第39話4-9 マージナル屋敷
4ー9 マージナル屋敷
僕は、商業ギルドを出て待っていた馬車に乗り込んだ。
「いかがでしたか?ギルドの反応は?」
馬車に乗り込むや否や、アリーが僕にきいてきた。
「おおむね、良好かな。そうそう、今度の実験にアゼリアさんも立ち会うってさ」
僕は、溜め息をついた。
「絶対に、失敗はできないな」
「失敗なんてしないでしょ?ユヅキ」
アリーは、心の読めない表情で笑った。
「例え、あの国王の前であっても」
「まさか、アウデミス国王が来るのか?」
僕がきくと、アリーは、頷いた。
「もちろん、です。彼は、あなたにとても興味を持ってますからね」
「マジか・・」
僕は、頭を抱えた。
他の誰よりも、会いたくない相手だった。
フランシスのこともあるし、いつかは、対決しなくてはならない相手ではあるのだが、まだ、会いたくはない。
しかし、先伸ばしにしてても始まらないからな。
僕は、ふぅっと息をついた。
「アリー、悪いけど、僕は、1技師ということにしといてくれる?いつも、先頭に立たせて悪いけど」
「いえ。わかっています」
アリーが指先で眼鏡を押し上げた。
「それが、私の役目ですから」
馬車は、王都の中心から少し外れた住宅地にある一際大きくて、立派な門のある屋敷の前に止まった。
ぎぃっと思い音がして門がゆっくりと開いて、馬車が中へと入っていく。
しばらく走り続けると、こじんまりとした城のような屋敷に到着した。
古めかしくて、重厚な玄関の前には、メイドたちがずらりと並んで立っていた。
馬車が止まり、僕たちが降りると、メイドたちが言った。
「おかえりなさいませ、ご主人様」
「ああ、ただいま」
僕は、きいた。
「あの2人は?」
「お帰りですよ」
そのとき、玄関の扉が開いて、オルガとアルゼンテが飛び出してきた。
「おかえり、ユヅキ!」
「おかえり、ユヅキはん」
2人に抱きつかれて、僕は、その熱烈な歓迎に苦笑した。
「ただいま、2人とも」
ここは、かつての大貴族の王都の屋敷だったものを僕が買い取ったものだ。
つまり、今の僕らの家だった。
だが、いまだに周囲の人々は、この屋敷を前の住人の名をとって『マージナルのお屋敷』と呼んでいる。
僕らにとって、それは、都合のいいことだった。
そして、 僕は、最近、ユヅキ・マージナルと呼ばれるようになっていた。
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