第48話5-7 少年と、魔物
5ー7 少年と、魔物
「だめだ!」
僕は、叫んだ。
「まだ、逃げてない人たちがいる!」
僕は、逃げてくる兵士たちを避けながら流れに逆らって地響きの聞こえてくる方へと走り出した。
「ユヅキ!」
「アーシェ、君は、逃げ遅れてる人たちを助けて!」
僕は、街の端まで走っていった。
遠くにデリムンの群れが見えていた。
僕は、駆けてきて乱れていた呼吸を整えると、声の限りに叫んだ。
「止まれ!」
だが、群れは、止まろうとはしない。
僕は、叫び続けた。
「止まるんだ!止まれ!」
僕は、もう、何も傷つけたくはなかった。
「止まれ!!」
ゆっくりとデリムンたちがスピードを落としていくのがわかった。だが、なかなか止まることができない。
デリムンたちは、僕を避けるように2手に別れて街へとなだれ込んできた。彼らは、街を半分ほど飲み込んでやっと止まった。
僕は、巨大なデリムンたちに囲まれていた。
「いい子たちだ。みんな、僕の眷属となれ」
僕の言葉が彼らの群れの中を伝わっていくのがわかった。
「さあ。もう、森へ帰るんだ」
僕は、デリムンたちに命じた。
彼らは、ゆっくりと方向を変えて歩みだした。
「きさまは、何者だ?」
去っていく彼らを見送っている僕の頭上から声が聞こえた。
空中から、ずんっと重い地響きをたてて誰かが降りてきた。
「なぜ、群れを止めた」
その黒い髪に赤い瞳をした褐色の肌の少年は、僕に対峙してきいた。
僕は、少年に答えた。
「街には、まだ、魔族の人々がいた。だから、止めたんだ」
僕の言葉に少年の頬に朱が走った。
「だから・・なんだっていうんだ!もとはといえば、お前たち、人間の始めたことだ!」
少年は、僕に向かって両手をかざした。
「邪魔する者は、死ね!」
「風よ!僕を守れ!」
僕の体を旋風が包み込んだ。
爆音が辺りに響き、土埃が舞い上がる。
「ふん」
少年は、吐き捨てるように言った。
「逆らわなければ、よかったものを」
僕は、土ぼこりに咳き込みながら、言った。
「煙を吹き飛ばせ!」
「何?」
ゴホゴホいっているが、傷1つない姿でそこに立っている僕を見て、少年は、驚愕を隠せなかった。
「なんで?」
「お前の力は、僕にはきかない。僕をお前は、傷つけられない」
「そんなこと!」
少年が再び、手を振り上げた。
「炎よ!我が敵を燃やし尽くせ!」
「無駄だ!」
彼の炎は、僕の髪の毛も揺らすことはなかった。少年は、悔しそうに歯軋りした。
「奇妙な術を使う」
「お前たちの魔王は、お前のそんな遣り方を許すのか?」
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