第49話 おもてなしだよ
リリが合流したので、二人を僕のホームにつれて来た。
「へぇ、結構大きなところだね」
「プレイヤーが借りれるホーム、既に結構埋まってるみたいだぞ」
「借りるんだったら、気軽にできるもんね」
「俺らも探すか?」
「ログアウトするだけなら、安い大部屋の宿で十分だけど。やっぱり、自分たちだけの空間ってほしいよねぇ」
ソファに座って部屋を眺めてる二人の会話を、料理の準備をしながら聞く。
大部屋の宿っていうのは、各街に一つあるプレイヤー専用の宿らしい。一回利用に十リョウというお安さ。でも、ログアウト中は、プレイヤーのアバターがすし詰め状態で寝てることになるから、嫌っていう人もいるみたい。
……僕も嫌だ。ログインした瞬間、たくさんのプレイヤーが寝てる光景を見たら、テンションが下がりそう。
「ここ、一部屋空いてるよ? ベッド置いたら、大部屋の宿よりはいいと思う。ログアウトに利用するプレイヤーが一人増える毎に、三十日間の賃料が百リョウ増えるけど。それくらい安いし」
提案してみたら、二人は顔を見合わせて悩ましげな表情を浮かべる。
「……正直惹かれる。でも、ここ、街の中心部とかバトルフィールドから遠いんだよな」
「北門は近いけど」
「北エリアは、第二の街周辺で一番モンスターが強いらしいぞ」
「そうなんだ……。僕、この街のバトルフィールドは、西の岩山しか行ってないからなぁ」
西はノース街道の延長みたいなものなので、そこまでモンスターは強くない。ボスモンスターの
「――あ、そういえば、転移スキルは持ってないの?」
ふと尋ねてみた。運営さんが補填してるのか気になる。
ルトたちとの農地とかホームへの移動は、当たり前のように徒歩だったんだ。
「それ、ボスモンスの体力を十%以上削るか、治癒士としての貢献が高くないともらえないスキルだろ? 俺たち、ほぼ
「私は回復量がちょっと足りない程度だったけど、ルトは何度か繰り返し挑戦してもまだ難しそうだよね」
ルトたちは資材運びの依頼を受けて、高ランク冒険者に
カミラと別れてからはじまりの街に向かう途中で見かけたけど、資材を使って街道整備してる作業場は、
今第二の街に到着してるプレイヤーの半分くらいが、ルトたちと同じ感じでクリアしてるんだって。
もう半分は、指南役と仲良くなって、資材運びなしで共闘するパターン。僕が掲示板で教えたやつだね。
一部の攻略組のプレイヤーが転移スキルを獲得できたって掲示板で報告して、獲得のための条件も判明したっていう流れがあったみたい。
「そっかぁ。僕は
イグニスさん様様です。
料理の手を一旦休めて、天を拝んだ。イグニスさんがいるのは、地中ですけども。
「あ、それ。どういうことだったのか教えろよ」
ルトに言われて、「他の人には内緒にしてねー」と念を押してから話す。
聖なる地捜索からのワールドミッション達成は、怒涛の勢いで進んだのです。
「――初っ端が、モグラの道への寄り道ってところが、モモらしいよな」
「楽しそうなイベントで良かったねー」
話を聞き終えたルトは呆れたような、感心したような、微妙な声で言う。リリは純粋に話を楽しんでくれたみたいだけど。
「置いていかれた時はどうしようかと思ったけどね。――はい、お寿司とトンカツ、完成です!」
「すげぇ組み合わせだな。でも美味そうだ」
「やったー! お寿司!」
二人が目を輝かせて喜んでくれるので、作った僕も嬉しい。
握り寿司の定番ネタがないのはちょっと不満だけど、美味しさは保証できる。お魚が新鮮だからね。
でも、マグロとかサーモン、鯛、イカ、ウニ、イクラ、穴子……ほしいものはたくさんだ。地道に釣人ランクを上げなきゃ。
トンカツは
サラダはキャベツ、レタス、トマト、パプリカ。
トマトは出店で買ってきたのと、農地で採ったのを一緒に出してみたから、食べ比べできる。出店で買ったやつは大きなトマトだったから、八つ切りにしたよ。
「他になんか食べたい料理ある?」
