第46話 お料理の前準備

「お魚いっぱい、らんらんら〜ん」


 第二の街をスキップしながら進む。

 前回は釣りをした後、第二の街のホームに戻ってきてログアウトしたので、今日はその続きから再開だ。釣った魚で料理したいから、他の食材を集めるために市場に来たよ。


 朝一で果物収穫バイトのミッションをしてきて、報酬として【桃】【オレンジ】【ぶどう】【マンゴー】はもらったんだけど。料理にはあんまり使えないよね。


「大根とレタスとトマトは後で収穫するとして、あとはなにがいるかなー?」


 まだなにを作るかは決めてない。食材を見て、料理スレで相談しながら考えようと思って。

 ご飯食べるの好きだけど、レシピはあんまり知らないんだよなぁ。


 課金アイテムに【料理レシピ本】っていうのがあるのをみつけて、取得するか真剣に悩んでる。

 地道に勉強すればいいってわかってるけど、人間というのは楽をしたい生き物なのです。


「市場、人がたくさーん!」


 にぎわっている市場にワクワクする。こういうところって、見てるだけでも楽しいんだ。蹴られないように注意が必要だけど。


「あ、プレイヤーも発見」


 ようやく僕以外のプレイヤーも第二の街に来れるようになったんだね。結局、転移スキルの扱いはどうなったのかな?

 ……他のプレイヤーに聞く勇気はないや。


 人混みを縫うように進んで、出店を覗いていく。

 最初にみつけたのは果物屋さんだ。でも、果物はたくさんあるし――。


「って、イチゴ! メロン! スイカ!」

「らっしゃい。いくつほしいんだい?」


 目に入ったものを反射的に叫んだら、店主さんにほしいと思われたみたい。ほしくないわけではないんだけど、驚いただけなんだ。

 果樹園は木に生る果物ばっかりで、イチゴとかのいわゆる果実的野菜はなかったからねぇ。


「うーん……イチゴ十粒、メロンとスイカは二つ!」

「全部で百七十リョウだよ」

「お安いね」


 サクッとお支払い。みつけたからには、買わないと損みたいな気分になってる。

 果物たくさんあるし、フルーツポンチとか作ろうかな? スイーツの発想力がなくて、レシピが他に浮かばない……。


 料理スレに『果物を使ったメニュー・レシピ募集』とコメントしておいて、次の出店に移動。

 ここは野菜を売ってるみたい。


「今日のおすすめなんですかー?」

「ピーマンとナスが安いよ。オクラとニンジン、キャベツ、アスパラガス、トマト、パプリカ、ズッキーニも美味しい。あと、もやしやえのき、エリンギ、じゃがいも、サツマイモ、ごぼう、山芋、玉ねぎ――」

「わかった、全部美味しいんだね!」


 店主から際限なく出てくる野菜の名前に、頭の中がキャパオーバーだ。そんなに覚えられないよ。


「それで、どれにする?」

「……全部五個ずつ!」


 どんなレシピに使うのかが咄嗟に出てこないので、全部確保しておく。また買いにくるのは面倒くさいし。


「太っ腹だね。それなら、【食料ボックスEX】をおまけしてあげよう」

「EX?」


 食料ボックスは知ってる。よく活用してるから。五種類の食料アイテムを各種五十個までまとめて保存できるアイテムだよね。


「そうさ。これは五十種類を各種十個までまとめて保存できるんだ」

「すごーい! たくさんの種類をちょっとずつ持っておく時に便利だね!」


 そろそろアイテムボックスに課金して容量増やさないといけないかなー、って思ってたんだけど、これがあるならまだいらないかも。


「そうさ。――ほら、どうぞ。全部で千五百リョウだよ」

「あ、結構いったね」


 たくさん買ったし仕方ないか。しばらく野菜は買わなくて良さそう。料理でよく使いそうな野菜は、畑で栽培しようかな。


ラビ系のモンスターは草食なことがあるって聞くけど、ホントだったんだねぇ」

「……僕は雑食だよ?」


 なぜなら、中身が人間なので! 本当の天兎アンジュラパがどうなのかは知らない。


「そうなのかい?」

「うん。だから、お肉を買える場所、教えてー」

「それなら、三軒隣がおすすめだよ。この辺で獲れる肉はすべて網羅してるはずさ」


 それはすごい。つまり、モンスター情報も得られるってことでは? 早速行こう。


 三軒隣は、確かにたくさんのお肉が並んでた。保冷機能のついたガラスケース越しにお肉を眺める。


「【夢羊ドリームトンの肉】【鳴蛙バークフロッグの肉】【虹鳥ニジバードの肉】【茶豚ティピッグの肉】――」


 ……いっぱいあるね!

