第47話5-6 実験

5ー6 実験


翌日、僕たちは、最前線の街 アンブロシアへと向かった。

僕らは、街に着くと、王軍の兵士たちが守っていた1本の木のもとへと案内された。

それは、この国でよく見かけラウと呼ばれる木だった。

僕とアーシェは、その木に歩み寄ると幹に手を置いて話しかけた。

「ドライアド、聞こえるか?聞こえたら、出ておいで」

すぅっと木の幹から緑の髪に緑の瞳をしたドライアドの幼体が現れた。

その子は、怯えた様子で僕たちを見上げた。

「大丈夫。いい子だから怖がらないで。少し、僕たちに力を貸してくれないか?王都にいるみんなと話をできるように」

「うん」

そのドライアドは、頷くと、僕たちに言った。

「わかった」

僕とアーシェは、その木に受信機と発信器が組み込まれた魔道具を取り付けてそれに魔力を流した。

ベルが辺りに鳴り響いた。

僕は、受話器をとり、耳に当てた。

「こちら、アンブロシア」

「王都 グリニッジだ。今日の天気は、晴れ。そちらは?」

「こちらも、雲1つないいい天気だ」

僕は、振り替えるとアリーと、彼女と並んで立っているアウデミス王へと、報告した。

「実験は、成功です」

僕らを取り囲んで見守っていた人々が歓声をあげた。

アウデミスは、早速、アリーに言った。

「この装置の権利を買おう」

「いえ、それは、できません。これは、商業ギルドとの共同開発ですから」

アリーは、きっぱりと王に言った。

2人は、しばらく睨みあっていたが、王は、諦めた様子で言った。

「ならば、軍にその装置を貸し出してほしい」

「それなら」

アリーが微笑んだ。

「この魔道具を買っていただくことで、使用が可能になりますわ。もちろん、王都にあるものとセットで」

アリーとナツキ兄さんは、王との商談をまとめるために先にパルカスへと戻っていった。

僕とアーシェは、後に残って新しく通信部隊となった兵士たちに魔道具の使い方を競る命していた。

説明も終わり、僕らが立ち上がり街を出ようとしたときのことだった。

不意に、腹の奥まで揺さぶられるような地響きが伝わってきた。

「なんだ?」

「大変です!」

街の魔王軍側から若い兵士が転がるように走ってきた。

「巨大な、デリムンの群れが、この街へと向かっています!」

「デリムン、だと?」

デリムンというのは、巨大なムカデのような魔物だ。

普通は、森の奥で群れを作って暮らしている。

「奴等・・魔王軍の奴等、デリムンの巣に火を放ちやがった!」

「何!」

兵士たちは、右往左往したあげくに、さっさと撤退を始めた。

「逃げろ!撤退だ!」

「あんたたちも、速く!」

兵士たちに促されて僕とアーシェは、機材を担ぐと走り出した。

だが。

僕は、すぐに立ち止まった。

「どうしたんです?ユヅ・・」

「あそこに、人が・・」

建物の隙間から幼い女の子がこちらを覗いていた。

他にも、何人かの魔族の人たちがいるようだった。

みな、この街の生き残りと思われた。


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