第12話 レベル上げをしよう!

 フロア案内に従って10階までやってきたよ。


 エレベーターを降りて廊下を歩くと、右手側にステータス測定と書かれた表札が見えてきた。


 部屋はけっこうな広さで、金属を探知するゲートみたいなのがいくつも並んでいた。


 でも平日だからか、他の探索者は数えるくらいしかいないね。


 入口近くには受付カウンターが3つあって、そこで手続きを済ませるみたいだね。


「すみません、ステータスの測定に来たのですが」

「測定ですね。探索者カードはお持ちですか?」

「いえ、持ってません」

「では、こちらの書類に記入をお願いします」


 私は書類に名前と住所と電話番号、それから勤務先の会社と会社の電話番号を記入した。


「ありがとうございます。それでは1番ゲートへどうぞ~」


 言われたとおり、1の表札が出てるゲートに向かう。


 ゲートの通過部分には足跡のマークがあって「ここで止まってください」と書いてある。


「これでいいのかな」


 足跡マークの上に立つと。

 するとゲートの上から赤いレーザーが照射されて、ゆっくりと下に降りてきた。


 ダンジョンショップでアイテムを売った時と似てるね。

 なんだか査定されるアイテムの気分……。


 レーザーが私を通り過ぎると「お疲れさまでした」と機械音声が話しかけてきて、いきなりだったから、ちょっとビックリしちゃったよ。


 それにしてもすごいね。

 たったこれだけでステータスを測れるんだ。


「すみません、ステータスの測定が終わったのですが」

「はい、お疲れさまでした。ではこちらのカードをお受け取りください。こちらはステータス・カードといいまして、天海様のステータスが記載されています。ステータスはレベルの上昇に伴って変化しますので、レベルの上がりやすい初心者の内は、定期的な更新を心がけてくださいね」

「分かりました、ありがとうございます」

「では、よい探索者ライフを」



 これがステータス・カード。

 う~、なんだかドキドキしちゃうなぁ。


 ロビーに戻ってきた私は、ステータス・カードの裏面を眺めながら悶々としていた。


 どうせ大したステータスじゃないってのは分かってるんだけどね。


 でも、ステータスっていうのは自分の能力が可視化されるってことだから、やっぱり緊張しちゃうよね。


 でもウジウジしてたって数字が大きくなるわけでもないんだよなぁ。


「……えいっ!」


 私は意を決してステータス・カードをひっくり返した。


 ――――――――――――――――――――

 天海最中あまみもなか:Lv3 女 22歳

 HP40

 MP10

 攻撃力10

 防御力9

 魔法攻撃力8

 魔法防御力8

 素早さ25

 職業:無し

 ――――――――――――――――――――


「ふ、普通だ……」


 あまりにもLv3のステータスすぎる。

 いやまぁ、Lv3のステータスなんていま初めて見たんだけどね。


 でも、こうやって自分の強さが数字になるのはモチベーションが湧いてくるな。


 どこまで数値が伸びるか?

 これからの楽しみが一つ増えたね。


#


 温泉宿に戻ってライムスを迎えに行くと、ライムスがすごい大はしゃぎですっ飛んできた。


『きゅるぴーーーっ!!』

「わわっ!? ライムス、すごい元気だね??」

『くゅう! きゅーっ!!』

「え? お友達ができたの?」


 どうやらライムスは、他のモンスターと遊んでいたみたい。


 職員さんはライムスのあとを追って、こちらへやってきた。


「いやぁ、ライムスくんは元気な子ですねぇ。すごく社交的な性格で、あっという間に他の子と仲良くなってましたよ」

『きゅるぃっ!!』

「へぇ~、すごいねライムス!」

『きゅぴきゅぃ~!』

「ん? ここにいる子はみんな友達だって? そっかそっか。ライムスに友達ができて私も嬉しいよ~」


 ゴブリンにミニ・ワーウル。

 ミニ・ゴレムにスライム。

 それからナイトにゴロゴロ岩。

 

