第28話 緊急レイドクエスト・怒りの鉄拳制裁

#


 第3層では、いよいよ結城さんと池田さんも戦い始めたよ。


 二人とも、見た目とバトルスタイルにはギャップがあるね。


 結城さんは高身長な紳士という感じで、装備品も戦闘用のスーツ。武器は片手銃を使っていて、スタイリッシュな印象だね。


 対して池田さんは優雅で美麗。

 舞うように戦いながらも、一撃一撃がパワフルだね。


 踏み込みで地面が抉れているのを見れば、そのパワーは一目瞭然。


 二人の戦闘にコメント欄が盛り上がって、私まで高揚しちゃうよ。


 

 ――――――――――――――――――――

 tomo.77

 <池田さんいいね。流石は元Bランク


 ミク@1010

 <結城さんも格好良い! なんかビリヤードプレイヤーみたい笑


 らんまる

 <あれで探索者として中堅扱いですか。厳しい世界ですね


 通りすがりのLv.99

 <殲滅力が段違いですなぁ


 上ちゃん

 <SランクともなるとAランク相手にこれくらい無双するからヤバいよね


 村人B

 <こうやって見るとライムスくんだいぶ健闘してますね!


 ぱる

 <てかレイドだからか、他の探索者ゴリゴリに映してて草

 

 たなか家の長男

 <ゴブリン・アサシンがボスだからね。俺らも目を光らせておかないと


 ジョン

 <最中さんもライムスくんもガンバ!


 ラズベリー

 <初見です。結城さんの配信と2窓なう


 ラズベリー

 <やっぱレイドは盛り上がるね


 No.13

 <他の探索者も影響されて動き良くなってるよ。いい雰囲気だね!

 ――――――――――――――――――――

 


「よし、私たちももっともっと頑張っちゃうよ! いくよライムス!」

『ぴきゅいっ!!』

「俺たちも気合い入れてくか。ユーリ、遅れ取るなよ!」

「ん……分かってるし」

「私の双剣だって負けないよっ!」


『ゴブフィアッ!!』

『ォヒヤーーッ!!』


 武器と武器がぶつかり合って、魔法と魔法が衝突して。

 

 激しい戦闘を繰り広げながら、私たちは第3層の奥へと進んでいく。


 結城さんと池田さんのお陰で活気づいたこともあって、第3層は第2層よりも早く攻略できたよ。


 それでも、ポーションは使っちゃったけどね……。


「さてと。みなさん聞いてください! いよいよこの先が第4層になります。ゴブリン・アサシンはEランクですが、逃げに特化した性能を持っています。まずはここで10分休息し、それから5つのグループに分かれて第4層を攻略しましょう!」


 休憩が終わると、グループ分けが始まったよ。


 前衛で戦える人、後衛で戦える人、サポートが得意な人、そして私みたいな魔物を使役する人。


 結城さんと池田さんが、それぞれの強みを最大限生かせるようにチームを編成してくれた、のはいいんだけど……。


「ちっ、まさかお前と同じチームになるとな」

「うっ、まさかお兄さんと同じチームになるなんて」


 私が編成されたのは、自称天才のお兄さんのチームだった。


 日向ちゃんとギルさんも一緒だったのは嬉しいけど、その他は知らない人ばかりだね。


 その中に一人だけお面を被っている人がいて、ちょっと気になっちゃう。


 顔を見せられないっていうことは、ひょっとして有名人だったりして?


「このチームのリーダーは経験を積ませる・・・・・・・という意味でも岩崎さんに任せるが、もしさっきみたいなトラブルになったら、その時はギルさんが止めてくれ。それと岩崎さん。さっき天海さんを殴ろうとした一件はちゃんと処罰が降りるから覚悟しておくように」


 池田さんがそう言うと、自称天才――岩崎さんはガクリと項垂れて元気を無くしてしまったよ。


 それにしても池田さんは凄いね。

 

 こんなに探索者の数が多いのに、ちゃんと目を光らせていたんだもの。いつか私もあんなふうに格好良い探索者になりたいなぁ。


 なんて考えていると。


「このチーム、実質的なリーダーはギルさんだね」


 日向ちゃんがポツリと一言。

 その呟きがトドメになったらしく、休憩中、岩崎さんが口を開くことは無かった。




 ――洞窟のダンジョン・第4層――


「ここが最深部か。結構雰囲気あるな」


 辺りを見渡しながら岩崎さんが言う。


 たしかに、第3層までとは違う。

 ただの洞窟というよりかは、鍾乳洞みたい?

