第2章 最中と魔物使いの試練編

第11話 イレギュラー調査

 ※前書き

 時系列について少しだけ説明しておきます。

 【第9話 偽りの英雄(伊藤真一視点)】は最中から見ると2週間後の出来事になります。

 ――――――――――――――――――――


#


 お風呂を上がったあと、私とライムスは大食堂にやってきた。


 私は券売機で天ぷら蕎麦と生ビールを買ったよ。


「ライムスはどれにする?」


 私はライムスにメニューの写真を見せて、指を差していった。


 私がソフトクリームを指差すと、ライムスはそこできゅぴっと鳴いたよ。


 分かってはいたけど、やっぱり甘いのが食べたいみたいだねぇ。


「ライムスの分はこのアイスクリームにするね?」

『ぴきーっ!』




「それじゃ、いただきまーすっ」

『ぴぃ~!』


 まずはそのままの蕎麦を一口。

 ん~まぁ~~い!

 

 何を隠そう、蕎麦は私の大好物なんだよね~。

 

 このつるつるとした触感と噛み応え、そして程よい麺の細さ。麺に絡みつくつゆも絶妙で堪らないね。


 蕎麦って本当に無駄が無くて完璧だよね。

 食べ物版の黄金比って言うのかな?

 よく分からないケド。


 次は海老天とネギも一緒に。


「はふはふ」


 きゃーー!

 ザクザクとシャキシャキが共存して病みつきになっちゃいそうだよ!


「やっぱりライムスと一緒に食べると美味しいね!」

『きゅいきゅい!』

「あーっ! ライムスったら、お口にアイスがついてるよ? こっちおいで、拭いてあげる」

『きゅるんっ!』


 ハンカチで口元を拭いてあげると、ライムスがくすぐったそうに目を細める。


 そんな仕草が可愛らしくて、私はついついイジワルしたくなっちゃう。


「それっ、こちょこちょ~」

『きゅいっ、きゅぴぴぃ~!』


 あー、幸せだなぁ。

 こうやってライムスと一緒にいられるだけで、こんなにも幸せだ。


 おかげで明日からも頑張れそう。

 私に元気をくれてありがとうね、ライムス!



 翌朝。


「それじゃ行ってくるからね。いい子にしてるんだよ?」

「きゅいっ!」


 この温泉宿にはモンスターを預けておける場所があるよ。


 私はライムスを預けて、職員さんに頭を下げた。


「もう食券は買ってあるので、お昼はこれを食べさせてあげてください」

「畏まりました。責任をもって預からせていただきます」

「はい、お願いします!」


#


 よーし、今日も頑張ろう!


