第4話 決闘開幕!

 俺とテトラ・イーレンとの決闘が今始まる。



 **



 決闘の開始はカタ先生が出してくれる事となり、俺はテトラ・イーレンは20メートルほど離れたところでお互い向き合った。


 彼女の表情はここからじゃ読み取れないが、何か焦っているような感じがする。


 今、カタ先生が合図の花火を打ち上げた。


 その花火が爆発した瞬間、視界の中心に捉えていたはずの相手が消えた……ように見えた。


 『エル、左に!』


 ユーリの指示が飛ぶ。


 俺は反射的に自分のすぐ右に土の壁を作りながら、左に飛んだ。


 すると、次の瞬間俺が作った土の壁に斜めに線が入り、その後、音を立てて崩れ落ちた。


 その向こうには、剣を手に持った彼女……テトラ・いーレンが立っている。


「……今のを避けるのね……」


 初撃を避けられたのは想定外だったようで、少し驚いた顔をしている。


 間一髪、避けられたのだ。


 どうやら、昨日研究した甲斐があった。




 俺は昨日エルと一緒にできるだけ彼女についての情報を集めていたのだ……主に戦い方と使う魔法について。


 その結果、俺は事前に彼女が得意としている魔法は身体能力強化と切断魔法であると分かったのだ。


 魔法戦では情報というものがとても大事だ……とユーリが言っていた。


 相手がどのような魔法を使うかを事前に知っているかどうかが直接勝ち負けに繋がることが多いそうだ……確かに、炎系の魔法を使う魔術師にと雨の時に戦えば、相手は常にデバフがかかっている状態になるからな。


 そして、それはどんな魔法にも言えることだそうだ……たとえば今回の相手、テトラ・イーレンのような近接型の一撃必殺持ちの場合は、その情報を持っていれば戦う時、常に距離を取って遠距離から攻撃する対策が取れるのだ。


 ただ、彼女の魔法でさらに強化された高い身体能力による擬似瞬間移動には俺じゃ反応できないため、ユーリが指示した方向に飛ぶという事を決めて対策した。


 『次来るよ――右、左、後ろ、右、前――』


 俺はユーリの指示に淡々と従い、テトラの蓮撃を全て避け切った。

 


「……はあ、はあ、はあ、……ちょこまかと逃げてばっかりで、なぜ反撃してこない!」

「それがお前の全力かエーデルワイス!」

 


 彼女は息を切らしながら、ひたすら避けに徹する俺に苛立ってきているようだ。


「……わかった、じゃあここからは僕の番だ」


 そう告げて、俺は反撃を開始した。



 

 手を前に掲げ、中に岩石を集め、顔ほどの大きさの拳を作る。


 俺の得意魔法、岩拳弾バレット・ストーンだ。


「じゃあ……行くぞ」


そう言って俺はストーン・バレットを打ち出した。


拳の弾丸はその重量からは考えられないほど打ち出されていき、テトラ・イーレンに襲いかかった。


一方、テトラは刀を構え、迎撃の一刀両断を狙っている。


しかし、テトラの振るったその剣は空を切るだけだった。


岩石弾が彼女に迫った瞬間、その拳は無数の粒の欠片へと形を変えた。


「――――分裂解放――」


切り落とそうと待ち構えていた彼女にとって、これは予想外だったそうで、反応が追いついていない。


かろうじて体を丸くして防御の体勢にするだけで、彼女はその無数の石粒をモロにくらった。


それに追い打ちをかけるように俺は今度は一度分裂させた粒を再び彼女を中心に引き寄せ、岩石の球体を形成する


「――――岩圧地獄アイアン・メイデン


――――俺の今使える最上級の魔法の土類魔法の檻の完成だ。


――――これで拘束できればいいんだが……


 そのまま、岩石内への圧力を上げていき、彼女が一歩も動けないほど拘束しようとし――しかし、その時上から彼女が飛び出してきた。


 『切断魔法ね、そんなに簡単に出てくるとは……厄介ね』


 流石に初めの一手だけでは仕留められなかった……だがそう逃げるのは想定内だ。


 上に飛ぶというのは魔法戦では悪手なのだから。


 空中では軌道を変えられないため、着地地点で待ち構えられてしまうのだ。


「――――斉射砲・槍――――」


 俺は地面一体を槍の地獄へと変化させ、彼女に向かって一斉に放った。


 彼女が落ちてくるのに合わせて……避けられないタイミングで……


 しかし、100本ほどの槍からなる針地獄が落ちてくる彼女の体を穿つ――かと思われた矢先、100はあったはずの槍の穂先が全て、綺麗切り落とされたのだ。



 どうやら彼女は魔法だけでなく単純に剣の腕も相当ならしい。


 彼女は優雅に地面に着地し、俺と向かい合った。


 偶然にもちょうどお互いに、初めの位置に戻っていた。


 

「……エーデルワイス君、先に謝っておこう、すまなかった」

「今の一連の攻防で君が相当強いということが分かった……不正をしていると疑ってしまい、本当に申し訳ない」


 

「……じゃあ、もう決闘は終わりってこと……?」

 


「……いいや、それではここに集まってくれたみんなが……それに何より、私が満足しない」

「だから、決闘は続行だ」

 


 そういったニヤリと笑ったテトラの顔は開始前と違い清々しいものだった。

 


「いいよ、こっちだって望む所だ」

「もう、出し惜しみはなしにしよう」

 


 そういうと、彼女は顔をほころばせて言った。


「……そうだな、そういうなら、その言葉に甘えさせてもらおうか」


 そして彼女は何気ない仕草で自分の手に付けていた赤の石の嵌まっている指輪を外した。


「エーデルワイス君、私にここまで使わせたのは君が初めてだよ……だから、忠告しよう……死ぬなよ」


 彼女が指輪を外した後、その場で何か呪文のようなものを呟き始めた。


 


 今の時代、無詠唱で行使できる近代魔法が主流となっており、詠唱の必要な古代魔法は実践ではその詠唱が決定的な隙となってしまうため姿を消してしまった。


 しかし、だからと言って全ての点において近代魔法が古代魔法より優れているというわけではない。

 

 古代魔法には古代魔法の長所があるのだ。


 その一つがより複雑な魔法を発動できるということだ。


 近代魔法は魔法を発動させるための時間をより短くさるために開発された魔法で、その分簡易的な魔法の行使しかできず、近代魔法は使い手の能力によってどんな魔法まで使えるかが大きく分かれるのだ。


 そのため、その人その人の能力に左右されず万人がその魔法を使えるという点で古代魔法は近代魔法より優れている。


 これを分かりやすく言うと、自分が使えないような高度な魔法も、詠唱をすれさえすれば誰でも使えると言うことだ。


 この凄さが分かってくれたかな?


 


 そこでテトラ・イーレンとの決闘に戻ろう。


 テトラ・イーレンは自他共に認める天才お嬢様で、彼女はある一定の高度の魔法まで無詠唱で発動できるはずである。


 ではそんな天才お嬢様がわざわざ詠唱をしてまで発動させようとしている魔法はなんなのだろうか……


 そんな俺の問いの答えは数秒後に起こったテトラ・イーレンに起きた変化によって嫌でも分かってしまった。



「――我らが偉大なる父よ――」

「――この身にありし鎖のとばり――」

「――この身にありし我が祖の顕現――」

「――今、解き放たらん――」

「――権限解放ズィーゲリース‼️」


 その瞬間、世界が赤に染まった。


 テトラの方を見ると、身体中に赤の紋様が現れ、額には指輪にあったはずの赤の石が付いており、横には角が生えていた。


 俺は何が起こったか全くわからなかった、ただ彼女の纏っていたオーラが一変し、凄まじい重圧が俺を襲ってきた。


「――――なぁっ――――?」


 かろうじて喉をかすれる音が出るだけで、俺は声が出せなかった。


 『――――ル!エル!気をしっかりして!』


 突然頬を叩かれた

 


