第2話 登校初日

「ここが魔法学校か……ほへぇ〜デッカ!」

 

 俺が昔いた村と比べるまでもないほど高度に発達した中央都市の中でもずば抜けて存在感のある建物の前に来ていた。


『こら、エル……そんな反応してると他の子から田舎者って馬鹿にされちゃうよ』


 そう耳元で囁いてきたのは俺の命の恩人……恩霊?のユーリだ。


「いやだって……ここまで村と違うなんて思わなかったんだもん、ユーリだって内心ビビってるでしょ」


『そんな事ないわよ、私は十分大人なレディーなんだから、余裕ってものがあるのよ』


 そう言いながらその小さな体を自信満々に張ってくるのだから、今の体の大きさも相まってか俺は笑ってしまった。


『ちょっと!なんで笑うのよ!』


 そんな俺の様子に恥ずかしそうユーリが怒ってくる。

 

「――ははっ――だって、そのちっちゃい状態でそんなに胸張るもんだから、子供が必死に大人びて見せようとしてるようで――ふふっ――微笑ましいなって」


『あなたが肩に乗るぐらいのサイズにしてって言ってきたんでしょ!』


 ユーリはついにプリプリと怒ってしまったが、やはりそれも小さいからか微笑ましくなってしまう。


 俺は肩のユーリの頭を撫でてご機嫌を取ろうとした。


「ごめんってユーリ、もう笑わないから許して」


『全くもう、分かったならいいのよ、わかったなら…………ふにゃ〜……もっと続けるのだ』


 ユーリは気持ちよさそうに俺の髪なでを教授している。

 

 ――――ちょろ


 そんなやりとりをしていると門が開き、一人の大人が出てきた。


 おそらく教員であろうその人物は俺の存在に気づくと、近づいてきた。


「君がエーデルワイス君だね?……ようこそ王立魔法学校ラナキュラスへ。校長から話は聞いているよ、入試試験で歴代最高の成績を収めた極めて優秀な子だと。私が君を君が所属することになったクラスまで案内しよう、着いてきてね」


 そう言ってその人物は歩き始めた。


 そうここは王立魔法学校ラナキュラス。

 

 国内で最有名な学校とも噂されており、魔法の道に進みたいものは皆こぞってこの学校を志願するため最も有名で最も入ることが難しい学校と言われている。


 ただ定員のほとんどは、この国の発展に大きく貢献した貴族たちが独占しており、まあそれもそのはず幼少期からお金をかけて魔法を学んでいるのだから、独学で勉強するしかない庶民とは魔法の熟練度が天と地ほどの差があるのだ……庶民出身の入学生は俺が6年ぶりという具合だ。


 まあ、俺は幼少時代、精霊のユーリに育てられており、そこで魔法を手取り足取り教えてもらった為、そんな狭き門であるこの学校の入試に無事合格することができたのだが……俺は正直落ちると思っていたので、受かった時の喜びは相当だった……一方のユーリは「当然でしょ」なんて顔していたが。


 ただ、田舎の森からこの都市に引っ越してくるのに予想外に手間取ってしまい、本来は先週の入学式から通うはずだったのを、急遽1週間ほど遅れて編入と言う形で通うこととなった。


 これも全て引っ越し直前になってベットが1つしか無いことに駄々を捏ねてきたどっかの精霊さんのせいだが。


 俺は掛かる費用と、利便性を天秤にかけて、ベットは1つの所でいいなと結論付けたのだ。


 その上、二人で一緒に寝られるようにと、キングサイズにするという配慮もしたと言うのに、ユーリは何故か顔を真っ赤にしながら「……エルの気持ちは嬉しいけど……やっぱまだ早いよ……こう言うのはもっと大人になってからじゃないと//……ごにょごにょ」と言っていたのだ。


 そんなことを考えていただからだろうか、右頬を叩かれてしまった。


『何ぼーっとしてんのよ……あいつ、行っちゃうわよ』


 俺は急いでさっきの先生の背中を追いかけた……初日から迷子になるなんてごめんだね。

 

 そして、その背中に追いつくと、息を整えて質問した。


「あの……先生?の名前は……」


「ああ、失敬……自己紹介をどうやら忘れてしまっていたみたいだね。私の名前はカタフだ、気軽にカタ先生と呼んでくれたまえ」


「わかりましたカタ先生。聞きたいんですけど、この学校ってペットの持ち込み可能ですか?」


 俺の言葉に『ペット?エル、何言ってるの?ペットなんて飼ってないじゃない』と右肩から聞こえたが無視無視。


 カタ先生は少し面食らったような顔をして

 

