第29話 配信がバズったよ!

「反対意見はゼロだな。よし、それじゃ今から俺がリーダーを張る。まずこれからの指針だが、当然、全力で『ゴブリン・アサシン』探しだ。おそらくヤツは、まだ近くにいるはずだからな。きっと息を殺し身を低くして、俺たちが去るのを待っているんだ。とはいえ、ただの雑魚とは侮れん」


 ギルさんはトンボ型のダンジョン・カメラを小突きながら続けた。


「配信画面を見ればコイツの見てる景色がダイレクトに見れるわけだが、見事に熱感知がすり抜けられている。ヤツの隠密は体温まで消せるらしい」


「うおっ、本当だ。配信画面見て見ろよ」

「どれどれ? え、マジじゃん。これじゃあ探せなくね?」

「隠密の精度高いですね。腐ってもボスモンスターですか」

「ええ、どうすればいいんだよ」

「八方塞がり?」


 ギルさんの言葉にチームメンバーがざわめきだしてしまう。


 でも実際、どうすればいいのか分からないよね。

 ギルさんの言う通り完璧に身を潜められたら、砂煙の動きで探ることも難しい。


「まぁまぁ落ち着け。こういうときこそ冷静になって頭を使うんだ。そうすればなにか名案が降ってくるかもしれないだろ?」


 ……こういうときこそ冷静に、か。

 そうだよね、ピンチの時こそ落ち着かないと。


 仕事でもそうだけど、追い詰められて焦れば焦るほど、どこかにミスが出ちゃうんだよね。


 うーん、何か良い作戦ないかなぁ。


「ねぇライムス、どうすれば透明なモンスターを見つけ出せるかな?」

『ぴきぃ~?』


 って、そんなのライムスに分かるわけないよね。


 でも、ライムスの声を聞いてちょっと気持ちが落ち着いたよ。


 やっぱりライムスの癒し効果は絶大だね。


 とその時、ふと一つの案が降ってきた。


 ライムスの姿を見ていると、どうしてもあるものを連想しちゃうんだよね。


「ねぇねぇギルさん。魔法使いさんに『水』を出してもらうっていうのはどうですか?」

「水?」

「うん。ここには砂はいくらでもあるから、広範囲に水を出して、そのあとで砂を撒いたら……」

「なるほど。水を被った『ゴブリン・アサシン』に砂が付着して、居場所がバレバレになるってことか。最中さん、ナイスアイデアだ!」


「おお、あの子なかなかやるな!」

「こんな単純なことに気付かなかったとは」

「透明人間の倒し方、砂と水、これはメモッとく価値ありそうだぞ!」


 なんか、直接褒められるよりも恥ずかしいんだけど……。でも、ちゃんとチームに貢献できそうで嬉しいよ!


「最中ちゃん、今のは討伐補佐として認められると思うよ? なんとなくタダ者じゃないって思ってたけど、私の目に狂いはなかったね! ナイスアイデアだよっ!」

「日向ちゃん……ちょっと大げさじゃない? でも、褒めてくれてありがとねっ!」


#


「よし、各自準備は整ったな。それじゃ早速始めてくれ!」


 このチームには3人の魔法使いさんがいたよ。


 彼らが呪文を詠唱して、噴水みたく水を降らせる。そしてその後で私たちが砂をばら撒く。


 『ゴブリン・アサシン』の居場所を特定したら攻撃する。

 

 それが作戦の流れだね。

 

 ちょっと緊張するけど、上手くできるように頑張らないと。


「「「万物の源にして万物の母よ。我に力を与え給え! ウォーターボール!」」」


 3つのウォーターボールが天井目掛けて発射されて、そして、ぱぁんっ! と水風船みたく割れたよ。


 空中で四散したウォーターボールは雨みたいに降り注いで、私たちのことをびしょ濡れにしていった。


「今だっ!!」


 ギルさんの合図で、握りしめていた砂をえいっ! とばら撒く。


 すると。


『ゴブ? ゴブゴブ??』


 自分の体の変化に気付いたのか、ゴブリン特有の鳴き声が聞こえてきたよ。


 そして同時に、誰も居なかったはずの場所にシルエットが浮かび上がってきた。


「いたぞ、ゴブリン・アサシンだッ!!」

「わわっ、本当に上手くいっちゃった!?」


 って、驚くのは後回しだね。今は攻撃が最優先!


「行くよライムス!」

『きゅぴいっ!』

「私だって負けないよっ! くらえっ、フリージア・オブ・スロー!」

「俺だって負けないぜ。行け、ファイアー・ボール!」

「うおおっ、ウォーター・ボール!!」

「出遅れたか! それならサポート魔法で討伐補佐を狙うぜ!」


 氷のナイフが一直線に飛んでいき、後を追って炎の玉と水の玉が飛んでいく。


 どれも、『ゴブリン・アサシン』を直接狙っている。


 このままじゃ私の攻撃は間に合わない。

 そう思ったけど、そこで私はあることを思い出した。


 そういえば、ゴブリン・アサシンが得意なのって隠密だけじゃないよね?