「うーん……パンケーキ! ホイップクリーム増し増しで、フルーツいっぱいの」
リリが期待に満ちた眼差しで言う。
それ、映えを狙った感じのメニューだよね。料理のデザインは、結構イメージ力が重視されるみたいだから、僕の力量が問われる。
「……がんばる!」
小麦粉やベーキングパウダーは買えたんだ。卵と乳製品もちょっぴりお高かったけど買ったし。作れないことはないはず。
「リリは考えなしに言ってるだけだから、無理はしなくていいぞ?」
「大丈夫だよー。あんまり期待しすぎないでほしいけど。ルトは食べたい料理ないの?」
苦笑してるルトからも聞き出そうとする。お肉が好きっていうのは知ってるけど。
ルトは悩んだ表情をした後、小声で言う。
「……ハンバーグとカレー」
「お子様メニューか!」
「そうツッコまれると思ってたから、言いにくかったんだよ!」
恥ずかしそうに叫ばれた。
ついツッコんじゃったけど、僕もハンバーグとカレー大好きだよ。なんか家庭の味って感じ。
ハンバーグのソースって、家庭によって違うよねぇ。ファミレスとか洋食屋さんの味も好きだけど。鉄板焼屋のハンバーグは『肉食べてるー!』って実感できる感じで、これも良い。
カレーは家庭の味なんだけど、ほぼほぼ企業努力で成り立ってる。つまり、カレールウは偉大! 具材とか隠し味で差が生まれてるんだろうな。
スパイスから作るカレーは、店の味って感じでいいんだけど、ホッとするのはカレールウで作ったカレーだよねぇ。
「……ハンバーグ作るには牛肉がないし、カレーを作りたくても、ルウどころかスパイスもない。カレー用のスパイスは調べないとわからないから、確信はないけど。料理スレでは発見報告なかったし、たぶんない」
ぶつぶつと呟いて現状把握をしてたら、天啓を受けたようにビビッときた。
「――これは、食材発見のためにさらなる冒険をしろというお告げ……!?」
拳を握って天を見上げる。
僕、きっとみつけてみせるよ。この世界にハンバーグやカレー、つまり家庭の味をもたらすために……!
「いや、そこまでがんばらなくていいから。むしろ、飯のためにそこまでやる気を出すお前を、いまだに理解しきれない」
ルトが冷静な感じで言った。
そんな熱意が下がるようなこと言わなくてもいいのにー。ここは「俺のために……? ありがとう! 応援するよ!」って言うところじゃない?
……そんな感じのルトは解釈違いだな。ごめん、ルトのリアクションが正しかったかも。
「料理の力は偉大なり。――まぁ、食材みつけた時はごちそうするね。とりあえず今は、チキンステーキをどうぞ」
「トンカツにチキンステーキ……リアルだと絶対に一食で食わない組み合わせだな。寿司もあわせるとさらに」
苦笑しながら受け取ってくれた。
今食べれなかったら、アイテムボックスにしまってください。
「ちなみに、チキンと言いつつ鶏ではない」
「それはそうだな。鶏肉じゃなくて鳥肉?」
「うん。
「そうだろうけど、先の楽しみを明かすなよ。新しいモンスに会うの、ワクワクポイントだろ?」
そう言うルトだって、モンスターの情報は掲示板で事前に調べるタイプじゃないの?
******
◯NEWアイテム
【にぎり寿司】レア度☆
空腹度を十回復する。一時間、水属性の攻撃で受けるダメージが減少する。
ネタは
〈レシピ〉
①魚介類を錬金術で下ごしらえ→【寿司ネタ】
②酢飯を作る。(米を【炊く】+すし酢を【混ぜる】)
③【寿司ネタ】と酢飯を【成形】
【トンカツ】レア度☆
空腹度を十一回復する。
〈レシピ〉
①
②【
③ ②でできた物を【揚げる】
【チキンステーキ】レア度☆
空腹度を九回復する。
〈レシピ〉
①
②【
③トマトをニンニク、塩コショウ、ハーブと一緒に【煮る】→【トマトソース】
④ ②に【トマトソース】をかける
******
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます