第41話 お金は大事です

 畑に戻ってきた。転移ってはやーい!


 早速種をまこうとしたら、畑に縦横二十マスずつの表示が現れた。四百マスに作物とか設備とかを置けるってことなんだろう。

 苗は四マス使って植える感じだったから、単純に四百個植えられるわけじゃないんだろうけど。


 というわけで、買ってきた種(計三百個)と苗(二つ)を全部植えてみた。ここに植えるぞーって指示出したら、勝手にやってくれるから楽! 農場ゲームを思い出す。


 農場ゲームって、収穫物の保存のための倉庫拡張で苦労するイメージなんだけど、僕の場合ストレージを使えばいいってことだよね。あれ、ほぼ無限大の収納だし。


「……でも、いちいち工房に運ぶの、面倒くさい気もする」


 むむ、と考え込みながら畑を眺める。

 ひょろっとした苗が二本ある他は、まだ芽も出てない畑はちょっと寂しい感じ。


 設置できる設備を確認してみるか。

 ――スプリンクラー(自動水やりシステム)が重要って説明文を発見! ゲーム内時間四日の間水やりをしなかったら、作物が枯れちゃうんだって。今気づいて良かった。


「うわ……お高い……」


 スプリンクラーは百マスに一個の割合で置かないといけないみたい。つまり、この畑全体を賄うには四個必要で、一個五百リョウだから、計二千リョウ。……農地の賃料を超えてるんですけど?


「――必要経費だよね」


 所持金とにらめっこしつつ、スプリンクラーを購入・設置。

 これで作物が枯れちゃう心配はなくなったけど、ちょっと金策を考えないとなー。


 不労所得アイテム【打出の小槌】は毎回百リョウしかくれない。僕の幸運値、結構高めだと思ってたんだけど、効果が出てない気がする。最高額の一万リョウをくれてもいいんだぞー?


「倉庫もほしいんだけどなー……」


 眺めるのは設備【倉庫】の表示。作物や農業関連の道具を百種百個ずつ収納できるらしいんだ。

 問題は設置するのに二千リョウがかかること。払えないわけじゃないけど、余裕があるわけでもない。


「うーん……料理作って、商業ギルド行ってみるか!」


 悩んだ末に決断。

 製作したアイテムを売るのがどんな感じかも気になるし、金策も兼ねてやってみよう。


 そうとなれば、ホームへ戻らないと。死に戻りに備えて、ほとんどの素材をストレージに預けてるから、今の状態だと何も作れないし。


「また来るからね、僕の農地くん」


 名残惜しさを感じながらも、ホームまで飛翔フライでひとっ飛びした。



◇◆◇



 工房システムで素材を引き出し、ひたすら錬金術と料理のスキルで作業をする。この地道な感じ、嫌いじゃない。なんか無心になれるんだよね。


 幸い、素材はたくさんあった。はじまりの街では魚釣りをよく楽しんでたし、スラリンの協力もあって、毎回大漁だったから。


「魚料理ばっかりっていうのは、ちょっと寂しいけどねー……」


 アイテムボックスに収めた料理の数々を思い出して苦笑しちゃう。

 魚を使った料理ばかりだけど、一応味付けとか調理方法とか変えて、種類だけはたくさんある。


 最後に作った料理、金鰺ゴールデンアジの刺し身はそのまま自分の口へ。ぷりっとした食感で程よい脂のりだ。


「ん、やっぱりうまうま!」


 何度食べても、ゲーム内で食べるご飯は驚くほど美味しい。


「――あ、お米ゲットしないと!」


 忘れてたことを思い出す。第二の街にはお米があるはずなんだ。日本人として必須の主食は確保しないと。

 農業ギルドにはお米の苗はなかったから、稲作をするには条件があるのかな。とりあえず、市販のお米を探そう。


「商業ギルドで聞いてみたらいいかも」


 アイテムボックス内には食料ボックスがいくつも入ってる。それぞれ大量に料理を詰めてみた。これでいくらになるかな。

 倉庫を余裕で買えて、かつ、お米も買えたらいいんだけど。


 そんなことを考えながら、再び街中へ。商業ギルドは街の中心部の賑わってるエリアにあるらしいから、ちょっと遠いなぁ。


「中心部にも転移ピンを設置しとかないと」


 飛翔フライで飛びながら考える。

 やりたいことも、しないといけないこともたくさんで、ちょっと忙しいけど楽しい。


「……ママ見て、うさぎさんが空飛んでる!」

「うさぎが空を飛ぶわけないでしょ――って、飛んでる?!」


 親子に目撃された。男の子が手を振ってくれたので、僕も振り返す。ママさんは驚いてるみたいだけど、僕危ないモンスターじゃないから安心してね〜。


 愛想を振りまきながら街を進んでたら、電卓みたいなマークの看板が見えた。商業ギルドだ。一旦ここに転移ピンを設定。


 ひっきりなしに人が出入りしてる。……なんだか緊張してきたぞ? 考えてみたら、がっつり商人と話すの初めてかもしれない。だまされたりしないよね?