 

 依頼内容には、『回避行動・隠密行動に長けた徘徊型のダンジョン・ボス:『ゴブリン・アサシン』の討伐』と書いてあった。


 と考えると、この攻撃は避けられる前提で動いたほうがよさそうかも?


 ジャンプで避ける?

 ……たぶん、ゴブリン・アサシンにそこまでの跳躍力はないとおもう。


 ということは、右に避けるか左に避けるかの二択。


 ふふっ。私一人じゃ二分の一だったけど、私には最高に頼れる家族パートナーのライムスがいるもんねっ!


「ライムスはそっちをお願い!」

『ぴきゅうっ!!』


 私とライムスは二手に分かれて、ゴブリン・アサシンの出方を伺うことにしたよ。


 するとゴブリン・アサシンは、集中攻撃を回避すべく右側に――つまりは、私の真正面に姿を現した。


 攻撃を避けるのに必死だったのか、体制は不安定。

 それに胴体もガラ空き。

 こんな絶好のチャンス、逃がす手はないね!


「えーいっ!!」


 バゴンッ!!


『ゴブゥッ!』


「もう一発、くらえっ!」


 ガンッ!!


『グバァ~~~ッ!!』


 私が渾身の力で攻撃すると、ゴブリン・アサシンは断末魔の叫びとともに、ぽふんっ! と煙になったよ。


 同時に、一本のショートソードがドロップした。


「あ、剣だ。ラッキー!」


 私が呟いた次の瞬間。


 わあっ!! と歓声が沸き立って、いきなりのことだったので私の心臓がドクン! と跳ねてしまったよ。


「やった、倒したぞ! 俺たちのチームでゴブリン・アサシンを倒したぞ!!」

「俺、池田さんたちに報告してきます!!」

「ボス撃破……ってことは、あと1時間でダンジョン消滅か。お宝とかあったら早めに手に入れておかなきゃだな」

「よっしゃー! 俺はサポート魔法使ったから、きっと貢献度も上がったはずだぞ!」


 うわぁ~、なんだか夢でも見てる気分だよ。

 こんなにみんなが喜んでくれているだなんて、見ているだけで私まで嬉しくなっちゃうな。


 私がほんわかとした気分になっていると、ギルさんと日向ちゃんが駆け寄ってきた。


「やれやれ、最中さんには驚かされたぜ。作戦の立案のみならず、ボスの撃破まで。ライムスくんとのコンビネーションも抜群だった!」

「最中ちゃん凄いよっ! 私たちってば、攻撃を当てようと必死になっちゃって、アイツが回避得意だってこと忘れちゃってたもん! でも最中ちゃんは避けられることを見越して先手を打ったんでしょ? 最中ちゃん、戦いの才能あるよっ!」

「そ、そうかな? えへへへ、そうやって褒められるとむず痒いというか、ちょっと照れちゃうよ」


 そんなふうに話していると、ぴこんぴこんとスマホから通知音が聞こえてきたよ。


「うん? やけにぴこんぴこん鳴るね?」


 なんだろうと思ってスマホを開くと、そこには『~~さんがチャンネル登録しました」の文字がずらりと並んでいた。


 それどころか、同時接続数は1000人を超えていて、私は今度こそ心臓が止まるんじゃないかって思ったよ。


「な、なにこれ……。えっチャンネル登録も500人超えてるよ!」

「そりゃそうさ。最中さんはレイドクエストのボスモンスターを倒したんだ。それにこのレイドはただのレイドじゃない。最悪の場合このダンジョンはブレイクしてたんだからな」

「うんうん、ギルさんの言う通りだよ。ちょっと大げさに聞こえるかもしれないけど、最中ちゃんは東京を救った英雄だねっ!」

「日向ちゃん、それは本当に大げさすぎるよ。ていうかすっごく恥ずかしいからやめて」

「え、なんでなんで? 恥ずかしがることなんてないじゃん。格好いいよ、英雄」

「だからやめてってばぁ〜~」


 こうして私は、生まれて初めてのバズるという経験をした。


 恥ずかしさとかむず痒さとか、いろいろな気持ちが押し寄せてきたけど。


 とりあえず、このチャンスを無駄にするっていうのは勿体無いよね?


 同時接続者数1000人以上。

 つまり、1000人以上もの人に知ってもらうチャンスなんだ。


 何をって?

 そんなの決まってるじゃんか。


 ライムスの尊さをだよ!


「みんな、今日は来てくれてありがとう! 唐突なんだけど、私のかわいくてぷるぷるでぽよぽよで癒される最高のペットを紹介するよ! じゃじゃーん、天海ライムスくんですっ!!」

 

 私の紹介を受けて、ライムスは元気いっぱいに挨拶をしてくれた。


『ぴきゅい〜〜っ!!』

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