第16話 視聴者が増えたよ!
「いらっしゃいませ~」
電車を降りて、駅構内のダンジョン・ショップに入ると、丸眼鏡の男性店員がカウンター越しに挨拶をくれた。
私はライムスを抱えたまま、カウンター前まで向かうと。
「すみません、配信に必要な機材が欲しいのですが」
「配信ですか。ただいまご案内しますね」
「はい、ありがとうございます」
そうして案内された場所には、たくさんの機械がずらりと並べられていた。
「ところで、どのような配信を行う予定でしょうか? 攻略配信であれば追尾系のドローンが人気ですし、非攻略配信であれば、三脚やスマホスタンドといったものが人気になっておりますが」
「えっと……。そうだなぁ、初心者に人気のドローンカメラが欲しいですね。難しい操作がなくてすぐに配信に使えると嬉しいです。それと、安ければ安いほうが嬉しいな~って。ちょっとワガママですかね?」
「いえ、そんなことはありませんよ。――お客様の要望に応えられるのはこれですかね」
そう言って、男性店員は一つのサンプルを手に取った。
「こちらの商品は自動追尾はもちろんのこと、多彩な配信アシスト機能が人気の一品でして。例えばAIによる個体識別機能を用いれば、未登録の顔の持ち主を即座に配信画面から消去させることが可能になります。つまり、他の探索者を映してしまう心配がなくなりますね。視聴者からすれば余計なノイズが入らなくなるので、お客様の配信だけに集中することができるようになります」
「へぇ~、それはすごいですね!」
私のスマホには自動モザイク機能があったけれど、あれは顔を隠してくれるだけで、画面から消すっていうのは出来ないからね。
「ブレ補正や耐熱防水はもちろん、軽くて頑強な素材で作られているので、ある程度ならモンスターの攻撃にも耐えられます。最高速度は自動追尾モードであれば150km、手動操作モードなら180kmまで出ますよ。そして一番の注目ポイントが緊急避難システムとなっております」
「緊急避難システム?」
緊急避難という言葉は聞いたことがあるけれど、それがドローンに搭載されているというのはちょっと想像が難しい。
私が首を傾げると、男性店員は笑顔で説明を続けてくれた。
なんか前に来た時よりも愛想が良くなってる気がするんだけど、なんでだろう?
「緊急避難システムは、個体識別機能に登録された人物を助けるために搭載された機能です。お客様の体力が残り僅かとなった際、このドローンはそれを感知して、お客様を即座に避難させます」
「え、そんなこともできるんですか?」
「えぇ。最近のドローンは進化していますからね。ちなみにこのドローンであれば、最大積載量は200kgとなっております。成人男性二人程度であれば難なく運べるでしょう。さらに、ボディの内側に張り巡らされたチューブにはポーションを注入できるようになっておりまして、緊急時には自動で注射してくれるのですよ! どうですか、素晴らしい一品でしょう!?」
たしかに、こうやって聞くと購買意欲がそそられるよ。
配信機材といっても、最近のは探索者の命のことまで考えてくれているんだね。
でも、そこまで優れているとなると、やっぱり値段が気になっちゃうよね。
「それで、そのドローンはいくらするんですか?」
「こちらの商品、お値段は70万円となっております」
「な、70万円!?」
うぅ、な、70万円……高いな~。
高いけれど、分割なら買えなくもないっていうのが絶妙なところだよね。
「あの、一応確認なんですけど、一番安い商品でこれなんですか?」
「いえ、一番安いのとなると他の商品もございますよ。ですが、お客様の要望にお応えしつつ、なるべくリーズナブルなモノをとなりますと、こちらの商品が一番オススメですね」
「そう、ですか」
私はライムスを顔の前まで抱き上げた。
「ねぇライムス、どうする? 説明を聞いた感じ、すごく良い商品なんだけど」
『きゅぴーーっ!!』
「……そっか。うん、そうだよね。こんなに良さそうな商品なんだもの、買わない手はないよね!」
「おお、ではっ!」
「はい! そのドローン、ぜひ買わせてください!」
「かしこまりました。では、レジの方までお越しください!」
こうして私は、生まれて初めて高級なお買い物をした。
支払いは月40000の分割20回払い。
手数料込みで約80万もの買い物になったけれど……。
これで本格的にDtuberとしてデビューできるって思うと、悪くないよね?