 この街の周囲にモンスターがたくさんいることはわかったよ。


「どれにするかい?」

「いろんな料理に使いやすいお肉、どれ?」


 自分で考えることを放棄した。そもそも、現実のレシピがそのままモンスターのお肉に適用できるとは限らないし。現地の人に聞くのが一番良い気がする。


「焼くんだったら夢羊ドリームトン、煮たり揚げたり幅広い調理法に使えるのは鳴蛙バークフロッグ虹鳥ニジバード茶豚ティピッグかな。大体のモンスターのお肉は、使用用途が広いよ」

「じゃあ、その四種類をちょうだい。十個ずつかな」


 おすすめを買う。これで色んなメニューに対応できるでしょ。

 料理スレに『肉料理レシピ希望。ラム、カエル肉、鶏肉、豚肉を使ったものが良いです』と書き込んでみる。


「あ、果物レシピいっぱい出てる」


 路地に入って休憩しながら、掲示板を眺めた。次々にレシピを出してくれるみんな、親切だなー。ありがたい。


「ケーキ作るには、小麦粉とか牛乳とか、バターとか、必要なもの多いねー。シンプルなのだとジャムとかゼリー? これくらいなら作れそうかな。でも、パンケーキくらいなら作れる? ベーキングパウダーが買えるか、調べてみないとなぁ」


 さらに肉料理のレシピも次々に出てきた。追加で魚介類のレシピも頼んでから、出てきたレシピに目を通す。


「チャーシュー! ラーメンとかチャーハン作りたくなるやつだ。あ、チャーシューって、鶏肉でも作れるんだ? へぇ、初知り。カエル肉は鶏肉っぽい? 現実で食べたことあるのかな? 教えてもらえて助かったけど。ラムはやっぱりジンギスカンのイメージが強いよねー」


 なんか、レシピを見てただけでお腹空いてきた。空腹度は減ってないから、気分の問題なんだろうけど。


「魚料理のレシピも出てきた。刺し身、煮魚、焼き魚は基本だよねぇ。あ、炊き込みご飯!? 美味しそう……。でも、鯛かぁ……。赤目鯛レッディメダイで作れるかな? 桜浅蜊サクノアサリで深川めし風もいいよねー。……パエリア! これ、家庭で作れるやつなの? あ、意外と作り方簡単そう。貝だと酒蒸しも美味しそうだなぁ。エビと貝でアヒージョはシャレオツ!」


 うんうん、と頷きながら、ある程度見終えたところで休憩終了。なんとなく料理のイメージが掴めたぞ。


「――卵と乳製品と粉物と調味料を買って帰ろう」


 色んな料理で使いがちな食材がわかったので、掲示板を閉じて行動再開。美味しい料理を作りたいな!



******


◯NEWアイテム

【食料ボックスEX】

 五十種類の食料アイテムを各種十個までまとめて保存できる。


◯モンスター情報

夢羊ドリームトン

 木属性モンスター。主に、第二の街オース近くの【東の牧草地】で出現する。

 眠っているような顔がデフォルト。『ドリームソング』の攻撃で、敵を睡眠状態にする。得意属性【土】苦手属性【火】


鳴蛙バークフロッグ

 水属性モンスター。主に、第二の街オース近くの【南の密林】で出現する。

 大声で鳴き、脳を揺さぶるような衝撃波で攻撃する。得意属性【火】苦手属性【風】


虹鳥ニジバード

 風属性モンスター。主に、第二の街オース近くの【南の密林】で出現する。

 優雅に飛びながら、羽を矢のように放って攻撃する。鋭いクチバシでの攻撃も特徴。得意属性【水】苦手属性【土】


茶豚ティピッグ

 木属性モンスター。主に、第二の街オース近くの【北の森林】で出現する。

 木の根を操作して槍のように使い攻撃する。得意属性【土】苦手属性【火】


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