第7話 テトラは意外と純情?



 テトラは俺の言葉を聞くなり、顔をこわばらせ……しばらくの沈黙の後に、独白し始めた。

 

「…………うん……あれは、私のせいなんだ……」


「それはテトラが生徒の暴走を引き起こしたってこと……?」


 

「……いや……そうじゃないの……」

「あれは、私を狙って起こされたものなんだ」


 

「……その話、詳しく教えてくれない?」


 「……決闘の時に見せたけど、私さ、他の人とは違う’’力’’を持ってるのだよ」


「それはあの、け…………が赤くなる奴?」


 

 『エル、正直に言っちゃいなさい、獣化って言いたいんでしょ』

 『あんな、四つん這いになって、牙も生やして叫んでくるようなやつ』



 「……………………」


 その言葉にテトラは、思い当たる節があるのか顔にしわを寄せて、居心地悪そうな顔をしていた。

 

 

「こら、ユーリ」

「言葉には気をつけないと、女の子にそんな事言っちゃ、よくないよ」


 

 『あら、そう?』

 『じゃあ、あのビーストモードをどう言うふうに言えばいいのよ?』

 『……本能解放モード?……おぎゃりベイビーモード?』



「………………………………」


 さらにテトラのシワが深くなった。


「…………ユーリ、さすがにそれはよくないよ」

「せいぜい、厨二病化とかにしとかないと」



 そこまでいって、ついにテトラの我慢の限界が決壊したのか


「どっちも、失礼だわ!!」


 と叫んだのであった。




 そんなわけで、プリプリと怒ってしまった、テトラの機嫌を直すのに暫く時間が掛かった。



**



「…………それで、その力に関してなんだけど」

「私は、先祖返りをしているらしくて」

「昔の祖先の血を濃く受け継いでいるらしいの…………それで、私の祖先が使えた能力が私も使えてるって事なんだけど」

「……ほら、エルも知ってると思うけど、昔の魔法って詠唱の必要な古代魔法が主流じゃん」

「でも私の魔法は古代魔法でありながら詠唱が必要ないんだよ」



「――?」

「でもテトラ、詠唱してなかった、決闘中?」



「アレは、自分に掛けている制限の解く魔法なんだ」

「本来だったら、いつも……君たちの言う猛獣化状態なんだよ」

「…………あと、行っておくけど、アレは別に暴走しているわけじゃないよ」

「ちゃんと意識ははっきりしてるんだからな」

 


 『じゃあ、意識がしっかりしている状態で、あんな四つん這いになったり、咆哮したりしてるのね』


 ユーリがこことぞばかりに、ちゃちゃを入れてくる


 

「…………そうよ、わざとよ、意識的にやってるよ、四つん、這い……」

「……ただ、あの状態だと、そっちの方が強いんだもん……私だって好き好んでしてるわけじゃないんだもん……」


 

 ユーリのいじりで、再びテトラがいじけてしまいそうになっているため、俺は急いで話題を戻した。

 いじけるテトラも可愛いのだが、それだと一向に話が進まなくなってしまうからな。


「ところで、テトラ、それがどう昨日の生徒の暴走に繋がるの?」


 

「……うん、それでね、そんな私の持っている特別な力をどうも戦争に使えるんじゃないかって、考える連中がいるのだよ」

「詠唱もなしに、古代魔法を使えるようになったら、それは現代魔法の実質上位互換でしょ」



「……確かに、これまでは詠唱があったから、古代魔法は戦闘の面では現代魔法に劣っていると考えられてきたのに」

「その欠点がなくなったら、現代魔法と同じ速度で、より高度な魔法が使えるようになるって事だからね」



「多分、この力のせいだと思うんだけど……」

「……最近、私の周りで急に何かに操られるようにして暴走し出す人が出てきたんだ」

「それで、揃って暴走した人たちが私を目の敵のようにして襲ってくるんだ」



「……それって、昨日の人たちみたいに?」



「うん、それで、私は初め、自分自身がその暴走を引き起こしてるんじゃないかって思って、親の伝手つても使っても、調べてもらったんだけど」

「調べていくと、暴走した人たちは、みんな何かしらの特徴的なアクセサリー見たいなものを身につけていることがわかって」

「それが暴走を引き起こして居るんじゃないかってことになったんだよ」



「暴走を引き起こすアクセサリー?」

「ユーリ、何か心当たりある?」



『どうせ、分不相応の聖遺物でも身につけたんじゃないの』

『それで、扱いきれなくて暴走って』



「聖遺物?」



『魔法の掛けられたアイテムって言えばわかる?』

『要はマジックアイテムなんだけど、ただ市場で売られているようなものとの違ってその魔法が呪いのようなものなんだよ』

『一見するとただの効果のすごいマジックアイテムだと思うんだけど、使っていくうちに使用者の魂が聖遺物に染められていって、最後は聖遺物の傀儡かいらいになっちゃうの』



「傀儡に……怖いねそれ」



「そう……ユーリの言うとおりで」

「それらは聖遺物だったんだよ……アーティファクトともいうけど」

「……それで問題なのは、それが無理やり他人に移植されたものだと言うことなんだ」



『人為的なアーティファクトの移植?』

『そんなのできる筈ないじゃない、アレは触れたものを勝手に所有者と認定して取り憑こうとするのよ?』

『そんなものをどうやって、コントロールできるっていうの?』



「そう……」

「私も、そんなこと不可能だと思っていた…………」

「でも、私は実際、そうなった者達から何回も襲撃を受けた……」

「そして、これまでは、私が家にいるときだけ襲ってきた彼らも、ついには学校でも襲撃するようになってしまった……というわけなんだ」



 そこまで行ってテトラは申し訳なさそうにしてから


 

