第30話 初めてのトレンド入り!

#


 探索者の一人が池田さんを連れて戻ってきた。

 池田さんは私が拾った剣を手に取ると。


「斬りつけた敵を確率でマヒ状態にさせるパラライズ・ソード。ゴブリン・アサシンがボスの時は確定でドロップするアイテムだな」

「パラライズ・ソード……」


 斬りつけた相手をマヒ状態にする、か。

 なんか強そう!


「どうやら無事にゴブリン・アサシンを討伐できたようですね」


 池田さんに続き、結城さんもやって来たよ。

 結城さんはスマホ画面を弄りながら、納得したように頷いた。


「動画を確認しましたが、ゴブリン・アサシンは間違いなく討伐されていますね。ふむ、スライムとの連携も見事ですね。天海さん、此度の活躍おめでとうございます」

「あ、ありがとうございます!」

「スライムくんも、よく頑張ったね」

『きゅぴっ!』


 結城さんにナデられて、ライムスは嬉しそうにぷるぷると弾んだ。


 結城さんはライムスをナデナデしたあと、襟に付けた銀バッジに手を添えて、喋り始めた。


 あのバッジは魔道具かな?

 拡声器みたいに使えるなんて便利だね。


「みなさん、此度のレイドクエストお疲れさまでした。みなさんのおかげでダンジョン・ブレイクを未然に防ぐことが出来ました、ありがとうございます! ここからの流れですが、ダンジョンからの帰還を希望する方は私についてきてください。入口に楔を刺してきていますので、すぐに戻ることが出来ます。まだモンスターを狩りたい、資源採掘を続けたいという方は、池田さんの元で行動してもらうことになります。なにか質問などはありますか?」

「はいはいはい!」


 元気いっぱいの返事をしたのは日向ちゃん。なんか、授業参観日の小学生みたいなテンションだね。


「えー……ナンバー22、新川日向さん。どうぞ」

「あの、レイドクエストの報酬はいつ貰えるんですか?」


 そういえば、具体的な受け渡し方法は聞いてなかったよね。


 クエスト報酬は一番気になるところだし、ちょっとそわそわしちゃうな。


「参加報酬で3万円、討伐支援で5万円、討伐で50万円……最中さんは併せて58万円か。ま、あれだけ活躍したんだ。正直、これでも少ないくらいじゃないか?」


 ギルさんに言われてようやく実感が湧いてきたよ。

 58万円――約60万円。

 ものすごい大金だよね。

 貰ったら何に使おうかな?

 

 まずはライムスのごはんでしょ?

 それにお菓子とジュース。

 あとはちょこっと贅沢して貯金かな?


「今回のレイドクエスト報酬は来週末までには振り込まれます。1週の猶予を頂くのは、その期間に配信のアーカイブを見直して貢献度をチェックするためですので、どうかご容赦ください」

「こういうとき、ダンジョン配信って便利だよね……。普通のレイドなら……話し合いで決めなきゃだから、たまに喧嘩になるんだよ……」


 いつの間にか私の隣にやって来ていたユーリちゃん。

 苦々しい顔つきを見るに、過去にトラブルがあったみたいだね。


「他に質問はありますか? ――ふむ、無さそうですね。あっ、そうだ最後に一つだけ。えー岩崎さん。岩崎さんいますか?」


 結城さんに呼ばれて、岩崎さんがふらふらと立ち上がった。


 未だに頬を抑えていて、顔をしかめている。

 ギルさんの一撃がよっぽど効いたみたいだね。


ふぁいはいほほひいまふここにいます

「おやおや、頬が腫れてしまっているじゃないですか。ヒーラーの方、あとで回復してあげてくださいね。――それで岩崎さんですが、えー、本日22時までに探索者協会・東支部まで来てください。ちょっと横暴な態度が目に余りましたからね。相応の処分は覚悟しておいてくださいよ」

「そ、ひょんな……」


 岩崎さんは頬を抑えながら、その場でガクリと項垂れてしまった。


 いつもの私なら可哀想だなって思うけど、今日は全然そんな気持ちが湧いてこない。


 でも当たり前だよね。


 私だけがバカにされるなら我慢できるよ。

 でも、ライムスのことをバカにされるのだけはどうしても我慢できないんだもん。


 いまさら謝って欲しいとも思わないけどね。


#


 結城さんの話が終わったあと、私は結城さんについていって、ダンジョンから帰還したよ。


 ギルさんとユーリちゃんはもう少しダンジョンに残るみたい。


「そうだ最中さん。最中さんはツイターというアプリはやっていますか?」

「ツイターですか? もちろんやってますよ」


 ツイターっていうのは、気軽にコメントや動画を投稿できるアプリのことだよ。


 とはいっても、私はあまりコメントしないんだけどね。


 私がツイターをやるときは動物の動画を見たり、Dtuberの最新情報をチェックしたりってのがほとんどだよ。


「お、やってますか。でしたら、ぜひトレンドの欄を確認してみてください。きっと、面白いものが見れますよ。では、私は仕事が残っていますのでこれで失礼します」

「あっ、ハイ。お疲れさまでした」


 トレンドの欄?

 どれどれ?


 私は結城さんに言われた通り、ツイターのトレンド一覧を見てみる。

 

 ツイターのトレンドは、話題性に応じて上位1位から30位までが表示される仕組みなんだけど……。


「わおっ! うそ、これ本当? 信じられない、夢でも見てるみたいだよ!」


 なんとトレンドの24位に、ライムスの名前が!

 しかも20位には私の名前も乗っているよ!


「ライムス、すごいよ! 私とライムスの名前がトレンドに乗ってるよ!」

『ぷゆーっ!』


 やっぱり配信がバズった効果が出てるんだね!


「よぉーし。ライムス、この後はゴミ掃除配信をするよ!」


 せっかく話題になってるんだから、こういう時こそ行動に出ないとねっ!




 かくして、私は21時までライムスと一緒にダンジョン配信をしたよ。


 そのお陰もあってか、同時接続数は3000を超えて、トレンドも15位まで上昇したよ。


 ふふっ、ライムスの可愛さをこんなに多くの人に配信できて嬉しいよ。


 つい最近までは、まさか自分が配信する側になるだなんて思いもしなかったけれど。


 今となっては、Dtuberデビューして良かったなって思うよ。


 だって、こんなにも可愛くてぷるぷるなライムスを多くの人に布教できるのだからねっ!

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