第4話 間違った選択

 三年生になり、私は小説の執筆を一旦やめました。就活と、三年から始まる実習のためです。小説を毎日書き続けて、もはや文章を書くことが習慣化していたため、これまで執筆に当てていた時間をエントリーシートの作成や業界研究にあてようと考えていました。

 しかし、夢を諦めることはそう簡単にはいきませんでした。

 私は幼い頃から小説家になるということしか考えてこなかったため、それ以外の夢がなかったのです。物語を紡ぐ以外に、やりたいことがなかったのです。大学では資格のとれる授業をとり、実習もはじまる段階でしたが、資格の仕事も特にやりたいわけでもありませんでした。親に資格は持っておきなさいと言われたからとっただけで、やりたい仕事かと言われると、微妙なものだったのです。そのうえ、仮に資格が取れたとしても、私は現場でやっていけないだろうとも思っていました。それほどに厳しい仕事だったのです。やりたいわけでもない仕事を、厳しい環境で耐え抜きながら続ける気概はありませんでした。そのため、私は普通の大学生と同じように、就活を開始することにしましたが、先述した「やりたいことがない」という問題にぶつかったのです。

 厳密に言うと、やりたいことがないわけではありません。「小説家になる」という明確な夢はあったので、ライターや編集などといった、文章を書く仕事に就けば、やりたいことはおおむね実現できるでしょう。しかし、当時の私は、その選択肢を封じました。

 自分の好きなことができる仕事を避けるなど、今思えば馬鹿なことをしたと思います。でも、その時の私の状況を鑑みると、そうするのも仕方がなかったとも思います。二年間の努力で、小説家になれなかった。それどころか、一度も誰にも小説を評価してもらえなかった。この事実は、私が思っていた以上に私の心を穿ったのです。何の文章を読んでいても「私の方がいい文章をかけるのに」と爪を噛み、テレビやSNSで若いライターや小説家を見ると、髪をかきむしって歯を食いしばって涙を流しました。私はまだ、夢への執着を捨てきれられなかったのです。こんな状況で文章を書く仕事に就いても、周りを困らせるだけだ。そう思って私は、その道を完全に断ち切りました。文章を書く仕事以外で、興味のある業界、職種を見つけよう。そう決めたのです。

 この決断は、間違っていた。今ではそう思います。

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