーストはトッピングの量が多いことで知られているんです。アイスもホイップクリームも果物ベリーも、他のお店の倍くらいはあるんじゃないですかね。それに、この時間帯限定ですが、コーヒーのお代わりも一杯までなら無料なんです。しかも990円! ヤバくないですか?」


 ちょっと興奮気味に語る須藤さん。

 なんか、今日1日でいろんな須藤さんを見た気がするよ。


 イケメンな須藤さん、ちょっと意地悪な須藤さん。

 いまの須藤さんは、ちょっとカワイイね。


「それじゃ私、それにします」


 こんなにオススメされたら、頼まない理由がないよね。それに、メニュー表を見れば分かるけど、本当に美味しそうなんだもん。


 さぞかし甘くて柔らかいんだろうなぁ。

 考えただけでもお腹が空いてきちゃうよ。


 須藤さんが呼鈴を鳴らすと、店員さんがこちらへやって来て、ニコッと微笑みを向けてきた。


 店員さんが「いつもありがとうございます」と小さく言うと、須藤さんも軽い会釈で応じたよ。


 須藤さんは常連のお客さんみたいだね。


「フレンチトーストセット2つで。それと私はホットコーヒー。天海さんは?」

「あ、私もホットコーヒーで。砂糖とミルクもお願いします」

「畏まりました。ではメニュー表お預かりいたしますね」

「あ、ハイ。ありがとうございます」


 それから15分ほどして、フレンチトーストが運ばれてきたよ。


 想像していたよりも大きい丸皿に、切り分けられたパンが6切れ。


 須藤さんの言っていたとおり、大きなアイスクリームにふわっふわのホイップクリームが乗せられていて、とっても美味しそう。


 お皿の端にはいちご、ブルーベリー、ラズベリーの3種類が添えられていて、見た目もパーフェクトだね!


 それと、チョコソースで兎ちゃんのイラストが描かれてるのも良いね!


 私ってばチョロいから、こういう可愛いのには目がないんだよねぇ~。


「ん~、いい匂い! 美味しそぉ~~」

「天海さん、せっかくだから写真撮ってSNSにアップしませんか? このウサギのイラストなんですけど、たまにしか描いてもらえないレアなやつなんですよ。今日はいつもより空いてるから、それでサービスしてくれたのかもしれません」

「えっ、そうなんですか? やった、私ったらラッキーですね!」

「私も今日は運が良いですよ。天海さんとランチに行く口実も――ごほんごほん」

「え? なんて?」

「いえ、なんでもないですよ。あっ、ここでピースしてもらっていいですか?」

「あ、ハイ」


 フレンチトーストセットの上に手を添えて、お互いの指先をくっつけてピース。隙間からウサギちゃん覗いているのが映えポイントだね。


 写真を撮った後は、いよいよ実食開始!

 まずはトーストをナイフで切り分けて、そのまま一口。


「いただきまぁ~す」


 あむっ!


「んっ、んん~~~~っ!!」


 舌の上に乗せるや否や、間髪入れずに甘さが広がって、サイコーだよ!


 牛乳と卵も生地全体に染み渡っていて、モチモチの食感が堪らないね。お持ち帰りオッケーだったら、ライムスの分も残しておいてあげようかな?


 こんなに美味しいのを独り占めするだなんて、ちょっと罪悪感が湧いてきちゃうもんね。


「天海さん、どうですか?」

「すっっごく美味しいです! ていうか、これが990円とか信じられないですよ。しかもコーヒーのお代わりもタダなんですよね?」

「ふふ、気に入ってくれたみたいで嬉しいです。それでその、天海さんに一つお願いがあるんですけど……」


 そう言うと、須藤さんはやや上目遣いに私を見つめてきたよ。今度は小動物みたい。


 今日の須藤さんはやけに表情が豊かだね?

 ウサギちゃんのイラストを描いてもらえたことといい、やっぱり今日の私は運が良いのかな?


 ……いや、運が良かったらサインねだられたり空飛んだりしないか。


「私にできることなら聞けますけど?」


 私が応じると、須藤さんは頬を赤らめながらこんなことを言い出した。


「えっと、その、フレンチトースト。天海さんに「あ~ん」ってしてもいいですか?」

「……はぇ?」


 次の瞬間、私の頬も一気に熱を帯びて、自分でも赤くなってるのが分かるほどになってしまったよ。


 でも、そんな反応になってしまうのも無理はないよね。


 だって、だってさ。

 「あ~ん」してもいいですか? とか人生で言われたことないし。そもそも想定外すぎるお願いというか?


「えーっと、須藤さん? 今日の須藤さんちょっとヘンじゃないですか? 熱でもあるんですか?」

「あっ、やっぱり迷惑ですよね。ゴメンナサイ、今のは聞かなかったことにしてください」


 いや、無理だよ!!





 


 


 


 

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