『エル!……冷静になって……あれは多分、自分の中に封印していた力を解放したんだと思う……だから、一時的にパワーアップしてるだけで、そう長くは続かない……はず』

『……でもあれはまともに戦ったら勝てない……だから、逃げて!』

 

 

 しかし、その言葉に俺が反応する前に、先に動き始めたのはテトラだった。


 彼女は右手を軽く振っただけだった。


 しかし次の瞬間、大地が分裂した。


 俺のすぐ右にまで地面に亀裂ができていたのだ。


 もう一度言おう、彼女はただその場で右手を振るっただけだ……それだけで20メートル先まで切断して見せたのだ。


「――はぁ――?」


 彼女の魔法はあらゆるものを切断できるという強さがある代わりに射程距離が短いのが欠点だった……だから対策の取りようがまだあったのだ。


 だが今はどうだろうか、軽く剣を振るだけで……魔法を発動させた様子もなく……切断魔法の斬撃を飛ばしてきたのだ。


 ――こんなの勝てる訳がない


 俺はそう思ってしまったのだ。


 その瞬間俺は恐怖に支配され体を動かせなくなってしまった。


 ――イヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダコワイコワイイヤダコワイイヤダ


 俺は半狂乱状態で状態で立ちすくんでしまった。


 『エル!エル!しっかりしなさいエル!まだあなたは負けてないのよ!』


 今度は俺の頬が真っ赤になる程強く叩かれた


 『エル、よく聞いて……今のあなたの力じゃあいつには敵わない……あいつは私も知らない魔法を使って意味分かんないぐらい強くなってる……あいつに敵う人間なんかいないぐらいには』


 「でも……どうすれば……」

 

 

『……実際、戦うのはほとんど自殺行為に等しい……でも、それでも貴方が戦うことを選択するのなら、一つだけ道がある…………それも確実に勝てるかもわからない、相当勝ち目の薄い賭けよ』

『どうする、エル……?』

 


 俺は言葉を詰まらせた。


 昨日あんなにもユーリに励ましてもらいながら、いざ予想外のことが起こると恐怖に我を忘れてしまっていたのだ。


 悔しい、そんな情けない自分自身が悔しい……だが、それと同時に俺は「勝てっこない」という恐怖で足が震えてしまっているのだ。


 そんな俺の様子を見てユーリは

 

 『……エル、逃げることは恥ずかしい事じゃない……嫌なものは嫌だって言っていいのよ……私たちはパートナーなんだから、それぐらい頼っていいのよ』


「…………だ…………い、やだ――」


『……分かったわ、エル、私は貴方の意見を尊重するわ……降参しなさ――』


「――このまま負けるのは――嫌だ!」


 その言葉にユーリは息を呑んだ。


『……エル?……本当にそれでいいの……』


「もう、逃げてばっかじゃ嫌なんだ、そんなんじゃ、いくら経ったって変われないままなんだ!」

 


『――そう、分かったはエル、貴方の気持ちは……』

『今からいうことをよく聞いてね……今のあいつに対抗するにはこっちも同じくらい強くならなきゃいけないの……そうじゃなきゃ戦いにもならないから……』

 


「でも、そんなのどうするの……?」


『そんなの決まってるでしょ、私が貴方に憑依するのよ』


「憑依……?」

 


 『ええ、今のエルじゃあいつには敵わない……多分私よりも強いと思う』

 『だけど、憑依なら……私が貴方に憑くのなら、もしかしたら戦えるかもしれない』

 『……ただ、憑依はそんな簡単にできるものじゃなくて、本来はもっと儀式を通してするものなの』

 『だから、ちゃんと取り付ける可能性は10%にも満たないかもしれない……それにもし失敗したらエルの魂が壊れる可能性もあるの……それでもやるの?』

 


 俺は無言で肯定を示した。

 


 『ごめん、愚問、だったね……』

 『分かったわ……やるよ、やってやりましょ!』



 そう言ってユーリは本来の魔力だけの姿に戻り、俺の中に入り込んだ。

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