第15話 初めてのチャンネル登録者!
「うぅ~ん。分かってはいたけれど、ダンジョン配信ってなかなかに難しいものだね」
今日のダンジョンは、辺り一面にお花畑が広がっていたよ。
他には、ずっと遠くまで伸びる川が見えるけれど、本当にそれだけ。
全体的に開けているから……だから、他の探索者の姿も画面に映っちゃうんだよね。
幸い、私のスマホにはリアルタイムでモザイクを入れてくれる機能が搭載されていたから良かったけど。
でも、自分の配信に他の人が映るっていうのは少し気になっちゃうね。
そしてもう一つ気になるのは視聴者数だね。
さっきからずっと0と表示されていて、たま~に1とか2になったりするんだけど、やっぱりすぐに0になっちゃう。
「でも、最初はみんなそうだったんだろうなぁ」
ダンジョン配信だけじゃない。
勉強だって仕事だって、探索者として強くなるのだってそう。大事なのは地道な積み重ね。
だから、視聴者が少ないからって挫けてられないよ。
私の場合は少ないというかほぼ0人なんだけど、それを意識すると悲しくなっちゃうからやめようね。
『ぴきゅきゅいっ!』
「むっ……」
ライムスに教えられてスマホから視線を切ると、そこにはゴブリン・フラワーがいた。
ゴブリン・フラワーは普通のゴブリンより少しだけ背が低くて、頭からお花が咲いているよ。
可愛らしい見た目だけど油断は大敵。
やっぱりこん棒攻撃は強いし、何より、他のゴブリンとは違う特徴がある。
花粉を飛ばして仲間を呼んだり、太陽の光で体力を回復させてみたり。
初心者にとってはなかなか厄介だと言われているよ。
天候や気温は難易度が低ければ低いほど快適と言われていて、F難度のダンジョンはほとんど全てが快晴。
ゴブリン・フラワーにとっては有利なフィールドってわけだね。
「みんな見て、ゴブリン・フラワーが出たよ!」
私は視聴者0人のスマホ画面に向かって語り掛ける。
なんか、モンスターに殴られるよりこっちのほうがダメージあるかも……。
「カメラマンがいないから戦いは映せないけど、頑張って倒すから応援してねっ!」
ぅぅううう~~、苦しいぃ~~!
胸が苦しいよぉ!!
まさか視聴者数0がこんなにメンタルに来るだなんて思わなかったよ。
そりゃ最初から100人も200人も見に来てくれるとは思わなかったけどさ、5~6人くらいならって思ってたんだよぅ。
現実って厳しいや……。
このモヤモヤはゴブリン・フラワーを倒して発散するしかなさそうだね!
私はスマホをポケットの中に入れて、ゴブリン・フラワーに突撃した。
これなら画面は見えないけど声は聞こえるから、一応は配信の体を成している……よね?
「とりゃーーーっ!!」
『ナハハーーッ!!』
ギィィンッ!!
こん棒と鉄の棒がぶつかり合って、鈍い音が周囲一帯に響き渡る。
そして、ゴブリン・フラワーのこん棒がぐるぐると回転しながら吹き飛んでいった。
普通のゴブリンよりも更に小さいから、鉄の棒の振り幅が大きくなって、攻撃力も上がったみたいだね。
『ナヒャッ!?』
「くらえ、えいっ!!」
『ナーーーーッ!??』
ぽふんっ!
「やった、ゴブリン・フラワー撃破!」
『ぷゆぃーーっ!!』
「よーし。それじゃライムス、ゴミ掃除再開だよ!」
『ぴきゅぅっ!!』
と意気込んだ矢先。
またもやゴブリン・フラワーが。
しかも今度は2匹も出てきたよ。
『ナハッ!』
『ゴブナーー!!』
「うっ、またゴブリン・フラワーなの? お花畑のダンジョンだから、ゴブリン・フラワーも多いのかな? とにかく、倒すしかないね!」
『ぴきぃーーーっ!!』
「はぁ、はぁ、はぁ……。いくらなんでも多すぎでしょ! でも、これであらかた片付いたかな?」
結局、あれから10体近くものゴブリン・フラワーを倒してしまったよ。
おかげでレベルが1上がって6になったのは嬉しいけどね。
でも、全然ゴミ掃除配信ができないな。
音だけの配信じゃ視聴者なんて増えるわけないし。
うーん、どうしよう?