 みんな紋章がついてるから、テイムされた子なんだね。


 テイムされたモンスターはステータスも伸びるし、飼い主に対する愛情や忠誠心がより一層深くなるって言われてるよ。


 私もいつの日かテイマーになって、もっともっとライムスとの絆を強くしたいな。


「それじゃ帰ろっか、ライムス」

『ぴきゅいーっ!』

「8時から14時……6時間のお預かりですので、6000円になります」

「はい。ありがとうございました」


 私は職員さんにペコリと一礼して、ライムスを抱きかかえて、帰路に就いた。


#


「よぉーし、今日はレベルを上げるよっ! ライムス、本当に危なくなったとき以外は手助け無用だからね!」

『きゅいっ!!』

「それじゃ探索開始だ!」


 今日のダンジョンは砂地が広がっていて、ホールを潜るとすぐにモンスターの姿が見えた。


『ゴブゴブ! ゴブー!』

「今週はいつにも増して激務だったからね。悪いけど、ストレス発散させてもらうよ! とりゃーーっ!!」


 たった一日早上がりしただけなのに、そのあとの4日は地獄だったよ。


 なにかにつけて「月曜早上がりしたんだから」って嫌味を言われるんだ。


 ほんっと、岡田さんなんて大嫌い!


『ゴブーーーッ!!』

「やあっ!!」


 ガキィン!


『ゴブッ!?』

「いまだ、てやー!」

『ゴブギャ~~ッ!!』


 私の攻撃を受けて、ゴブリンがぽふんっ! と煙になった。


「やった、ゴブリン撃破!」

『きゅるう!』

「ふふっ、おめでとうなんて言ってくれるのライムスだけだよ! さぁ、この調子でどんどん行くよ!」

『きゅぴぴぃ~~っ!!』


 私はモンスターを見つけると、ボールを追いかける犬のように突撃していった。


 もちろんゴミ掃除も忘れずに同時並行だ。


「ってコレ、どこからどう見ても家庭ゴミだよね?」


 そこには燃えるゴミ専用の色付きのゴミ袋が捨てられていた。


「どういうことだろう? もしかして、ダンジョンをゴミ捨て場代わりにしてる人がいるってこと??」


 もしもそんな人がいるなら、絶対に許せないんだけど!


『ぴぃっ、ぴきぃ!』

「あっ、ごめんごめん。いま食べさせてあげるね。はい、あ~~ん」

『きゅいぃ~~!』


 ライムスは燃えるゴミを丸呑みすると、嬉しそうにぷるぷると弾んだ。


 その姿があまりにも愛らしくて、あっという間に怒りがすっ飛んでしまう。


「もぉ~、どーしてライムスはそんなに可愛いのかな~?」

『きゅるぴぃ!』

「僕がライムスだから? あははっ、それ100点満点の答えだよ!」


 そんなふうにじゃれあっていると、今度はゴブリン・ライダーが現れた。


 スライム族を捕まえて、その上に跨りながら戦うゴブリン。それがゴブリン・ライダーだよ。


 ランクはFだけど、普通のゴブリンよりもスピードが高いのが特徴だね。


「よーし、キミも私の経験値にしてやる! いくよっ!」

『ゴブピキィーーーッ!!』


#


「ふう。今日はここまでだね」


 17時まで探索を続けて、私のレベルは2つ上がった。


 あと5つ上げれば試練を受けられるから、なんとか頑張りたいね!


 と、その時。

 私のスマホがぴこん! と通知を受け取った。


 アプリを開くと、そこにはギルさんの名前が。



 ――――――――――――――――――――

 ギル

 <やぁ、この前は掃除を手伝ってくれてありがとう。明日、また前と同じメンツでダンジョン飯しようと思うんだが、よかったら最中さんも来ないか?

 ――――――――――――――――――――



「うわぁ、ギルさんからだ! まさか本当に連絡くれるなんて思わなかったよ」


 今まで「また遊ぼうね~」って口で約束しても、お互い忙しかったりして、なかなか約束を守れたことは少ない。


 だから、こうやって誘われるのはすごく嬉しいな。



 ――――――――――――――――――――

 モナカ

 <お誘いの連絡ありがとうございます。ぜひ、伺わせていただきます!


 ギル

 <オッケー! 詳しい場所や日時についてはあとでケンジから連絡いくはずだから、待っててくれ。それじゃ、明日会えるのを楽しみにしているよ


 モナカ

 <はい、私も楽しみにしてます!

 ――――――――――――――――――――



「ライムス、明日はダンジョン飯だよ!」


 ダンジョン飯。

 その言葉を聞いて、ライムスは独楽こまみたいにくるくると回った。


 ライムスがこんなにも嬉しそうにするものだから、つい私も嬉しくなってしまう。


 ふふっ、明日が待ち遠しいね。

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