第46話5-5 別れのとき

5ー5 別れのとき


はい?

僕は、顔が熱くなるのを感じていた。

「そ、それは・・その・・」

僕は、フランシスが寂しげな表情を浮かべたのを見て言った。

「いいよ・・3人目だけど、フランシスがよければ」

「そうか」

フランシスは、嬉しそうに微笑んだ。

「約束したぞ、ユヅキ」

「フランシス様」

暗闇の中から影が浮かび上がる。フランシスがぎょっとして振り向いた。

「マリアンヌ?」

「こんなところにおられたのですか?フランシス様」

黒い影の中から現れたメイド服姿のマリアンヌを僕は、見つめた。

マチカ・・

マリアンヌは、フランシスに言った。

「はやく、お戻りください。明日も早いのですから」

「ああ、わかった」

フランシスは、ちらっと僕の方を見た。僕は、彼女に向かって手を振った。

「おやすみ、フランシス」

「ああ。おやすみ、ユヅキ」

フランシスが去っても、マリアンヌは、僕のもとに残っていた。

彼女は、僕にきいた。

「あなたは・・何者ですか?」

マリアンヌが呟くように言った。

「わたしの心を掻き乱す、あなたは・・」

「君こそ、何者なんだ?」

僕は、マリアンヌに訊ねた。

「なぜ・・僕のマチカと同じ姿をしている?」

「マチ・・カ・・」

マリアンヌが顔を歪めた。

「なん・・だ・・?なぜ・・あなたといると、こんなに、心が騒ぐ?」

僕らは、月明かりの下、見つめあった。

どちらからともなく、手を伸ばして触れ合う。

僕らは、お互いの頬に触れ、その温もりを感じていた。

「ユヅキ・・」

「マチカ・・」

僕らは、お互いを見つめあった。

「マチカ」

僕は、きいた。

「君なのか?」

「わたしは・・」

マリアンヌが僕に背を向けて闇へと消えていく。

「王の犬・・マリアンヌ・キューレ、だ」

他の何でもない。

そう、僕の耳に風が運んだ言葉は、僕の心をぎゅっと握りしめていた。

「マチカ・・」

なぜ、僕は、いまだに、彼女に捕らわれているんだろう。

マチカは・・

もう、いないのに。

僕は、溜め息をついた。

月が。

青い月が、僕らを見ていた。

僕は、目を閉じた。

さよなら、マチカ。

僕たちは、もう、離れてしまったのだ。

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