第10話 癒しの温泉

 初めてのレベルアップで勢いづいた私は、その調子でドンドンと森の中を進んでいった。


 ライムスと協力してスライムを倒して、ゴブリンも倒したよ。


 もちろん、ゴミ掃除だって忘れない。

 ライムスのお陰でダンジョンがきれいになっていって、ゴミが減っていくのを見ると、心がすーっと晴れていくのを感じた。



 お昼休憩は一時間。

 

 私は昨日の反省を活かしておにぎりを3つも作ってきた。

 具材は鮭と梅と昆布にしたよ。


 ライムスはピーナッツパンを頬張っていた。

 今日のライムスは昨日よりも必死にパンを食べていて、その姿がハムスターみたいでかわいい。


「そんなに必死にならなくてもパンは逃げないよ?」

『ぴきゅいっ! きゅいぃ!』

「ん、なになに? 一個でこんなに美味しいから、いっぱい食べて美味しさを倍にするんだって? ふふ、なにそれ~。ライムスってばヘンなの~」

『きゅいきゅいっ!』

「あははっ、ごめんごめん。そうだね、ライムスはヘンじゃないよね」


 お昼を食べたあとは、三十分のお昼寝タイム。

 ライムスは昨日と同じく私のお腹に乗ってきて、ナデナデを要求してきた。


「はいはい、いい子いい子」

『きゅぅ~~……』


 ライムスが寝付いたのを確認して、私も目を閉じる。

 

 降り注ぐ陽光と頬を撫でる風が気持ちいいね。

 この休憩所はお昼寝にぴったりだよ。


 それから三十分が経過して、私はアラームの音で目を覚ました。


『きゅるっ、きゅぴぃっ!』

「ふわあ。おはよ~、ライムス」


 お昼休憩が終わった私たちは引き続き探索を続けて。


 そしてこの日、私は2度目のレベルアップを経験した。


 ぱぱぱーん!


 例のファンファーレが鳴り響き、またもや世界の声を聞いた。


「やった、またレベルアップしたよっ!」

『きゅぴきゅぃ~~!』


 私の嬉しい気持ちが伝わって、ライムスもぷるぷると喜んでくれた。


 レベルが上がったタイミングでスマホを確認すると、時刻は15時を回っていた。


「もう少し頑張れるけど……」


 でも、明日は仕事なんだよねぇ。


「ちょっと早いけど、今日はここまでにしよっか」

『きゅぴぴっ!』


 ライムスはキッと目を吊り上げて、シュバシュバと攻撃を繰り出す動作をした。

 これは体当たり攻撃の再現。


 『まだまだ戦えるよ!』

 ライムスはそう言ってるみたい。


「気持ちは嬉しいけど、頑張りすぎるのも毒だからね。今日は早めに帰って、ん~、そうだな。たまには温泉にでも行こっか!」

『きゅぴぴぃ~っ!』


 ライムスはその場でくるくると回転してみせた。

 これは喜びの舞だね。

 一番嬉しいことがあると見せてくれる仕草だよ。




 昨日と同じく、駅構内のダンジョンショップにやって来た。


 今日の収穫はゴブリンのこん棒が一つと、スライムのゼリーが二つ。昨日よりかは成果が上がったのかな?


 たぶん、ゴブリンの腰巻よりこん棒のほうが価値は上だと思うな。


 まぁ、どんぐりの背比べなんだろうけどね。


 ――スライムのゼリーが一つ、ゴブリンのこん棒が一つ。併せて70円になります。


「70円……昨日より20円しか違わないんだね」


 レシートを見てみると、ゴブリンのこん棒が50円と書いてあった。やっぱりゴブリンのこん棒は腰巻よりは価値があったみたいだね。


 さてと。

 本題はここからだ。


 今日のライムスはスライムとゴブリンを捕食している。

 スライムが3匹、ゴブリンが2匹。

 

 ライムスは美味しくないところは食べないから、昨日みたいに吐き出してもらったら、ドロップ品が出てくるはずだよ。


 もしその中にモンスターの核があったら……。

 

 私は疑惑を解消するために、ライムスを抱っこして、聞いてみた。


「ねーえ、ライムス。昨日みたいに、モンスターの余りの部分を出すことってできる?」

『きゅるうっ!』


 するとライムスは私から飛び降りて、それから、ぷるぷると小刻みに揺れ出した。


『くゅ、ぅぅ、きゅぷっ』


 ライムスは昨日と同じく、すぽーんっ! とアイテムを吐き出した。


 そしてその中には、5つの宝玉があった。

 ビー玉にそっくりなこのアイテムがモンスターの核だよ。


「わぁ……。やっぱりそうなんだ。まぐれじゃなかったってことだよね?」


 だって5つだよ?

