第47話 スキルほしい

 必要そうなものをあらかた買い終えて、そろそろ帰ろうと思ったところで、一つの出店が目についた。看板に書かれているのは『スキル屋』という文字。


「カミラが言ってた、いらないスキルをほしいスキルに交換してくれるところかな?」


 市場にあったのかー。早速見てこよう。まだいらないスキルはないんだけど。


「モモ?」


 不意に呼びかけられて振り返る。


「あ、ルト! 久しぶりー」

「言うほど久しぶりでもないだろ」


 ふりふり、と僕が手を振ったら、ルトが肩をすくめながら近づいてきた。


「リリは?」


 ルトの周囲をきょろきょろと見渡す。ルトとニコイチだと思ってたリリの姿が見えない。


「あいつは今日、委員会あるから帰りが遅いって」

「……なるほど。つまり、ルトは今日ソロ?」

「もうちょっとしたらログインしてくるだろうから、それまで街ブラついてるだけ」


 リリがいないから、バトルはちょっとだけお休みらしい。ルトは「あいつ、俺が先にレベルアップすると拗ねるからなぁ」とぼやいてる。

 ……ノロケだと受け取ってもよろしい? 相変わらず仲が良くてなによりです〜。


「なんか成果あった?」

「良い武器みつけたけど、たけぇ」


 ルトは僕とは違う街の楽しみ方してる。武器なんて一切視界に入ってなかったよ。


「――お前は? どうせ飯関係だろ」

「大正解〜! どんどんぱふぱふ!」

「ムカつく効果音やめろ」


 もふもふの手だと拍手しても音が鳴らないので、効果音を声で補ってみた。ルトに軽く睨まれちゃったけど、気にしなーい。


「食材揃えたから、これから料理する予定だよー。まぁ、今はあれが気になってるから、見に行くけど」

「あれって、スキル屋? なんだそれ?」


 ルトは知らないのか。

 カミラに教えてもらったことを説明しながら、一緒にスキル屋に向かう。


「いらっしゃいませ。世界のどんなスキルも不要ではありません。なぜならお好きなスキルに交換できるから。いらないスキルがありましたら、ぜひ、お声がけください。スキル屋~、スキル屋で〜ございます」

「お、おう……急にセールスしてくるの、ちょっとびっくりする。選挙カーみたい」

「歌うみたいに滑らかな語り口だな。田舎のばあちゃんちで聞いた、さおだけ屋の営業っぽい」


 スキル屋の店主はにこやかな笑みだ。ちょっと裏を感じる。

 引いてる僕の横では、ルトが感心した雰囲気で頷いてた。ナチュラルに受け入れられるのすごいね?


「お褒めいただきありがとうございまーす」

「急にギャル店員。キャラ、ブレすぎじゃない?」


 きゃぴって感じのテンション、正直ついていけません。

 ルトはマイペースに交換できるスキルを確認してる。僕に『マイペースだな』って言うけど、ルトも大概マイペースだと思う。


「……あ、モモ、『詠唱破棄』スキルあるぞ」

「え、スキルいくつと交換できるの?」


 店主の怪しさをぽーんと忘れて食いついちゃった。ゲーム開始当初からの悩みが、ついに解消できる……!?


「四つだって」

「多いよー!」


 目を覆って泣き真似しながら嘆く。いらないスキルは四つもないよ。


「そうだよな。スキルって、行動で獲得するから、わりと全部いるやつだし」


 ルトも難しい表情をしてる。これ、どうしたらいいんだろうねぇ。


「スキル獲得でお悩みですか?」

「お悩みです」

「相談料五百リョウになります」

「金とるんかい!」


 手のひらを向けてくる店主に、思わず叫んだ。怪しい弁護士みたいなことするんじゃないよ。


「五百リョウか。俺、所持金の余裕ねぇんだよな……」

「あ、僕払うよ」


 魚料理を売り捌いた結果、只今大富豪なのでー。ふははっ! 持ちたる者の余裕とはこのことだ!


「……なんかムカつくような?」

「気にしないで」


 店主の手のひらにタッチ。ちゃりーんと支払い完了。このお金のやり取り、タッチ決済みたいだよね。


「スキルは行動で獲得します。ですが、スキルごとに獲得のしやすさには差があるのです」

「うん、それは知ってる」

「常識だよな」


 僕とルトが頷くと、店主が斜め上を見つめる。……まさか、これで終わりだなんて言わないよね?