ドローンの他に、体力回復ポーションも5つ購入したよ。
これで明日の準備は万端だね。
#
そして翌日、日曜日。
今日も、私とライムスはお花畑のダンジョンにやってきた!
ドローンの設定とかスマホとの連携とか、ちょっと難しかったけれど、なんとかうまくいったよ。
「よぉーし、さっそくお掃除開始だ!」
『ぴきゅいーっ!』
今日のタイトルは【ライムスのダンジョン掃除#2】にしたよ。
こうすれば、前の配信のアーカイブを見てもらえるかもしれないからね。
ちなみに今日は配信の設定も変更して、コメントはAIが読み上げてくれるようになったよ。
「あ、さっそくゴミが落ちてる! これは回復ポーションの空き瓶だね。ライムス、あ~ん」
『くゅいっ!!』
ライムスが美味しそうに瓶を丸呑みにして、ぷるぷると揺れる。
すると早速、AI音声が聞こえてきたよ。
――――――――――――――――――――
上ちゃん
<初見。ダンジョン掃除って珍しいな。もなさんは魔物使いかテイマー?
――――――――――――――――――――
「上ちゃんさん、コメントありがとう! いつかはテイマーになりたいな~って思ってるけど、今は無職だよ!」
――――――――――――――――――――
上ちゃん
<はぇ~。っていうかスライムがゴミを食べていくのか笑
村人B
<初見です。スライムタグに釣られてきました
――――――――――――――――――――
「村人Bさんこんにちは~、来てくれてありがとう! 上ちゃんさん、この子はライムスって言って、ゴミも大好物なんだよ!」
『きゅいきゅぴぃっ!!』
――――――――――――――――――――
村人B
<めっちゃ元気ですね! かわええ~~
ミク@1010
<初見~。ちょっと気になったから来てみたよ~
上ちゃん
<ライムスかわいいな笑
tomo.77
<初見です。探索者だけど、ゴミのこととか考えたこと無かったわー
――――――――――――――――――――
うわぁ、昨日とはまるで大違いだよ!
昨日はスマホで直撮りだったしそれが良くなかったのかも?
まさかこんなすぐに人が来てくれるなんて思わなかったよ。
やっぱり【初心者】とか【スライム】っていうのは一定の需要があるのかな?
「ダンジョンって意外とゴミ多いんだよね~。あっ、またゴミ発見! はいライムス、ご馳走だよ~」
『きゅゆー!』
ライムスがぱくぱくとゴミを食べると、「かわいい~」といったコメントが読み上げられていく。
私はそれが嬉しくて、親バカなのは分かってるんだけど、つい賛同してしまう。
「分かる分かる、ライムスってば超カワイイよね! もう世界一って感じ?」
――――――――――――――――――――
村人B
<親バカすぎて笑いました
上ちゃん
<いっそのこと清々しいまである
ミク@1010
<ふむふむ、もなさんはこんな感じね
村人B
<でも実際かなり可愛いです! あと、ゴミを美味しそうに食べてるのがシュールで面白いです笑
tomo.77
<ライムスにっこにこやん
――――――――――――――――――――
「親バカなのは認めるけど、仕方がないよ。だってライムスが可愛すぎるんだもん。ねー?」
『ぴきゅいっ!』
私がライムスをナデナデしてあげると、ライムスは『当然でしょ!』と言いたげに見上げてきた。
そんな仕草が可愛くて、さらにナデナデしてしまう。
「んもぉ、ライムスってば反則級の可愛さだよぉ~~!」
――――――――――――――――――――
No.13
<おー、通知来たから来てみたら登録者増えてるじゃん。もなさんおめでとうだねー。この調子で登録者増えていくといいね、応援してるよ! それとライムスくんホントにかわいいね。見てると癒されるよ
――――――――――――――――――――
数分後にはNo.13さんまで来てくれて、私は嬉しくなって、どんどんと調子を上げていった。
「ライムス、この調子でどんどんお掃除していくよっ!」
『きゅぴゆぃっ!!』
モンスターを倒して、ゴミを掃除して。
あまりにも配信が楽しかったもので、あっという間に時間が過ぎて、気がついたらお昼になっていたよ。
「ライムス、そろそろ休憩にしようね」
『きゅぴー!』
私は配信をつけたまま、休憩スペースのほうへと歩いていった。
お昼はダンジョン飯の配信だよ!
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