 モンスターの核が同時に5つ。

 こんなの、普通じゃ考えられないよ。


 私は査定台に丸玉を5つ乗せた。

 すると査定が始まり、結果は……。


 ――――――――――――――――――――


 スライムの核(Aランク)×3……40000円×3=120000円


 ゴブリンの核(Aランク)×2……40000円×2=80000円


 ――――――――――――――――――――


 ――スライムの核が三つ。ゴブリンの核が二つ。併せて20万円になります。


「に、20万円…………。たったの2日で一ヶ月分のお給料超えちゃったよ……」


 私は、気づいたらライムスを抱き上げていた。

 そしていっぱいいっぱい頬ずりをした。


「ライムスってばすごい!」

『きゅぴいっ!』


 ライムスは偉そうな顔をした。

 これは『当然でしょ!』って言ってるね。


「今日はレベルも上がったし、これはお祝いしなきゃだね!」


#


 その日の夜は温泉宿にやってきたよ。

 

 明日は仕事だから仕方なく職場近くの場所を選んだけど……。


「もし会社の人がいても知らんぷりしよっと」


 せっかくライムスと二人で温泉に来たんだし、邪魔されたくはないからね。


 ちなみに、この温泉はテイマーの湯っていう場所があるよ。私はテイマーじゃないけど、ライムスがいるからテイマーの湯に入るよ。


「それにしても一泊15000円っていうのはビックリしたなぁ」


 いつもなら泊まるかどうか候補にも上がらないね。

 

 でも今日は特別な日。

 初めてレベルアップしたんだから、そんな日くらいは美味しいご飯が食べたいもの。


 それに、ライムスのおかげでお金にも余裕を持てるからね。


『きゅぴぃ~~っ!』

「そんなに急かさなくても温泉は逃げないよ。ライムスはせっかちさんだね?」

『ぴきぃっ!』

「うんうん、分かったよ。私もちょっと疲れちゃったからね」


 私は着替えを入れた袋を肩にかけて、ライムスを抱えながらテイマーの湯に向かった。


#


「ふわぁ~、温かいねぇ~」

『きゅぃ~~』


 ライムスは溶けたみたいに平べったくなって、お湯の上をゆたゆたと漂っていた。


 ふふ、ライムスってばあんなに気持ち良さそうにしちゃって。見てるこっちが癒されちゃうよ。


「ライムス、こっちおいで」

『きゅう?』


 ライムスは平べったくなったまま、ゆらぁ~とこちらへ泳いできた。


 私はライムスを掬い上げて、優しく抱きしめる。


「ライムス、私のためにお掃除頑張ってくれてありがとうね。温泉に来られたのも、ライムスのおかげなんだよ?」

『きゅい~~』

「ふふっ、ライムスは本当にいい子だね」


 こうやってゆっくりと温泉に浸かるのはいつぶりだろう?


 ここ1年、ずっと仕事に追われてばかりで。

 生きるためとはいえ、ライムスとの時間も随分と少なくなっちゃったよね。


 寂しい想いも、たくさんさせたんだろうなぁ……。


「ライムス、これからもお掃除頑張ろうね。いっぱいきれいにして、いっぱいモンスター倒して。それで貯金もしてさ。そしたら、ライムスとの時間もいっぱい作れるから」

『きゅぴ? きゅいきゅぃ~~っ!』

「……! ふふっ、ライムスったらそんなこと言っちゃって。この女たらしめ~」

『ぴきぃ~~』


 やっぱりかわいいなぁ、ライムスは。

 ありがとう、ライムス。

 これからも私の家族でいてね。

 

 私も、ライムスのことが大好きだよ!

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