第9話 誰か顧問になってくれませんか?
テトラが駆けていく音を聴きながら、俺とユーリは職員室に歩を進めていた。
「失礼しまーーす」
俺はノックの後、職員室のドアを開けた
すると、ポツンと一つだけ置かれた机の向こうにこちらに背を向けて窓の外を眺めているカタ先生がいた。
「……っん?」
「誰だい?」
そう言いながら、カタ先生振り返り、俺だと気付いたのか笑顔で迎えてくれた。
「やあやあ、誰かと思ったらエル君じゃないか」
「どうしたんだい?」
「お茶でもしながら話を聞こうじゃないか」
――――――
「それで、どうしたんだいエル君?」
そういった、カタ先生と俺はティーカップ片手に向かい合うようにソファーに座っている。
そして、机には山のようにお菓子の山ができていた。
俺はお茶やお菓子は申し訳ないからいらないと、きっぱり断ったはずなのに
彼は俺の話を全く聞いてくれなかった
――――研究職だからか???
そんなわけで俺は絶賛教員と優雅なティータイムと言う気まずい状態に陥ってしまったのだが……
俺は出来るだけ早くこの空間から逃げ出したく、早速本題を始めた。
「先生」
「お頼みしたいことがあります」
すると、カタ先生は興味深いと言うような顔をして
「ほう、てっきり編入早々悩み相談かと思っていたのだが」
「……頼み、か」
「入試成績一位の君からの頼みだ、私に務まるかな?」
「はい、カタ先生、単刀直入に言いますと」
「どうか僕が新しく作る部の顧問になっていただけないでしょうか?」
すると、カタ先生は申し訳なさそうな顔をして
「……顧問に、か」
「すまない、エル君それには僕は力になれない……」
「僕はもうすでに四つほど部の顧問を兼任していてね」
「顧問と言っても多くの部活は名前だけでも貸してるだけなんだけどね」
「部活動には顧問の存在が必要だから、名前だけでもって僕は貸してあげてたんだけど」
「……ただ、教頭先生がそれを快く思わなくてね」
「この前もそれで注意を受けちゃったんだよ…………とほほ」
するとカタ先生は頭を下げてしまった。
「困っている生徒の力にもなれない情けない先生でごめんね……」
「ただ、その代わりと言ったら何だけど」
「一人だけ顧問になってあげれそうな人に心当たりがあるんだけど」
「その人でも……いい?」
「…………少し変わり者だけど……」
最後に何か小声で呟いていたが、よく聞こえなかった。
――謝るなんてとんでもない
――こっちとしてはありがたい限りなのに…………変わった先生だなこの人
そう思いながら俺は感謝を表した。
良い人間関係は日頃の感謝からって相場が決まってるからな
「いえいえ、とんでもないです、とてもありがたいです!」
「それと先生、十分僕の力になってくれてますから、もっと自信を持ってください」
「そう……エル君の優しさが心に染みるよ…………」
「じゃあ、呼んでくるから」
「ここで少し待っててね」
そう言ってカタ先生は出ていった。
**
しばらくして勢い良いよく扉が開かれた。
「ちゃろ〜〜♡」
「ご指名ありがとうございま〜す!」
そう言いながら、赤髪の女性教員が入ってきた。
第一印象はキャバ○ラ嬢かな?
と思うようなその人は
「お!君が件のエル君?」
「私を指名するなんてお目が高いね」
と、呆然とする俺とユーリに構うことなく喋り続けた。
「なになにどうした純情ボーイ、そんなに固まっちゃって」
「もしかして、お姉ちゃんの魅力の虜になっちゃった?」
「もう、童顔で可愛いな〜エル君は、お姉ちゃん嬉しくなっちゃうよ」
彼女は腕を広げて抱きついきて、髪をワシワシと撫でてくる
俺は柔らかく、そして優しく、幸福感に包まれていた。
――ああ、これがずっと続いたら……いいなぁ
ふとそんなことを思っている俺をその時、衝撃が襲った。
『ちょっと、何幸せそうな顔してんのよエル!』
『そんなのただの脂肪の塊よ!』
そう言って、俺に魔力の塊をぶつけてきたのはユーリだった。
ユーリはいつの間にか実体化して普段の大きさにまでなって、不機嫌そうに腹を立てていた。
そして、吹き飛ばされて倒れている俺を横目で見て
『――っふん』
と言うだけだった。
そして振り返って、彼女に
『――ちょっと、あんたもエルにくっ着き過ぎなのよ!』
『あんた教師でしょ、何平然と生徒に抱きついてるのよ!』
と猛抗議し始めた。
「あはは〜、それを言われると返す言葉がないね〜」
「けど、禁断の関係って逆に燃えてくるんだ〜〜」
そう言って、再び俺を抱きしめ、今度は頬擦りまでしてきた。
「なんか、エル君は見てるだけで母性がくすぐられるんだよね〜」
「やっぱ、可愛い顔してるからかな〜」
俺は再び幸福感に浸ろうとしたが、不意に背中から強烈な殺意の波動を感じて急いで彼女を突き放した。
押すときに柔らかいものを掴んだ気がするが気にしている暇はなかった。
俺はそのまま後ろに飛んで彼女と距離をとる。
すると、俺が先ほどまでいたところに直径1メートルほどのクレーターができていた。
――あと一秒でも遅かったらユーリに殺されていた
俺は背筋が凍るのを感じながら、すぐさまユーリの機嫌をとるべく謝った。
「……ご、ごめん、ユーリ」
「みっともない姿見せて」
『……いいわよ、別に……』
『どうせ私は、ちっぱいですから…………脂肪の塊のくせに……ぐぬぬ』
ユーリはそっぽを向いて俺の話を聞こうとしてくれない。
確かに、あの先生は立派な果実をお持ちだが……別に大きさが全てではないはずだ
「ユーリ」
「僕は胸の大きさは良し悪しには関係ないと思うよ」
「だから、ユーリがどんなに絶壁であっても、微分しても傾きがずっとゼロだったとしても機にすることはないよ」
「少なくとも、俺はそんなユーリが好きだから」
すると、ユーリはさらにそっぽを向いてしまった。
「ゆ、ユーリ?」
「だから、気にしなくっていいってば」
さらに怒ってしまったのかと心配になってさらに声をかけても
ユーリは
『う、うるさいうるさい、ばかぁ!』
と言って一向に顔を見せてくれないままだった。
「あらあら、あつあつねぇ〜」
「でも、そんな素っ気ないと、気づかないうちに他の子に取られちゃうわよ〜」
「……こんなふうにね♡」
そして、本日三度目の抱きつきを俺に敢行してきた。
「――っちょ!」
「先生、なんで?」
「いや〜〜こうもあつあつだと、ちょっと意地悪したくなって……」
「あと、3回しないと二度あることは三度あるって考えた人に申し訳ないかなって」
「そんなこと考えなくていいですって!」
「何なら、仏の顔も三度までの方をを実践してくださいよ!」
「でも、君は悪い気はしてないんだろ〜」
「正直になっちゃえよ〜このこの〜」
「…………」
そんなやりとりをしていた俺は急に襟を引っ張られ、体勢を崩してしまった。
しかし、そんな俺を今度はユーリがまるで私のものだと言わんばかりに力強く抱きしめてきた。
『ガルル――』
そしてユーリが彼女に威嚇をして俺に近づかせまいとしていた。
――――――ガララ――――
そんな時だった、扉が開いたのは。
「あれ、どういった状況?」
そう言って入ってきたのはカタ先生で、その顔には困惑の表情が浮かんでいた。
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