第6話 決着と漂う不穏

 

 グラウンドを覆う酷い砂煙


 響きわたる決闘を讃える歓声


 これらの要因が皆が決闘に乱入してきている者の存在に気づくのを妨げた…………ただ、先生と精霊をのぞいて。



『――!』

『エル!何か変な奴が居る!』


 急に叫んだユーリの言葉に俺は再び警戒体制をとった。


「――どこから?」


 

『私たちにじゃない――』

『テトラって奴の方――!』


 

 目を凝らすと、テトラ・イーレンが倒れていたはずのところに微かに砂煙の向こうに複数人の足が見えてきた。


 ――――まずい、何かが起きてる


 俺は急いでその場に駆けて行った。


 

「……君たち、辞めなさい!」


 そう叫ぶ声が聞こえる……カタ先生の声だ。


 俺は更に急いで霧を抜けた。


 すると、そこには倒れているテトラを囲むようにいる5名のおそらく生徒であろう人達と、彼女を守ろうとしているカタ先生だった。


 カタ先生はどんな魔法を使ったかわからないが、その五人の生徒たちの動きを止めているようだ。


「――先生、どうしたんですか?」


 

「――エル君!」

「いいところに来てくれた」

「この子達の様子がどうやらおかしいんだ……手を貸して欲しい」

「僕が動きを止めているうちに、縛っておいてくれ」



「わかりました」

「すぐに拘束します」


 俺はすぐさま彼らを土の牢に閉じ込めた。


 よく見ると彼ら目は焦点があっておらず、心ここに在らず……といった具合だ


「カタ先生……終わりまし――」


 俺は振り返って報告をしようとすると、そこには顔を青ざめるテトラがいた。


 

「テトラ君、大丈夫かい、立てるかい……決闘はもう中止だ」

「僕は教員としてやることがあるから、エル君も……今日はもう帰りなさい」

「……後、他の生徒にもそう伝えておいておくれ……」



 カタ先生は素早く支持を出すと、少し離れて誰かに連絡をとり始めた。


 俺はいまだに状況をお見込めずにいるが、ひとまずは彼女の安否を確認したかった。


「……テトラ・イーレン……さん……大丈夫……?」


 しかし、彼女は俺の声が聞こえてないのか、何かに怯えているような顔をして、

 

 

「……違うの……私のせいなの……ぜん、ぶ……」

「……ごめんなさい…………ごめんなさい…………」


 と今にも泣き出しそうに呟いていた。



 **



 その日はひとまず解散となり、次の日を迎えた。


 俺は朝、いつもより早めに学校へ行きテトラが登校してくるのを待った。


 どうにも昨日の彼女の怯えた顔が気になったのだ……


 いつもなら彼女は一番に学校に来ているはずだったが、今日は登校時間ギリギリだった為、ひとまず話かけるのは昼休みにすることにした。


 見たところ、いつもと変わらなさそうだが…………何かが引っかかる。



 ――――キーンコーンカーンコーン――キーンコーンカーンコーーン――――


 4限の授業の終わりを告げる鐘が響いた。


 俺は友人と一緒に学食に行こうとする彼女を引き止めた。


 「――テトラさん、少しお話しいいですか…………昨日のことで」


 テトラも何か思うところがあったのか、二つ返事で了承してくれて、空き部屋まで案内してくれた。


 教室の入った瞬間、彼女は俺に頭を下げた


 

「…………それで、エーデルワイス君……」

「昨日、一昨日は本当にごめんなさい……とんだ勘違いをしてしまっていたわ」



 突然の謝罪に俺は呆気に取られる


 彼女は俺が怒っていると勘違いしているようだ

 


「テトラさん、その件は大丈夫ですよ」

「僕はもう気にしてませんから、頭を上げて下さい」



「ありがとう……エーデルワイス君……」

「君は、優しい人なんだね」


 彼女はほっと胸を何故下ろして安心したようだった。


 「そうだ、エーデルワイス君」

 「聞きたかったんだけど、君の肩に乗っている娘が君が契約している精霊かい?」

 「名前はなんと言うのだい?」


 

 『!!』

 『あら、見えるのね、貴方……』

 『私は精霊のユーリよ、よろしくね』



「……ユーリか、こちらこそよろしく」

「私のことはテトラと気安く読んでくれて構わない……もちろんエーデルワイス君もだぞ」



「うん、わかったよテトラ」

「僕のことも、エルでいいよ」



「了解した、エル君」

「……それじゃあ、本題に戻ろう」

「エル君、君は何か私に聞きたかったことがあるんじゃなかったかな?」



「……うん、それはね、何かテトラが悩んでることがあるんじゃないかなって……?」

「…………そう思って聞きたかったんだけど…………」



 そう言いながら俺は自分が我ながら恥ずかしいことを言っていることを自覚した。

 

 そうだ、こんなこと、普通出会って間もない人とする会話じゃないだろう、怪しまれて当然だ


 そう俺は思っていたが、返事は明るいものだった。



「……驚いたな、エル君……君は観察眼が相当鋭いようだ……」

「まだ私たちは一昨日が初対面のはずなんだがな……」


 予想外にも褒められ俺は照れながら「えへへ、そんなことないですよ〜〜」と返した。


 『……エル、それはちょっとキモイよ……』


「……ガーン…………とほほ」


 

「はっはっは、君たちは愉快で一緒にいて飽きないな!」

「それでエル君、「私が何か焦っているような感じがした」と言うことだが、図星だ」

「恥ずかしながら、私は少しナーバスになってしまって――」


 

「――それは昨日の突然の生徒の暴走に関係ある?」


 それを聞いた瞬間、彼女は表情をこわばらせた。

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