「……えぇっと……こちらのカタログをご覧ください」


 思い出した感じでカタログを見せられた。ズラッとスキル名が載ってる。改めて見ても、たくさんあるよねー。


「――基本的に、いらないスキル一つで交換可能なスキルは、どなたでも入手しやすいスキルです」

「あ、そうなんだ?」


 ルトと二人でカタログに目を通す。


「……【ダッシュ】が取りやすいのは知ってる。シャトルランやってたら手に入った、って聞いた」

「シャトルラン、嫌な響き……。なぜゲームの中でやろうと思ったの」

「走りたかったんじゃね?」


 あれ、わりと嫌いだったよ。僕、運動は不得意なので!


「おっと、【草取り】ってなに? 採集じゃないの?」

「採集スキルを使わずに雑草を取る作業をすると入手できるスキルですね」

「使い道は?」

「……ほら、こうやって、他のスキルと交換できますよ!」


 店主が『スキル屋』と書かれた看板を指さす。他に使い道はないんですね。

 でも、いらないスキルを狙って入手して、行動で手に入らなそうなスキルに交換するのはいいかも。


 いらないスキル一つと交換できるのは、【投石】【鼻歌】【毛繕い】【ジャンプ】などたくさんあった。

 ……地味に、【毛繕い】が気になる。そのスキルを使ったら、僕はもっともふもふ可愛くなりますか?


 思考が逸れそうになったのを止めて、頷く。

 こっそりとメモにスキル名を記録しておいた。これを確認しながら、今後行動してみよう。


「なるほど〜。わざといらないスキルを取得する感じでがんばってみようかな」

「意外とすぐに集まりそうだな」


 ルトも頷いてるので、僕と同じ感じでがんばるつもりなんだろう。交換できるスキルにあった【魔剣術】って文字に目を輝かせてたのは見逃してないよ!

 これたぶん、魔法剣みたいな派手なエフェクトがある剣術だと思う。カッコよさそうだから、惹かれる気持ちは僕もわかるよ。


 ちなみに僕は、【詠唱破棄】以外にも、【神級栽培】スキルが気になってる。農地で使えるのでは? たぶん生産系のスキルだよね。作物にどんな影響があるんだろう。


 ……交換のために必要なスキル数が十二という鬼畜具合だけど。きっとすごいスキルなんだろうな!


 他にも【光魔術】【闇魔術】は魔術士として取得しときたいスキルだよねぇ。これは必要スキル数が三なので、たぶん易しい。


 【嵐魔術】や【雷魔術】は必要スキル数が八ってなってる。初めて見たスキルだけど、複合属性魔術ってやつかな? 

 基礎属性の魔術を育てたら、いつか取得できるかもしれない。覚えとこう。


「それじゃ、スキル集めてからまた来るね!」

「お待ちしておりますよ。交換に使ったスキルは、再取得不可になりますから、よくよくお考えくださいね」

「あっ、そうなの……。わかったよ!」


 怪しい雰囲気の店主だったけど、わりと親切だったな。相談に五百リョウの価値があったかは謎だけど!



******


◯スキル屋交換カタログ

〈交換可能スキル〉

 ◇交換に必要なスキル数=1

 【草取り】【投石】【ダッシュ】【鼻歌】【毛繕い】【ジャンプ】etc.


 ◇交換に必要なスキル数=2

 【回避】【キック】【パンチ】【火魔術】【水魔術】etc.


 ◇交換に必要なスキル数=3

 【光魔術】【闇魔術】etc.


 ◇交換に必要なスキル数=4

 【詠唱破棄】etc.


 ◇交換に必要なスキル数=5

 【魔剣術〈火〉】【魔剣術〈水〉】etc.


 ◇交換に必要なスキル数=6

 【状態異常回復】etc.


 ◇交換に必要なスキル数=7

 【魔剣術〈光〉】【魔剣術〈闇〉】


 ◇交換に必要なスキル数=8

 【嵐魔術】【雷魔術】etc.

〜〜〜 〜〜〜

 ◇交換に必要なスキル数=12

 【神級栽培】etc.


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