 私はライムスからもらった元気を糧に、一生懸命に仕事に打ち込んだ。


「おい天海。これ昼までに片付けとけ」

「あっ、ハイ。分かりました」

「いいか、昼までだからな。昼までに終わってなかったらド突き回したるから覚悟しろよ?」

「は、ハイ! 頑張りますぅっ!」


 私は岡田さんに言われたとおり、昼までに書類を片付けた。


 それを報告すると、岡田さんから意外な言葉が飛んできた。


「なら今日はもう上がっていいぞ」

「へ? でも、まだ12時前ですよ?」

「んなこと分かってるよ。でも、お前宛てにコイツが届いててな」


 私は岡田さんから手渡された書類を読み上げてみた。


「えーと? 東区の河川敷に出現したF難度ダンジョン、指定番号411ホールについて、イレギュラー調査の協力依頼……って、なんですかコレ?」

「知るか。とにかく、その書類はお前に宛てられたものだ。15時までに探索者協会東支部まで来いってお達しだから、サボらずに行けよ」


 なんだかよく分からないけど、行ってみるしかなさそうだね。


「分かりました。それじゃ今日はお先に失礼しますね」

「おうよ。明日からまた残業だから覚悟しとけよ~」

「あ、ハイ。ふへへ……」


 そりゃそーなるよねぇ。

 でも今日はラッキーってことで、早上がりさせてもーらおっと。


 私はオフィスに戻って、隣席の須藤さんに挨拶してから、会社をあとにした。


#


 私は会社から一本先の駅で降りて、探索者協会東支部までやってきた。


「あの、すみません。天海という者なのですが」


 受付カウンターで声を掛けると、黒スーツの女性が対応してくれた。


「天海さんですね? ご用件はなんでしょう?」

「あの、私宛てにこんな書類が来てまして」

「イレギュラー調査の協力依頼ですか。少々お待ちください」


 受付のお姉さんに促されて、ソファに腰を降ろした。それから僅か数分で、一人の男性がこちらへやってきた。


 背が高くて筋肉でスーツもパツパツ。

 金色の髪をオールバックにしたその人はニコニコと笑みを浮かべていた。


「天海さんですね? わたくし、こういう者です」

「どうも初めまして。天海最中と申します」


 名刺を受け取ると、そこには土門一郎どもんいちろうとあった。


 土門さん……。

 うーん、どこかで聞いたような?

 ダメだね、全然思い出せないや。


「本日お越しいただいたのは、そちらの書類にあるとおりでして。例のダンジョンの参加者名簿を調べたところ天海さんの名前もありましてね? 既にイレギュラーの討伐者は分かっているんですが、一応お話を伺っておいた方がよいかと判断しまして」

「はぁ……」

「ま、そんなに緊張しないでください。いくつか質問して、それに答えてもらうだけですから。念のため天海さんとの会話を書類に起こさせていただきますが、よろしいですか?」

「あ、ハイ。それは大丈夫です」


 うう、なんだか刑事ドラマとかで見る取り調べみたいだね。緊張しないでくださいって言われても難しいよ。


「えー、ではお話を聞いていくんですけども。天海さんは先週の土曜日、指定番号411ホールを潜り、F難度ダンジョンに挑戦した。これは間違いないですね? ちなみに指定番号411ホールというのはコレですね」


 土門さんが一枚の写真を差し出してきた。

 

 うん、確かに間違いない。

 自宅近くの川辺と、そこに出現したホール。

 先週、私とライムスが挑んだダンジョンだよ。


「はい、間違いないです」


 私が肯定すると、受付のお姉さんがバインダー片手にペンを走らせていた。お姉さんは私の視線に気づくと、ニコッと微笑んだ。


 おかげで、ちょっとだけ緊張が解れたような気がするよ。


「では次ですね。探索を開始してから、何かおかしいなー? と違和感を覚えたりはしませんでしたか?」

「違和感……? それなら心当たりがあります」


 すると土門さんは興味深そうに身を乗り出してきた。


「ほほう。それはどんな?」

「私が探索を開始してしばらく経った頃ですかね。ふと気付いたんですよ。そういえば他の探索者もモンスターも見てないな~って。それで、ペットのスライムにもおかしいね〜って言って……」

「なるほど。おそらくその時にイレギュラーが出現していたのでしょう。ところで、ペットのスライムというのは、天海さんの名前の下に記載されていたライムスのことですね?」

「はい、そうです」

「で、他には何かおかしな点はありませんでしたか?」

「いえ、特には。違和感と言えばそれくらいです。基本的にはゴミを掃除して歩いてただけですしね」

「……ゴミ掃除?」

「あ、ハイ。私がダンジョンに来たのは、ゴミを掃除するためだったので」

「へえ、それはまた変わってますねぇ。ま、人の活動にとやかく言うつもりはありませんが。それでは最後の質問です。天海さん、あのダンジョンでイレギュラーと遭遇しましたか?」


 私は首を傾げた。

 だって質問の意味がよく分からないんだもん。


「あの、イレギュラーに遭遇したら普通は死んでるんじゃないですかね?」


 すると、土門さんは大口を開けて笑い出した。


「ははははっ! 言われてみればそうですね! 今回は勇敢な方が居合わせたが故の奇跡みたいなものですし、いやはや、実に無意味な質問をしてしまいましたな。今のは忘れてください」


 ひとしきり笑い終えたあと、土門さんはゆっくりと立ち上がって、受付のお姉さんと頷きあった。


「天海さん、本日はありがとうございました。不審な点も無いですし、これで調査は終了になります。せっかくですから、もしよろしければいろいろと見学していってください。探索者として活動するなら、有益な情報が得られると思いますよ。それに、探索者協会ではステータス測定もやってますしね」


 ステータス測定かぁ。

 今の私がどれくらいの強さなのか、ちょっと気になってたんだよね。

 

 ちょうどレベルも上がったばかりだし、せっかくだから測ってみようか。

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