第13話 ダンジョン配信、ちょっとやってみようかな?

 翌日、早朝。


 息苦しさとぷるぷる感を感じて目を覚ますと、例のごとくライムスが私の顔の上に乗っかっていた。


『きゅるぃ!!』

「ふわあ。おはよ、ライムス」

『きゅぴぃっ!!』

「うん、分かったよ。すぐに朝ごはん準備するから、先に待ってて」

『ぴきゅっ!』


 ライムスが去ったあとで、私は身を起こして、う~んと伸びをした。それからいつものように布団を整えて、居間に向かった。


 今日はトーストと目玉焼き、それからウィンナーと適当な野菜の盛り合わせを朝食にしたよ。


 たまにはこういうのも悪くないね。


 ライムスにはクリームパンを食べさせたけど、目をうるうるさせながらウィンナーを見つめていたので半分分けてあげると、すごく喜んでいた。


「はぁ、美味しかったぁ。ごちそうさまでした~」

『きゅいー!』

「待ち合わせの時間は10時だから、まだ1時間くらいは暇があるね。ちょっとお散歩してから行こうか?」

『ぴゆぅ!』


 あ、今のは過去一番で分かりやすいね。

 露骨に『行く!』って言ったもの。




 待ち合わせ場所に指定されたのは、二駅先の大公園。


 ギルさんたちと初めて出会ったのは噴水広場のホールだったけど、そこはもう攻略されて、ホールが消えちゃったみたいだね。


 それで、今度は別の区画にホールが出現したから、そこで待ち合わせということになったよ。


 私とライムスは散歩がてら駅まで歩いて、それから電車に乗って、公園までやって来た。


 待ち合わせ場所に到着すると既にケンジくんが待っていた。


 ケンジくんは私たちを見つけると、ぶんぶんと大きく手を振ってくれた。


「おはようございます」

「おはようございます。今日はお誘い頂きありがとうございます」


 ケンジくんは前に出会った時と同様、部分鎧で身を覆っていた。


 でも今日は金髪じゃなくて銀髪になっていた。


「ケンジくん、その髪は?」

「これですか? ただのイメチェンですよ。どうです、似合ってます?」


 自慢じゃないけれど、私はそんなに美的センスがあるほうじゃない。でもそんな私から見ても、ケンジくんはイケメンに分類されると思う。


 絵に描いたような優男系っていうのかな?


「うん、すごく似合ってると思いますよ」


 素直に褒めると、ケンジくんは少し照れたように笑ってから、今度は私の服装を褒めてくれた。


 白シャツにジーンズとシンプルなものを選んできたけど、褒められると嬉しいね。


「最中さんもお似合いですよ。そうですね、もしよかったら今度二人でデートでも――」


 え、え、えええ~~!?

 ケンジくん、真面目そうな見た目なのにすごい積極的!?


「オイ、お前はタダでさえ面が良いんだから揶揄からかうんじゃない」


 あたふたしていると、ちょうどギルさんたちも到着したみたい。


 ギルさんはべしっ! とケンジくんの頭に手刀を繰り出す。


 ギルさんは黒のTシャツに迷彩柄のパンツ、そして黒のロングブーツという格好で、見るからにファイターって感じがするよ。


「別に揶揄ってなんかいませんよ。僕はそういう不誠実なことはしませんから」

「モナカちゃ~ん、やほやほー。いやー、ウチのバカがごめんねぇ? コイツ面の良さを鼻に掛けてすーぐ調子乗るから。あとで躾とくねっ」


 今日のミレイちゃんは赤髪をサイドに結いつけて、バッヂ付きのキャット帽を被っていた。

 

 服装は、オーバーサイズの黒パーカーで、肩の部分から胸部にかけて青色のラインが引かれている。


 首元にはヘッドホンを掛けていて、全体的にサイバーパンク風だね。これがすっごく似合ってて、まるでモデルさんかと思っちゃったよ。


「モナカちゃん、おはよ……。ケンジはいっつもこんな感じ。あんま気にしなくていい……」


 そしてユーリちゃんは前のミレイちゃんと瓜二つの恰好だったよ。


 タンクトップにウィンドブレーカーのパンツ、そして上着を腰に巻き付けて、あとはミレイちゃんとお揃いのバッヂ付きキャップとヘッドホン。


 同じサイバーパンク風のファッションで顔もそっくりな双子ちゃんだけど、こうも印象が変わるんだねぇ。


「二人ともありがとう、でも大丈夫。むしろユーモアがあって面白いなぁ~っ思ったくらいだよ。見た目はこんなに真面目・・・そうなのにね。これがギャップってやつなのかな?」


 すると途端に大爆笑が巻き起こって、ケンジくんはガクリと肩を落とした。


「真面目……真面目系か。はは、まぁそうですよね。うん、自分が真面目系なのは僕が一番よく分かってますよ。丸眼鏡だし…………」


 アレ、なんか酷いこと言っちゃったかな?


