第5話 就活開始

 就活しなければならない。そういう社会の雰囲気に押されていたが、自分の気持ちはまだ夢にしがみついていました。就活したくない。やりたくもない仕事をしたくない。まだ夢を追いかけていたい。そもそも私は夢を追いかけ始めるのが遅かったので、このような結果になったのは仕方がないと理解はしていても、心がどうしても落ち着きませんでした。

 私は就活を拒絶しながら、就活を始めました。私はとにかく、早く就活を終わらせることに集中しました。こんなことを長く続けたくない。就活を早く終わらせて、もう一度小説を書いてリベンジしよう。そんなことばかり考えていました。それゆえ、自己分析も適当で、なんとなく最初に説明会を受けた企業の業界に絞りました。その業界を志望する理由はあとからそれっぽく作り、企業にはあたかも人並みに就活をしているような学生を演じていました。しかし、このような自分の気持ちに嘘をつく行為は、私の心身を削るものでした。企業にこそ、快活な就活生を演じていましたが、友達の前ではどうしてもできませんでした。大学三年生ともなれば、友達から就活について聞かれることもありましたが、私は就活については一貫して黙秘を貫きました。友達に私の本心、「実は小説家を目指していて、就活はしたくない」ことを話しても、きっと受け入れてくれたと思います。応援してくれたと思います。それでも、言い出せなかったのです。恥ずかしいという気持ちはもちろんありましたが、万が一受け入れてもらえなかったらと思うと、どうしても話すことができなかった。それでいても、友達の前では嘘をつきたくなくて、変な自分を演じたくなくて、就活の話をすることもできなかった。折衷案として黙秘を貫くことを選んだのです。

 大学三年生の十月には、毎日説明会に参加するようなスケジュールになっていました。十一月には面接も予約していました。順風満帆に就活生を演じていた私でしたが、あるトラブルが発生し、就活の中断に追いやられることとなります。

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