「……たーのもー!」


 気合いを入れて中に進んだ。決して、道場破りをするつもりはない。


 カウンターにいるたくさんの受付さんや、そこに並んでる人たちから視線が集まって、ちょっぴり恥ずかしくなった。調子乗ってごめんなさい。


 そそくさと【商品買取カウンター】と書かれているところに並ぶ。


「あんた、異世界から来たってやつ?」


 前に並んでる女の人がわざわざ振り返って尋ねてきた。猫系の耳と尻尾がある獣人さんだ。


「そうだよ。僕は冒険者のモモ。今日は僕が作った料理を売りに来たんだ」

「へぇ、そりゃいいね。私はヒョウ族のマナって言うんだ。まだ駆け出しの米農家さ」

「お米!」


 思わずマナさんの方に身を乗り出した。僕の勢いに、マナさんが目を丸くして驚いてる。


「そ、そうだけど……米農家って、そんなに驚くもの?」

「ううん。ただお米欲しいなってちょうど思ってたから。お米売ってくれる?」


 期待を込めて聞いてみた。でも、マナさんは「あー……それは難しいな」と言って苦笑してる。


「この街じゃ、米は商業ギルドが一括で買い上げて、各店舗に卸すんだよ。知り合いにちょっとあげるくらいは見逃してもらえるけど、売るのはルール違反なんだ」

「へぇー、そんなルールがあるんだ……」


 それじゃあ、店舗で買うしかないのか。

 ちょっとしょんぼりしてたら、マナさんがオススメのお米屋さんを教えてくれた。


「【マイドン米店】は色んな品種の米を取り扱ってて、リーズナブルだよ」

「あ、近いね。後で行ってみる!」


 マップに表示されたのを見ると、帰るついでに寄れそうな場所だ。来る時は見逃してたな。


「――お次の方、どうぞ」

「おっと……お先に失礼」

「うん、教えてくれてありがと」


 マナさんがカウンターへ進む。手を振ってお礼を言ってたら、すぐに僕も呼ばれた。三人体制で受付してたみたい。

 僕の担当をしてくれる受付さんは、緑の髪の女の人だった。


「本日の商品は何でしょうか?」

「色んな料理なんだけど……」

「食料ボックスに入ってますか?」

「うん、食料ボックスごと出したらいい?」

「はい。こちらで査定いたしますので」


 アイテムボックスから食料ボックスを五個取り出す。

 受付さんは食料ボックス内のアイテムを鑑定できるのか、紙に何か書いていた。


「――魚料理ばかりということは、はじまりの街からいらしたんですね」

「そうだよー。第二の街じゃ、魚獲れないの?」

「西の岩場を越えると海がありますが、あそこのモンスターは強いので、わざわざ魚を獲りに行く人はいませんね」


 受付さんが肩をすくめる。なんだか嬉しそうな顔をしてるように見えた。


「……もしかして、魚料理、この街で大歓迎?」

「もしかしなくてもそうですね。はじまりの街との交易を妨げていたモンスターは討伐されたようですが、その後別のモンスターがやって来ているらしく、以前通りの交易にはならない感じですし。それでも近日中にある程度回復する予定ですが」


 ……別のモンスター?

 岩犀ロックライノじゃないやつってことか。街開放のワールドミッション達成後に設定されてるエリアボスって感じかな。


「モンスターって、岩犀ロックライノくらい強いの?」

「いえ。この街の一般的な冒険者パーティーで対応できるのですが、退治してもすぐ新たにモンスターが湧くらしくて。ですが、一度倒したことがある人だと、モンスターの方が恐れを感じるのか、襲ってこないらしいですよ」


 戦うのは一回限りで良いってことか。レベリング目的でバトルを挑むことはできるんだろうけど。

 ……僕の場合、どうなんだろう。その新たなモンスターとはバトルしたことないし、戦わなきゃいけないのかな。

 ますますはじまりの街に戻りにくくなってるじゃん!


「——今は、はじまりの街に出向いている冒険者が、異世界出身冒険者と協力して、ひたすらモンスターを倒すという方針のようですよ。ついでに、損傷が大きい街道整備もしてくれるといいのですが」

「共闘ってことかぁ」


 僕がイグニスさんに戦ってもらって、クリアしたのと同じ感じかな。元々異世界の住人NPCの力を使ってクリアするのが正しかったってことだね。


 街道整備の必要性が出たのは、イグニスさんの攻撃による影響な気がする。……僕も整備に参加できそうならやってみよう。


「そうですね。——査定が終わりました。買取は料理二十五種、四百三十二品でお間違いないですか?」


 そんなに作ってた? 改めて数字で聞くと、膨大な量だなぁ……。


「うん、たぶん合ってる」

「現在魚料理の買取額を増額していますので、総額七万四千リョウでの買取になりますが、すべて買い取らせていただいてもよろしいですか?」


 紙を示された。それぞれ料理名と買取額が書いてある。

 真鰺リアルアジのお刺身が百二十リョウだって。高い! 自分で買うってなったら躊躇っちゃう金額だけど、買い取ってもらえるなら嬉しいね。


「……あ、お刺身は一部、買取に出さないでおこうかな」


 近々お米が手に入る予定であることを思い出して、海鮮丼を食べたいあまりにお刺身各種を返してもらった。

 今のところはじまりの街に気軽に行けない以上、お魚は僕にとっても貴重だし。多少はまだストレージに残ってるけどさ。


「分かりました。ではお刺身代を引いて――七万三千リョウでいかがですか?」


 なんか、ちょっとおまけしてもらってるような。ありがたく受け取ろう。


「それでお願いします」

「では、こちら代金です」


 所持金の桁が上がった。一気に大富豪になった気分!


「――今後も良いお取引をよろしくお願いします」

「こちらこそー。ありがとね!」


 お互いに良い気分になってお別れです。

 商業ギルドは、予想してたよりフランクに利用できそうなところだったな。



******


◯NEWアイテム

【スプリンクラー】

 農地に設置できるアイテム。設置すると農地百マスに自動的に水やりする。


【倉庫】

 農地に設置できるアイテム。作物や農業関連の道具を百種百個ずつ収納できる。


******

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