 壁にもキラキラとした石が埋まっていて、ちょっときれいかも。


「よし、これから隊列を組むぞ。まずは前衛で戦える俺が先頭を歩く。ギルさん、アンタも見たところ前衛だろ? 俺に続いてくれ。あと、そこの仮面、お前も前衛だ。ちょくちょく見ていたが、なかなかに剣の扱いが上手いからな。で、スライム使い。お前は双剣と一緒に魔法使いを援護しろ」

「うん、分かったよ」

「最中ちゃん、頑張ろうね!」

「うん、頑張って貢献するよ! ね、ライムス!」

『ぴきぃっ!!』

「フン、精々足だけは引っ張ってくれるなよ」

「なにさ偉そうにしちゃって。言われなくたって足手纏いになんてならないよーだっ!」

「……まぁいい。よし、これより進軍開始だ! 絶対に俺たちのチームでゴブリン・アサシンを倒すぞ!!」


 岩崎さんとギルさん、そして仮面さんが前衛を歩いて、私たちは後を追う形で付いていく。


 それから約五分、行進が止まると同時に、金属を叩く音が響いた。


「出たぞ、ゴブリンの群れだ! お前ら、戦闘態勢に入れ!」

「了解! 行くよライムス!」

『きゅぴ~~っ!』


 第4層ともなると種類は豊富で、ゴブリン・アーチャーやゴブリン・ハンマー、ゴブリン・リーダーまでもが出てきたよ。


 魔法使いが遠距離を攻撃してくれるから、私とライムスは近くにいるゴブリンを倒していけばいいね。


「とりゃーっ!」

『ゴブゴブッ!!』


 ガキンッ!


「うっ……!」


 やっぱり3層までとは訳が違うね。

 武器がぶつかるだけで腕が痺れちゃうよ。


「でも、私には作戦があるもんね」

『ゴブゥ~??』

「くらえ、目眩まし攻撃!」


 私は適当な砂利を掴んで、ゴブリンの顔に投げつけた。すると狙い通り、ゴブリンは目を閉じてデタラメに武器を振りだした。


 私はゴブリンの180度後ろに回って、背後から鉄の棒を振り下ろす……って、なんかちょっと物騒な物言いだね?


『ゴブハァッ!!』


 ぽふんっ!


「やった、ゴブリン撃破!」


 ゴブリンを倒した後で、元の立ち位置に戻って、魔法使いさんの援護に就く。


 周囲を見渡すと、日向ちゃんもライムスもゴブリンを倒していたよ。


 岩崎さん、ギルさん、仮面さんも絶好調って様子だね。


「群れは一掃したな。けが人はいないか!? ……よし、けが人はゼロだな。お前たちよくやった! この調子でドンドン進んでいくぞ!」


 と、その時、

 私は視界の端に不自然な動きを捕らえた。


 今回の戦闘で砂埃が巻き上げられて、そのせいで視界に靄がかかってるんだけど、その靄がゆらゆら~って揺れたんだよね。


「もしかして……。えいっ!」


 私は揺れた箇所に攻撃を繰り出す。

 すると――。


『ゴギュァッ!!』

「あ、やっぱり。ねぇみんな、ここにゴブリン・アサシンが――」


 いるよ!

 そう知らせるよりも早く、岩崎さんが凄まじい形相でこちらに迫っていた。


「退けぇええええ、ソイツは俺の獲物だぁあああああああッッ!!!!」

「わ、ちょ、ちょっと!」


 岩崎さんの渾身のタックルは、しかしゴブリン・アサシンには命中しなかった。


 代わりに、岩崎さんの攻撃は私を吹き飛ばしたのだった。


 ドガッ!!!!


「うっ!!」


 うう、痛い。

 咄嗟の判断で頭を守ったから良かったけど、もし判断を間違えてたら大けがしてたかも……。


 起き上がると、岩崎さんが私のことを見下していた。まるで、邪魔者でも見るみたいに。


「なにさ。私が悪いって、そう言いたいの?」

「……言ったハズだ。足だけは引っ張るなと」

「岩崎さん、ちょっと身勝手すぎない? ていうか、こうしている間にもゴブリン・アサシンは私たちを狙ってるかもしれないんだよ? リーダーなら適切な指示を――」

「黙れッ! お前が邪魔しなければゴブリン・アサシンを倒せてたんだ!」


 ああもうっ!

 なんでこの人はこんなに自分勝手なの!?


 私は自分の顔が熱くなるのを感じた。

 でも、必死の思いで気持ちを押し殺す。

 ここで言い争いをしてても意味無いからね。

 

「ったく。お前なんかに使役されるスライムが可哀想だよ。ていうか、お前如きに使役されるようじゃ程度が知れてるか。所詮はスライムだしな、わははっ!」


 ……前言撤回。

 コイツぶん殴ってやる!


 私は決意を固めて握り拳を作った。

 次の瞬間。


 ゴッ!!!!!


「ぐはあっ!?!??」

 

 鈍い音が響いて、私に背を向けた岩崎さんが吹き飛んできた。


「ったく、こんなヤツの下に就かなきゃならん探索者たちが可哀想だよ。ここからは俺がリーダーをやる。異論ある者、いるか?」


 ギルさんが周囲を見渡すも、反対する人は誰一人としていなかったよ。


 そして岩崎さんはその場でへたり込みながら、殴られた頬を抑えて、涙目になっていた。

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