第2話


「そうですかね? 俺はそうは思いません」


 もし本当にそうなら、クシューとドロシーが出会うような事態は避けられていたはずだ。もし俺だけが研究所へ行っていたら、二人の対面は避けられた。

 それにケイティとレイチェルだって死ぬ以外の未来があったはずだ。

 マーティンとルースだって決別しない未来があったはずだ。

 全くもって最善の未来なんか選べていない。


「意見の不一致じゃな。まあどの立場で考えるかによっても、何が最善かは変わってくる。一概には言えんわな」


 ドロシーがクシューと出会ったことで、ドロシーの魔物全体を憎む気持ちがクシューへと集中し、憎まれる魔物が減った。

 ケイティとレイチェルに悩まされていた町の人々は、二人がいなくなったことで、死の恐怖から解放された。

 ルースの家族は、ルースが『鋼鉄の筋肉』から抜けたことで、一緒に過ごす時間が増えた。


 そういうことだろうか?


 確かにそういう側面もあるだろうが、スッキリはしない。


「この世の中、スッキリすることの方が少ないと妾は思うのじゃ」


「俺はスッキリしたいです」


「スッキリしたいのならクソでも出してくるとよい。出すものを出せば、嫌でもスッキリするじゃろう」


「俺がそういう意味でスッキリしたいわけじゃないって分かっていて言ってるんですよね?」


「……ほら、森を抜けるぞ」


 話しているうちに、前方に光が見えてきた。

 そろそろ森の終わりのようだ。


「で、次はどこの町に行くのじゃ?」


「とりあえずは、ここから一番近い村を目指します」


「おーっ! 村に着いたらご当地飯を食べるのじゃ!」


「それ、久しぶりに聞いたような気がします」


 リディアがあまりにもいつもの調子過ぎて、逆に調子が狂ってしまう。

 俺はこの世界を残すか消すかを判断しないといけないのに。



   *   *   *



 到着した村は、小さいものの活気があって賑わっていた。

 大きさは同じくらいなのに、パーカーのいた村とはずいぶんと様子が違う。

 あの村はどちらかというと、静かでのどかな村だった。


「おっ、兄ちゃん。もしかして観光客か?」


 村の中を歩いていると、恰幅の良い男に呼び止められた。


「はい。この村には宿屋と食堂はありますか?」


「あるともさ。なんて言ったって最近は観光客が多いからな。おかげで村は一気に潤ったんだ。観光客さまさまだよ!」


 旅人に言うようなことではない気もするが、男が嬉しそうにしていたので黙っておいた。


「村に観光名所でも作ったんですか? 失礼ですが、割と辺鄙なところだと思うんですけど」


「村の近くにダンジョンが出来たんだよ! ……あれ。ということは、兄ちゃんたちはダンジョンを観に来たわけじゃないのか?」


「ダンジョンが出来たって、それ大変なことじゃないですか!」


 ダンジョン内には危険なモンスターが多数潜んでおり、まれに危険なモンスターがダンジョンから外に出てくる。

 村の近くにダンジョンが出来たら一大事だ。


「普通は、な。ただここのダンジョンのボスモンスターのタヌ様は話が分かる方でなあ。食料を献上すれば村を襲わないどころかダンジョン内を見学させてくれるんだ」


「そんな馬鹿な」


「そんなことはあり得ないと思うだろう? だが、見学させてくれるんだよ。一般人がダンジョン内を見られる場所なんてここくらいだから、日に日に観光客が増えてるんだ」


 横にいるリディアに目をやった。

 するとリディアは、モンスターのことは知らん、とばかりに肩をすくめた。


 人間にも色々いるように、モンスターにも色々な性格の者がいるのだろうか。

 それか、もしかして。


「まさかその食料というのは、人間だったり……なんてしませんよね?」


 俺が恐る恐る尋ねると、男は腹を抱えて笑い出した。


「タヌ様の好物は、木の実とベリーをたくさん使ったパイだ。これを作れるのが人間だけだから、村に協力してくれてるんだ」


「そんなモンスターもいるんですね」


「滅多にいないがな。だからこそ、この村に観光客が集まるんだ」


 俺とリディアは宿屋と食堂、それにアイテムショップの場所を聞いて、男と別れた。

 まずアイテムショップへ行って森で採取した薬草を換金し、宿屋で部屋を借りて身体の汚れを落とした後、食堂へと向かった。

 この村のご当地飯は、木の実とベリーのパイだった。

 メニューには大きく「タヌ様のお気に入り!」と宣伝文句が書かれていた。




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