「ははっ、最初の質問がそれになるか……君、面白いね。君が言いたいのはペット、というかその肩の娘をこの学校に連れて来て良いのかってことだよね?……結論から先に言うと、全く問題ないよ。この学校は生徒主体の自由を売りにしているんだ、何か問題を犯さない限りは大丈夫だよ」


 すぐ隣で『えっ?……ペットって私のこと』と驚く反応があるが俺はそれをスルー


 そして、受け入れられたことに安堵すると同時に気づいてしまった。

 

「……先生、もしかして見えてます……?」


「見えてるって言うのは、その精霊のことかな?……ううん、見えてはいないよ、精霊は実体化をしない限り契約者にしか見えないものだからね……ただ、私も魔法の研究をしている者だ、見えなくてもそこに何か居る事ぐらいはわかるさ」


 今度は『ちょっと私がペットってどう言うことよエル!』と髪を引っ張ってくる、しかしそれも華麗にスル〜。


「生徒もみんなわかりますかね?」


「う〜〜ん……それはどうかな、一部の優秀な子達は気付くもだけど、大半はわからないんじゃないかな……だから、安心して学校生活を楽しむといいとエーデルワイス君、さあ着いたぞ、ここが今日から君の学舎となるところだ、入りたまえ」


 そう言ってカタ先生が開けた扉をくぐると、俺はこれからのクラスメイト達の前に出された。


「みんな聞いてくれ、この子が昨日行った今日から編入して来た子だ。みんな仲良くしてやってくれ」


 そう紹介され、その後自分でも挨拶をしろと迫られてしまった。


 ――まずいまずいまずい


 これまでユーリとしか喋ってこなかった弊害か、俺はド陰キャなのだ。大勢の前での挨拶とかできる訳ないじゃん!


 そう俺が固まってしまっていると、天から助けが降ってきた。


『エルよ、先ほどの無礼を謝るなら、私が考えた友達100人作るための挨拶を教えて差し上げましょう』


「さっきまで調子乗ってすみませんでしたユーリ様」


 俺はすぐさま謝り、ユーリに耳打ちをしてもらった。


「エル君?……挨拶をして欲しいんだけど……無理なら無理って言ってね」


 俺が中々始めないからか、カタ先生が心配そうに聞いてくれたが、もう俺は大丈夫だ。


 なんせ、俺先ほどユーリからもらった切り札があるのだから。


「いえ、大丈夫です先生」


 そう言って俺は一歩前に出てクラスメイトのみんなの顔を見ながら話し始めた。


「いつもニコニコあなたの後ろに這い寄る我が名はエーデルワイス!好きな言葉は『穴があったら入りたい』!」


 ユーリに言われた通り、俺は恥を投げ捨てて出来る限り声を張り上げて言い切ってやった。


 これで無反応とかだったら心に来るんだけど……


 俺の予想外な自己紹介にどう反応したら良いのか悩んでいるのか、しばらく教室には沈黙が続いた。


 ただ俺の肩の上で腹を抱えている一匹を除いて。


 ――駄目だったじゃんユーリのバカァ!!


 ――泣きたい……もう第一印象最悪じゃん、6年間ぼっち間違いなしじゃん……とほほ


 盛大に俺が滑ったのを見かねて、カタ先生が俺に声をかけようとして時、教室が突然拍手に包まれた。


 そして、「面白かったぞ〜〜」と野次を飛ばしてくれたりする子もいた。


 俺はどうやら誤解していたようだ。


 貴族とは、もっと庶民を見下して、同じ空間にいることすら耐えられないとか言う人たちだと思っていた。


 しかし、実際には俺のクソ滑りな自己紹介に笑ってくれて、暖かく受け入れてくれる人たちばっかりだった。


 俺は感激に襲われながら先生に言われた席に着くと、クラスメイトがいっぱい俺の席に来て話しかけて来てくれてのだ。


 しかし、そんな中、一人、金色の髪をした他の生徒とは雰囲気が異なる女生徒が近づいてきた。


「ちょっとごめんね、編入生のエーデルワイス君。ちょっと来てくれない?」


 そう呼ばれ、俺は彼女に着いて行った。


 彼女は教室を出て廊下に出た瞬間、急に俺の胸ぐらを掴んきて、


「私と勝負して」


 と言って来たのだった。

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