第42話 念願のどんぶり飯!

 突然ですが、モモのちゃちゃっとクッキングの時間だよ!


 ――って、一人でテンション上げてるの虚しい……。

 ホームを見渡してため息をつく。


 はじまりの街で買っておいたホームインテリアを並べて、結構快適な空間になってるけど、なんか物足りない。

 やっぱ、招く友だちがいないから? リリとルト、早く第二の街に来ないかなー。


「気分を上げて楽しもう」


 うん、と頷いて、キッチンでアイテムボックスから食材を取り出す。

 商業ギルドに行った帰りに、お米買ってきたんだー。ちなみにお米育てるのは許可制らしい。農業ギルドに農作物の栽培実績を認められたら、許可が出るんだって。


「品種はよくわかんなかったけど、店主さんが酢飯に合うお米って言ってたし、大丈夫だよね?」


 麻袋に入ったお米を覗く。

 米屋さんにはたくさんの種類のお米が並んでた。このゲーム、食材の品種にこだわりすぎでは? 米の品種の多さには、ちょっぴり執念を感じちゃったよ。それぞれで味の違いを表現するの難しそう。


 まぁ、僕はそんな違いがわかるほど敏感な舌を持っているとは思えないので、店主さんのオススメを買ってきた。酢飯にするんだよーって言って教えてもらった『ササアヤオリ』って品種。……ササニシキのオマージュ?


「とりあえず、お米を炊く!」


 鍋にザラザラッとお米と水を入れて、料理スキルを発動。

 魚料理をたくさん作ったから、レベルが3になったんだ。【焼く】【煮る】【揚げる】の他に、【混ぜる】【オーブン焼き】【燻製】【炊く】【冷やす】【成形】の工程ができる。


 炊くって、お米以外で使うことあるのかな? お米への執念が料理スキルにまで影響してない? 日本人らしいけど。


「炊けたらお酢と混ぜるだけ〜」


 るんるんるん、と鼻歌を歌ってる間にお米が炊けた。待ち時間少ないのがノンストレスでいいよね。

 街で買ってきたお酢を混ぜようと思って、ハッと気づく。


「――酢飯のお酢って、ただのお酢ではなかったのでは……?」


 お酢の瓶のラベルに書かれてるのは、『米酢』の文字。

 ……ちょっと調べよう。


 掲示板の料理スレで質問してみる。


『酢飯に使うお酢って、米酢でいいの?』

『はじまりの街にお米あったっけ?』

『なんかミッションでゲットしたとか? うらやま』

『米酢に砂糖と塩いれたら、すし酢になるよ』


 お! さすが料理スレの住人さん。すぐに答えが出てきた。

 僕もリアルで料理勉強するかなぁ。たぶんイメージが詳しくできると、ゲーム内での料理に反映される気がするんだよね。


 今は教えてもらったとおりにすし酢を作る。【混ぜる】スキルと自分の手で混ぜるの、違いがあるのかな? 僕は不器用だからスキル使うけど、手作業の方が美味しくなるとか、ある?


「すし酢完成〜。お米と混ぜるぞ」


 これもスキルで楽ちん。

 なんかうちわで扇ぎながら混ぜてるイメージがあるんだけど、あれって何で? 粗熱が悪さするの? あれやってる姿、職人さんって感じがするよね。


「酢飯、ほかほか〜。ちょっと冷やしてから、これをどんぶりに盛って――」


 スキルで勝手に器が出てくるけど、これは味気ないので、買ってきたどんぶりに盛る。その上に、お刺身を並べたらあっという間に完成!


「初海鮮丼! 天ぷら添え」


 海鮮丼のお魚は真鰺リアルアジ金鰺ゴールデンアジ暴鱸アバレスズキ林檎間八アプルカンパチ銀剣魚キラタチウオ


 林檎間八アプルカンパチ銀剣魚キラタチウオは釣人ランクが上がってから釣れるようになったんだ。


 海鮮丼に愛鱚メデキス大沙魚ラージハゼの天ぷらも並べてみたのは、ただ食べたかったからだよ!