 私の不安を察してか、ギルさんが満面の笑顔で親指を立ててきた。


「ケンジは真面目って言われ続けてきたからな。それでチャラ男に憧れてるんだ」

「ああ、そういうことですか」


 思わず、私も苦笑してしまった。




 休憩スペースは、今日も賑わっていた。

 既にいい匂いが充満していて、そんなに激しい運動をしたわけでもないのにお腹が空いちゃう。


 ここに来るまでに10匹近いモンスターが出たけど、全部ギルさんがグーパンで倒していた。流石は冒険者歴10年の実力者だね。


『きゅるるぃっ!』


 ライムスもご馳走にありつきたくて必死にアピールする。

 そんな姿に、場の空気がほわあ~と和んだ。


「よし、今日はここにしよう。もう網も取り換えられてるしな!」


 ギルさんは適当なバーベキューコンロを見つると、スタスタと木小屋のほうに歩いて行った。


 戻ってくる頃には両腕にパイプ椅子が引っかけられていて、それにも関わらず3段重ねの段ボールまで抱えていた。


 見た目通り、すごいマッスルパワーだね。

 

「おし、必要なモンはこれで揃ったな。ミレイ、俺が炭入れたら点火頼むぞ」

「任され~~」


 ギルさんが炭を入れて、ミレイちゃんが魔法で点火した。


 ところでお肉とか野菜はどこにあるんだろう?

 そう思っていると、ユーリちゃんがふふんっ、と鼻を鳴らした。


「私、収納魔法使える……。あんまり多すぎると辛いけど、これくらいなら、全然ヨユー……」

「わぁ、ユーリちゃんすごい!」


 私は思わず抱き着いてしまった。

 慌てて離れると、ユーリちゃんの顔が真っ赤になっていた。


 青髪ってこともあって、なんかライムスに重ねちゃうんだよなぁ。


「わわっ、ユーリちゃんごめんねっ?」

「別に、ヘーキだよ……」


#


「はぁ~、幸せぇ~~」


 お肉や野菜は、ギルさんが焼いてくれたよ。

 私も手伝おうとしたんだけど……。


「肉とか野菜とか焼いてるとちょうどいい具合に熱が来るんだよ。すると汗が流れてな。不思議なモンで、ビールってのは汗かいてる方が美味いんだよなぁ。ってワケで、最中さんもライムスも遠慮せずじゃんじゃん食ってくれ!」

「そうですか。ギルさん、ありがとうございます」

「なぁに、良いってなモンよ!」


 柔らかいお肉に、シャキシャキのピーマンやもやし、そして肉厚のシイタケに、今日は魚介類まで出てきたよ。


 私はホタテ貝にバター醤油をつけて、ぱくっと一口。


「ん~~~っ!!」


 きっと幸せっていう気持ちに味があるとしたら、こんな味なんだろうな~。


「美味しいね、ライムス!」

『ぴきゅきゅぅっ!!』


 ふふっ、ライムスも大喜びだよ。

 みんなでワイワイできるのが楽しいんだろうね。


 そうやってダンジョン飯を楽しんでいると、ふとギルさんが聞いてきた。


「そういえば、最中さんは配信とかはしないのか?」

「あっ、それ僕も気になってました。こんなに可愛くて素早いスライムがいるんだから、映えると思うんですけどね」

「分かる……。ライムスちゃん、マジカワ。極まってる……」

「え、ど、どうなんですかね。ダンジョン配信を見るのは大好きですけど、配信する側っていうのは……」

「まっ、無理強いはしないけどね。でも、ダンジョン配信は楽しいよ~? やり始めたらクセになっちゃうくらいだし。そーだギル、アンタ今から配信してみたら? モナカちゃんはゲストってことで」


 え、ええっ!?

 私がゲスト??


「ははは、そりゃいいな! でも最中さん次第だな。どうだい最中さん、俺たちのチャンネルに出てみないか? 意外かもしれないけど、俺たちのチャンネルって結構人気あってな。なんと、チャンネル登録者数30万人もいるんだぜ!?」

「さ、30万!? うぅ、ごめんなさい。気持ちは嬉しいですけど、30万人もの方に見られるっていうのは、ちょっと心の準備が……」

「そうかいそうかい。いやまぁ、そりゃビックリするよね。でも気が変わったらいつでも連絡くれていいからね。この前もみんなで話したんだけど、モナカちゃんって今時にしてはすごく素直でいい子じゃない? もうウチらすっかり気に入っちゃってさ」

「そ、そうかな?」

「うん……、モナカちゃんはすごくイイ人。だって、普通はゴミ拾いなんて手伝わない……」


 うぅー、なんだか照れちゃうなぁ~。

 でも、こうやって褒められるのは嬉しいね。


「はい、最中さん。いい具合に焼けましたよ」

「あ、ありがとうございます」


 うん、やっぱり最高の焼き加減だね!


「このままじゃギルさんの焼いたお肉しか食べられないかも」

「オイオイ、あんま嬉しいコト言ってくれるなよ? 俺ってばチョロいからな、すぐ惚れちまうぜ?」

「えぇ、それは困る……かもしれません」

「はっはっは!! ケンジ、俺たち二人とも仲良く撃沈だな!」

「いや、僕まで巻き込まないでください」


 そんな二人のやり取りを見て、私と双子ちゃんは顔を見合わせて笑った。


 楽しい時間はあっという間に過ぎ去って、今日も解散の時間がやって来た。


「ライムス、今日も楽しかったね!」

『きゅぴぃ~~っ!』


 帰路の途中、私はライムスと話しながら、考え事をしていた。


 ダンジョン配信者。

 今までは一視聴者として楽しんでいて、自分が配信する側になるなんてことは考えてもいなかったけど……。


「ちょっとやってみようかな……?」



 


 

 


 



 

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