第40話 ワクワクが高まるね

 まずは家にやって来た。

 見た目は他と似た感じのペールグリーン色の建物。


 濃いめのグリーンの玄関ドアを押し開けたら、レナードさんの工房に似てる部屋があった。全体的に木でできてる。


 右手側の壁は一面棚で、左手側には作業台がある。奥には二階に続く階段。階段下には扉があるような……?


「一階の工房は、錬金術士に必要な基礎設備を設置済みです。ストレージの使用や、錬金術ギルドとのアイテム売買が可能ですよ」

「おお! それ欲しかったやつ」


 部屋の片隅にあるタブレットでギルドとのやり取りができるらしい。ストレージは錬金術士カードを使うだけでいいみたいだけど。


 これで心置きなく錬金術使えるね。

 最近の僕は魚釣り用の釣り餌づくりにハマってたんだ。結構、使う素材で釣れる魚が変わるっぽいんだよねー。目指せうなぎ! だけど、ほしい魚は他にもいっぱいある。


「工房を店舗にするには工事が必要です。そちらは物件購入後のご相談になりますので」

「りょーかいです」


 錬金術で作ったものを売るのも楽しそうだよねー。そのためには、お金を貯めなきゃいけないっていうのがネックだなぁ。


「奥の扉の外は中庭になっています。狭いですが、薬草の栽培も可能です」

「え、すごい!」


 扉を開けて覗いてみたら、確かに小さめの庭があった。今はなにも植わってなくて殺風景だ。


 上はたぶん二階の床部分になってて、あまり日差しは入らない。日陰で育つ系の植物の栽培にいいのかなー?


「では二階をご案内します」


 サクサク進む。

 二階は上がってすぐのところがリビングになってた。キッチンの反対側に二つの扉。大きめの窓もあって、日当たりがいい。


 二つの部屋はあんまり広くないけど、寝るだけなら十分。正直、ベッドを置けさえすれば家としての役割は事足りてるんだよね。


「完璧! 満足です」

「それはよろしゅうございました。では、続いて農地に行きましょう」


 家を出てから五分も歩かない内に、ひたすら地面が広がっているエリアについた。区画分けする感じで細い道が碁盤目状に走ってる。北門に続く中央の道だけが広めだ。


「モモ様がご契約しているのはこの奥ですね」


 てくてくと西側へ延びる細い道を歩く。

 農地一区画の大きさは、学校のプールくらいかな。でも、一人で作業するって考えたら、妥当な広さかも。


 僕が選んだ農地の奥には果樹園が広がってる。これは現地の住人が管理してる場所なんだって。たわわに実ってるオレンジが美味しそう。


「こちらは農地の管理者になると、農地管理システムを使用可能です」

「なぁに、それ?」

「モモ様はすでに賃貸契約済みですので、農地に入ってみるとわかりますよ」

「うん?」


 とりあえず自分の農地に入ってみる。土がふかふか〜。農業はしたことないけど、これ、良い土なんじゃないかな?


 そんなことを考えてたら、目の前にスクリーンが現れた。


「ふあっ……あ、これ、メニューみたいな感じ?」


 フレンド欄とか、ミッションとか確認できるメニューと同じ感じで、【種まき】【水やり】【肥料】【収穫】【設備】という項目があった。


 アイテムボックスから種を選んだ後、まく場所を決めたら自動的にしてくれるらしい。水やりと肥料、収穫も同じで、随分と作業が楽そうだ。


 一つわからないのが【設備】の項目だけど……。

 とりあえず選択してみたら、色んなイラストと一緒に説明文が現れた。【井戸】とか【スプリンクラー】とか【倉庫】とか【作業小屋】とか――。


「すごっ! 箱庭作りみたいで面白いねー」


 噴水、ベンチ、遊具なんてものまであって、もはや農業じゃなくない? って思うけど。楽しくて良いね。


「種や肥料はご自身で用意していただく必要がございます。農業ギルドである程度のアイテムを売っていますが、モンスターのドロップアイテムや錬金術で製作可能なものもありますので、色々と試してみてください」

「はーい! 楽しみだなぁ。早速農業ギルドを見てみようかな」

「では、ご案内はここまでに。賃料は自動引き落としですので。楽しいスローライフを」


 手を振った不動産屋さんが一瞬で消えた。

 ……不動産屋さんって、転移スキル持ちなんですか?


