最終話:広大の胸に就職します。

ティンクルが僕の看護にやって来るようになって、あっと言う間に月日が流れた。

その間も彼女は献身的に僕の世話をしてくれていた。


看護と言っても僕は重病人じゃないから、ひととおりにことは自分でできる。

毎日の食事は買い物に行かなきゃいけないから、デリバリーで済ませていた。

でも、今はご飯もティンクルが作ってくれていた。


一見ギャルっぽい子だからなにもやってないのかと思ったら、なんのなんの

料理だってプロ並みだし・・・だから嫁に行っても旦那になる人は幸せだろう

なって思った。


その旦那が僕だったらいいのにな〜って密かに思ったりして・・・。

だけどティンクルは僕の彼女でも恋人でもない。

僕は僕の気持ちをティンクルに告白したとして、もしそれがうまくいかなかったら

きっと気まずくなってティンクルは訪問看護をやめてしまうかもしれない。

そんな別れ方はしたくない。


だから僕は彼女に対する想いを喉の奥に飲み込んだ。


だけど、どうしても勘違いしてしまう時がある。

ティンクルがあまりにフレンドリーだからだ。


まるで僕のことを自分の恋人みたいに接してくれる。

朝、やって来たらすぐにハグして、ほっぺにチューしてくれる。

それは単なる社交辞令だって分かってる・・・だけどね。


ご飯の時だって、ふざけて食べさせっこなんかしたがる。


「あ〜んして?」


って言われるとつい甘えてしまう。


ダメでしょって怒られても、逆らわず彼女の前では素直になってしまう。

彼女が僕の胸に聴診器を当ててる時だってそうだ。


「はい、息吸って〜・・・はい、吐いて〜」


って、めちゃハスキーな声で僕に言う・・・それがたまらなく僕のハートを

くすぐる・・・キュンって来るんだ。

もう愛しくてたまらない・・・絶対罪だ・・・ティンクルの存在は罪だよ。


ティンクルが言った・・・病院は通い続けなきゃいけないかもねって。

僕の病気は長期戦になりそうだ。


「本当はずっと誰かがついていてあげたほうがいいんだけどね」

「だけど焦らないでね、広大」

「ゆっくり病気と付き合っていこうね」

「だから安静にしててね、あまり興奮したりしないように・・・」


ってティンクルから言われるんだけど・・・んだけど、ティンクルは

時々露出の多い服を着てやってくることがあるんだ。


だから前にかがむとたわわなおっぱいが否が応でも目に入るし、後ろを

向いてかがむと、おパンツがモロ見えだし・・・興奮するなってほうが

無理だろ?

って言いたくなる。


だから、そんな服で来るのはやめてくれないか!!

って言いたくなるんだけど、そこは僕も男なんだな・・・男のサガってやつ。

そんなティンクルを見てみたいって思っちゃうんだよな。

可愛いから・・・だから言えない・・・て、言いたくない。


眺めていたい・・・ずっと彼女を眺めてたい。

眺めてるだけで癒される。

ティンクルの存在自体が僕の癒しになる。


言い換えれば、もしティンクルが急にいなくなったら僕はどうなっちゃう

んだろうって思う。

それだけが心配だし気がかりでもある。


もうそこまで僕の彼女に対する想いは深い物になってる。

それに何事もいい時ばかりじゃない、いいことは得てして続かない。


「ねえ、ティンクル・・・君もいつか僕のところから去って行く時が

来るんだよね」

「いつまでも僕のところにいてはもらえないんだろ?」


「そうね、いつかはさよならしなきゃいけない時が来るかもね」


そんなことないよって言葉は彼女からは返ってこなかった。

僕はなにも言わなかった・・・言えなかったのかな。


「ずっといてあげる方法はないこともないけど・・・」


ティンクルがボソッと言った。


「え?そんなことできるの?」

「ティンクルはネバーランドの従業員だから会社からの意向があったら

従わなきゃいけないんだろ?」

「別の人のところに看護に行ってくれって言われたら・・・」


「あのね、私はネバーランドの所有物じゃないんだよ、広大」

「どこに看護に行くかは自分で決めるから・・・」

「たとえば、広大の看護だけして一生暮らしたいって思えばそれは叶うこと

なんだよ」


「え?・・・」

「・・・私ね、このさい言っちゃうけど、できるなら広大と一緒に暮らしたい

って思ってるの・・・」

「広大のお世話をすうるち、私の広大に対する想いはもうマックスまで

とっくに来ちゃってるの・・・それをね、いつ告っちゃおうかなってずっと

迷ってたの」


「ちょうどいい機会だから・・・」

「一生、広大のお世話しながら暮らすって、それって迷惑かな?」


僕の目から涙が溢れた。


「え?広大、なに泣いてるの?」

「私が告ったことが、そんなにイヤだった?・・・迷惑だったかな?」


僕はなにも言わず、ただティンクルを抱きしめた。


「嬉しいよティンクル・・・僕も君のことがずっと好きだった」

「こんな結果になるならもっと早く君のことが好きだって言っておけば

楽だったのに・・・」


「私たちおバカだね・・・お互い変なプライドが邪魔して遠慮してたかな?」


「じゃ〜改めまして、私「如月 ティンクル」は広大の胸に就職します」

「これから末長く、恋人としてよろしくお願いしまっす、広大」


こうなることを予測いていたのかティンクルは前もってにネバーランドを辞めて

いたみたいだった。

そして僕という永遠に終わらない新しいネバーランドを見つけたんだ。


おしまい。



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僕のアンフィルミエル。 猫野 尻尾 @amanotenshi

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