「豪華海鮮丼、いただきまーす」


 僕の身長にあわせたダイニングセットに座り、手を合わせる。

 箸を使えないのがちょっと残念だけど、フォークで刺してパクッと食べる。


「刺し身、うま〜。林檎間八アプルカンパチはほのかに甘みがあってぷりっぷり食感が最高! 酢飯もいい感じ〜」


 心が満たされて、体も元気になる感じがする。

 これ、寿司好きだって言ってたリリにも食べてもらいたいなー。あ、でも、にぎり寿司の方がいいかな? 【成形】スキルを使えば、できる気がする。

 そうなると、寿司ネタにもこだわりたい。


「……やっぱり、はじまりの街には戻りたいな」


 うまうま、と食べ進めながら真剣に考える。

 第二の街で一番の目的だったホームと農地をゲットしたから、そろそろはじまりの街に戻る方法を探したい気がしてきた。

 せめて、転移ピンは設定してきたいよね。


「むむ〜……死に戻りするかもしれないけど、がんばってみるかな?」


 僕一人でノース街道の奥に行ったことないから、モンスターの強さがわからないや。岩犀ロックライノの後に遭遇した苔むした岩ゴーレムは逃げ一択になるくらい強かったけど。


「まだ他のプレイヤー来てないっぽいしなぁ……」


 掲示板を覗いてみた。攻略組って言われてる人たちは、新たなボスモンスターに苦戦してるらしい。


 商業ギルドの人は『この街の一般的な冒険者なら対応できる』って言ってたけど、あれってカミラみたいな、プレイヤーの指南役を基準にした発言な気がするんだよねぇ。

 プレイヤーの実力はまだそこまで達してないよ。


「みんな、異世界の住人NPCとの共闘が鍵って分かってるのかな?」


 攻略スレの人が愚痴っぽくなってるのを見て、首を傾げる。

 指南役だった異世界の住人NPCと一緒に戦うって言ってる人がいないような。これ、教えてあげた方がいいのかな。


「――攻略スレに書き込むのは緊張する……」


 なにせ、僕はマイペースに楽しんでるだけなので! 『がっつりバトルするぜ!』と言ってる人に親しみがない。ルトはリリと一緒に行動してるから、そこまでがっついてないもんなぁ。


 でも、書き込まないのもちょっぴり罪悪感がある。チートっぽい方法でワールドミッションクリアしちゃった引け目?


 というわけで、コメントを用意。


『バトルチュートリアルの指南役と仲良くなると、一緒にボスモンス倒してくれるっぽい』


 僕が特定されないようにしてみたけど、これでいいかな。……うん、いいはず! 送っちゃえ!


 開き直った感じで掲示板に載せた。

 すぐにレスが付く。


『マジ? これ、そういうイベントだったの?』

『指南役とか、チュートリアル以来会ってねぇよ……』

『ひたすら挑み続けた攻略組さん、おつかれww』

『草生やしてんじゃねーよ! おかげで【絶望に挑みし者】って称号もらっちまったよ!』


「え、何その称号、響きがカッコいい……」


 自分のステータスにある称号を見て、思わずしょんぼりしてしまった。

 だって、そんなにカッコいい称号は持ってない。特に【スライムキングを尻に敷く】が異彩を放ってる……。


「――僕も、こっち側からボスモンスターに挑み続けたら、カッコいい称号をもらえる……?」


 急にやる気が湧いてきたぞ?

 やっちゃう? 死に戻り上等だぜ? ……ごめん、この口調は成り切れないや。第一、僕の見た目に合ってない。

 プリティーに言うなら『死んじゃうかもしれないけど、がんばるもんね!』かな。


「よし、次回ははじまりの街への帰還を目指して、がんばるぞ! えいえいおー」


 一人だけど気合いを入れるために声に出してみる。


 ――虚しいだけだった。この後、ログアウトしないといけないし、決意表明のタイミングを間違った気がする。


「……あ、ログアウト前に、畑の様子見てこよー。ついでに倉庫も設置しとこうかなー」


 今の僕は大金持ちなので!

 はじまりの街に戻ったら、また漁という名の釣りをしないと。スラリンがいるから楽できるよ〜。



******


◯NEWアイテム

【米 品種:ササアヤオリ】レア度☆

 第二の街オースで収穫された米。すっきりとした味わいで、粒感がはっきりしている。粘りが少なく、酢飯に最適。繊細な味わいの和食に合わせるのもグッド。

 料理スキルを使って炊くと、お茶碗に入った【白ご飯】が四つ完成する。


【米酢】レア度☆

 米から作られた酢。街で購入、あるいは米から錬金術で製作可能。


◯NEWモンスター

林檎間八アプルカンパチ

 海で釣れるモンスター。出世魚で、大きさにより呼び名が変わる。食欲旺盛で、力強い顎で噛みついてくる。食材になると、脂のりのいい甘みのある身で、ファンが多い。得意属性【火】苦手属性【風】


銀剣魚キラタチウオ

 海で釣れるモンスター。剣のような白銀の光を放つ――光の反射ではなく、発光している。別名、海中のライト。突き刺す攻撃を繰り出し、革鎧の多くを貫通する威力がある。得意属性【火】苦手属性【風】


◯スキル変化

料理スキル

レベル1――【焼く】【煮る】【揚げる】

レベル2――【混ぜる】【オーブン焼き】【燻製】

レベル3――【炊く】【冷やす】【成形】


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