 ちょっぴり戸惑ったけど、まぁいっかって受け流して、農地を見渡す。

 まだ僕以外誰も借りてないから寂しい感じだけど、にぎわったらさらに楽しくなりそうだね。


「早速種買いに行こうっと」


 歩き出そうとしてハッと気づく。

 転移スキル使っといた方が楽じゃん!


「んーと……【転移ピン】!」


 唱えた後マップを確認したら、青い矢印が現在地についてた。これがピンの印なんだろう。


 戻ってくるのが楽になったな。街中には三つしか転移ピンを設定できないから、ちゃんと考えて使わないとダメだね。


「るんるんるーん」


 飛翔フライで飛んで移動する。障害物が一切なくて、飛ぶの楽しい!

 すぐに街中に入っちゃったけど、農業ギルドまで人通りが少なそうなので飛んで行く。


「おっと、ここだ……!」


 調子に乗りすぎて通り過ぎそうになったのはご愛嬌。てへぺろ。

 木と花のマークの看板がある建物の扉を押し開ける。


「こんにちはー」

「お……異世界のやつか」

「そうです。農地借りたので、種買いに来ました」


 中は園芸店みたいな感じで、植物がいっぱいだった。こういう雰囲気、結構好き。

 エプロンをしたおじさんが、僕を見て片眉を上げる。


「早速か。そんだけ農業に熱意があるんなら嬉しいけどよ」


 熊みたいなおじさんが、ニヤリと笑う。好意的な笑顔のはずなのに、山賊味があるのは、もじゃもじゃヒゲのせいだ。


「農業がんばるよ。美味しい料理を作りたいからね。僕はモモ。よろしく!」

「モモか。俺はサンゾーだ。この街の農業ギルドの長をしてる」


 はじまりの街の錬金術ギルドのミランダもだったけど、ギルド長って暇なの? 受付の人みたいに軽い感じでいるじゃん……。受付嬢がいたのは、冒険者ギルドだけだよ。


「農業ギルドの説明してほしいな」

「もちろんだ。こっちに来い」


 連れて行かれたのは、植物に囲まれたテーブル。緑があるだけで落ち着くなー。

 椅子に座って、サンゾーさんを見上げる。


「――農業ギルドは、基本的に植物の種や肥料の売買を行っている。相談にも乗るから、気軽に声を掛けてくれ」

「親身〜。ありがたいよ」

「おう。一人でも農業人口を増やすのが、このギルドの使命だからな!」


 ガハハッと笑うサンゾーさんは、ちょっと照れてるみたい。見た目より可愛い人だなー。


「農作物や料理などの買い取りは商業ギルドが担ってる。商業ギルドから許可が出れば、市場に屋台を出せるから、気が向いたらやってみるといい」

「ほへー、屋台での販売システムがあるのかー」


 はじまりの街ではプレイヤー同士の個人間取引しかできなかったけど、商業ギルドから許可が出れば、ゲームシステムを使って売買ができるようになるみたい。金銭トラブルが防止できていいかも。