別のダンジョンを探してみるというのも一つの手だけれど……。
そんなふうにして考えあぐねていると。
ぽんっ! と軽快なメロディがスマホから聞こえてきて。
「えっ?」
私はポケットの中からスマホを取り出して、画面を見やる。するとそこには――。
――――――――――――――――――――
No.13
¥200
<鳴き声だけだから確証はないけど、敵はゴブリン・フラワーっぽい? 近くに川があるなら、水撒きをしてみるといいよ。花粉が飛びにくくなって仲間も増えづらくなるからね。それにゴブリン・フラワーは背が低くて泳ぎも下手だから、川を怖がる個体が多いよ。参考になれば幸いです
――――――――――――――――――――
え、え、えぇーーーーーっ!??
こんなグダグダな配信でスパチャ貰っちゃったよ!?
これ現実!?
夢じゃないよね!??
「うわあぁ、No.13さん、200円もありがとうございます! アドバイスに従って川のほうに移動してみますね!」
――――――――――――――――――――
No.13
<うん、頑張って。それと、やっぱり配信は画面が映ってたほうがいいと思うよ。最近はドローン式の追尾カメラもあるから、そういうものも購入してみるといいかもね? ローンも組めるし。じゃ、自分はちょっと忙しいからここで失礼します。チャンネル登録と高評価だけしておくよ。応援してます~
――――――――――――――――――――
「なっ、なんて良い人なんだ! No.13さん、本当にありがとぉ~! ちょっと挫けそうだったけど、私頑張るよっ!!」
アドバイス通り川沿いにやって来た。
川水を両手で掬って周囲に撒いていく。
それを繰り返していると、ピタリとゴブリン・フラワーの姿が見えなくなったよ。
「わぁ、こんなにも効果が出るものなんだね」
『きゅぴーーっ!!』
「あっ、そうだね。これでゴミ拾いが再開できるね! ライムス、頑張ってダンジョンをきれいにしようね!」
『きゅるぃっ!!』
そして私はまたもや視聴者数0になった画面に向けて語り掛ける。
ダンジョンには想像以上のゴミが落ちていること、それなのにほとんどの探索者が見て見ぬフリをしていること、そしてそれがどうしても許せないこと。
誰に聞かれるわけでも無い。
そうと分かっているのに、さっきよりもすらすらと言葉が出てくる。
間違いなくNo.13さんのお陰だね。
【ダンジョン・デイズ】の視聴者の中には【初配信】のタグを見つけては片っ端から投げ銭をしていく人がいる。
そういう人をアプリ内では”ブースター”って呼ぶんだけど、たぶんNo.13さんもその一人だよね。
そう考えると私は運が良かったよ。
【初配信】タグをつけていても絶対にブースターと出会えるわけじゃないからね。
「さて、今日はここまでにしようか。帰ったらいろいろと反省しなきゃだな~。初配信だから仕方ないとはいえ、かなりグダグダになっちゃったし」
『ぴきゅぅっ!』
「ん? 少しずつ上手くなればいいんだよって? も~、ライムスは優しいなぁ」
私はライムスを抱きしめて、すりすりと頬ずりをした。
ライムスはくすぐったそうに目を細めながらも、私と触れ合えるのが嬉しいみたいで、ぷるぷると弾んで喜んでくれたよ。
ふふっ。ライムスってば、本当にかわいいんだから。
あまりにもかわいいものだから、たまにぱくっ! て食べたくなっちゃうんだよねぇ。
そんなことしたら嫌われちゃうから、絶対にしないけど。
「それじゃ帰ろっか」
『きゅぴぃっ!』
かくして私の初配信は終わりを迎えた。
まだまだ改善点は多いけれど。
全然うまくいかなかったことも多かったけれど。
でも、たった一人だけど、私のチャンネルを登録してくれた。
チャンネル名【もなチャンネル】。
今日、私が作った配信専用のアカウントだよ。
チャンネル名の横には『1』という数字が表示されている。
この『1』を少しずつ増やしていけたらいいな。
そんなことを考えながら、私はライムスを抱きかかえて、夕日に染まる帰路をてくてくと歩いていった。
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