「だから、ごめんなさい」

「本当は私には学校に通う資格もないんだ」

「私がいるとみんなに迷惑かけちゃうから…………」

「…………でも、私も普通の生活がしてみたいって、そうわがままを言ってしまった」

「そしたら、親も先生達も「私たちがどうにかしてあげるから、君は学校生活を楽しみなさい」って言ってくれて」

「その言葉に甘えていたんだ、私は…………ごめんなさい」

「だから、もう今日限りでこの学校もやめるの…………短い期間だったけど、ありがとね」



 そう言って彼女は俺に深く頭を下げた。

 

 「謝るな!」


 俺は気付けばそう言葉に出していた


「――えっ?」


 テトラが驚いた顔でこちらを見てくる


 俺はそんなテトラの顔を真っ直ぐと見据えながら続けた

 


「テトラは何にも悪くなんかない」

「悪いのは全部、テトラを襲おうとしてくる奴らなんだ」

「……だから、それでテトラの自由が……学校生活が奪われるなんておかしいよ」


 

 俺はそこまで一息で言い切った。


「絶対、僕がなんとかするから、テトラは絶対学校を辞めないで」

「それで、みんなで青春を思いっきり楽しもうよ」



 俺の決意にテトラは驚きながらも


 

「……でも、そんなのできる筈ない」

「貴族の私の親の力でも、この学校の先生達の力でも、犯人の手がかり一つ掴めてないんだよ⁉️」

「……私がこの学校にいたら、みんなを不幸にしてしまうだけ!」

「…………だから、お願い…………私にこれ以上みんなを傷つけさせないで……」



 それは彼女の懇願だった。


 彼女は自分のせいで巻き込まれる人たちを見て、心を痛めていたのだ。


 こんなに、良い子をどうして、見捨てられるだろうか


 俺はそう思い、再び強く心に刻んだ。


 絶対、この子のことを守ろうと、幸せな学園生活を送らせてあげようと



「テトラ…………知っての通り、僕はこの学校歴代最高の成績で入学したんだよ」

「その上、原初の女神の子である、ユーリもいるんだ…」

「教員達ができなかったことでも、僕たちなら、なんとかなるかもしれない」

「――だって、僕は一位なんだから……一番上にいるんだから」

「下の子達を守らなくちゃいけないんだから……」

「だから、テトラ…………信じて、君に勝った僕たちを信じて……」

「…………お願い…………」



 俺はそう言って頭を下げて手を出した。

 

 俺は彼女に幸せでいてほしい


 この感情が何かわからないが、ただただ、心から俺はそう思っている


 だから、彼女にはどうしても諦めてほしくないのだ、この学校生活を



――――――――――――――



 しかし、そこには無言が響くのみだった。


 どうやら、俺の言葉では彼女を救えなかったようだ


 俺は現しきれない、感情のまま、前を向く


 すると、目に入ってきたのは、顔を真っ赤にして泣くテトラの姿だった。


 「ど、どうしたのテトラ?」


 突然のことで俺は事態をうまく飲み込めていない


 一方テトラは顔を涙で濡らしながら、必死に言葉を紡いだ

 

 

「――――そんな……こと、言ってくれる……人……いなくて」

「――すん、嬉しくて――……………うぇー〜ーん――」



 遂に彼女のダムが決壊して俺の胸に飛び込んできた。


 そして、俺の胸に顔を押し付けながら、泣いた。


 それを俺はただ無言で頭を撫でてあげた。


 ただ、若干一名、不機嫌そうな精霊がいたが。

 

 ――――チーーーン――――


 あっ、俺の服で鼻かんだ




 **



 しばらくすると、テトラは泣き止み、自分が恥ずかしいことをした自覚があるのか顔を赤ていた。


 

「……その、さっきはごめんなさい」

「取り乱してたわ」



「ううん、大丈夫」

「それより、テトラは僕たちのこと信用してくれるってことでいいの?」


 そう俺が聞くと


 

「何よ、察しの悪い男だな」

「そんなこと、いちいち言わせないでくれ」


 とそっぽを向いてしまった。


 何この生き物、可愛いんだけど


 そこで、ここまで沈黙を貫いてきたユーリが口を開いた。


 

 『でも、エル』

 『私たちでどうにかするって言っても、具体的にどうするのよ』

 『学生である以上、何をするにしても制限がかかるわよ、私たち』

 『……まずはそれをどうにかしないと――』



「ふっふっふ、ユーリ」

「その点は大丈夫だよ」

「新しい部活動を作れば良いんだよ、テトラの事件を解決するためのね」


 その言葉に二人ともちょっと何言ってるか分かんないみたいな顔をしている…………

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る