 遊び感覚でやってみるのはいいかな。

 農作物を収穫したら料理して、それを誰かに食べてもらうのも楽しそうだしね。


「うちのギルドの説明はそんな感じだな。種が買いたかったらこっちだ」


 連れて行かれたのは、ギルドの一画。ズラッと麻袋が並んでる。それぞれ植物の名前が書いてあった。


「ここから、必要な分だけ買うことができる。初心者には【大根】と【レタス】、【トマト】あたりがオススメだ。大体七日で収穫できるぞ」


 それぞれ種十個で一リョウって書いてある。お安いね。


 大根ができたら、ぶり大根を作りたいな。ブリはまだ釣ったことないけど。サンマの塩焼きに大根おろし添えるのもいいなー。サンマもないけど。


 レタスとトマトはサラダに最適かな。

 トマトは煮込み料理にも使えるし……あ、アクアパッツァ作りたい! 貝ないけど。


 ……魚釣りが急務です! 海に行かないと。


 釣りしたい気分が高まってしまった。

 でも今は、野菜を育てるのが先だよね。それから魚介類の入手をがんばろう。

 自分で作った野菜は美味しいだろうな~。


「じゃあ、その三つちょうだい。百個ずつでいいかな」

「おう。じゃあ、これな」


 お金を渡して、種が入った小袋を三つもらう。この小袋、大きな袋に入れたらアイテムボックスの一枠に収まるらしい。

 収納領域の節約は大切! ってことで、大きな袋も購入してから、近くの苗をみつめる。


「……みかん?」

「ああ、そっちは果樹の苗が置いてある。今の時期に植えるならみかんがオススメだ。それは【太陽みかん】って品種で、すごく甘い実が生るぞ」

「おお! いいね。桃はないの?」

「桃? あー……【白美桃ハクビトウ】ならあるぞ。ちょっと小ぶりだが、これも甘い。生で食べるのがオススメだ」


 自分で育てた桃! 絶対美味しいでしょ。

 というわけで、【白美桃ハクビトウの苗】と、ついでに【太陽みかんの苗】も購入。それぞれ百リョウだった。


「がんばって育てろよ。実が生るまで、大体二十日くらいかかる」

「わかったよ、がんばる!」


 現実時間だと五日くらいってことか。だいぶ早いね。全然待てる。

 美味しい果物にするには、肥料も必要かな。雑草から採れる【ゴミ】を錬金して作ってもいいけど、ここで買っていってみようかな。


 オススメの肥料は野菜と果樹ごとに違うらしく、サンゾーさんに言われるがまま購入する。


 ……今日はだいぶ散財してる気がするけど、大丈夫! 結構貯まってたからね。いざとなれば、作り溜めしてる料理とかを商業ギルドに売りに行けばいいし。


「んー、農業楽しみ!」

「そんだけ楽しんでくれんなら、俺も嬉しいぞ」


 ワイルドな感じに笑ってるサンゾーさんに見送られて、農地に戻ります。

 自力での初転移だぞー!



******


◯NEWシステム

【工房タブレット】

 ホーム内の工房に設置できる設備。使用すると、所属する生産ギルドとのアイテム売買や納品が可能。


【農地管理】

 管理システムを起動すると【種まき】【水やり】【肥料】が半自動で行える。【設備】から、作業小屋などの設備を購入し、農地に設置できる。

 水やりを連続四日間忘れると作物が枯れるため、自動水やりシステム(スプリンクラー等)の設置が推奨される。


◯NEWアイテム

【大根の種】レア度☆

 大根が育つ種。収穫量はさまざまな要素で変わる。ゲーム内時間七日で収穫可能。


【レタスの種】レア度☆

 レタスが育つ種。収穫量はさまざまな要素で変わる。ゲーム内時間七日で収穫可能。


【トマトの種】レア度☆

 トマトが育つ種。収穫量はさまざまな要素で変わる。ゲーム内時間七日で収穫可能。


白美桃ハクビトウの苗】レア度☆

 白美桃ハクビトウが生る苗。収穫量はさまざまな要素で変わる。ゲーム内時間二十日で収穫可能。


【太陽みかんの苗】レア度☆

 太陽みかんが生る苗。収穫量はさまざまな要素で変わる。ゲーム内時間二十日で収穫可能。


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