美味を求めて
第37話 いざゆかん、新たな街へ!
見渡す限り、岩、岩、岩、そして溶岩……。
「――地獄かな?」
ぽつりと呟いて、首を傾げる。
ワールドミッションに関係するモンスターのところまで、火の
置いてきぼりにされたのは、結構恨んでるけどね!
イグニスさんがモンスターを倒してくれてるし、今のところ危険はない……はず。
「さて、どちらに進むかが問題だ……」
右手側に続くのは岩山。左手側に続くのは、ノース・サウス街道。
たぶんどっかで死に戻りしたら、はじまりの街の宿から再スタートできるんだろう。でも、ここでそれをするのはなんかもったいないよなー。
ワールドミッションは、死に戻りしても達成した功績を保持できるんだろうけど。
「――たぶん、こっちが第二の街なんだよね」
右手側を眺める。
岩が邪魔をしてるから、街の姿は見えない。でも、進めば辿り着くはず。
となれば、行ってみるしかない。死に戻りしたら、仕方なかったねって思うだけ。
「いざゆかん、第二の街へ!」
るんるん。
気持ちを切り替えて意気揚々と歩き始める――というより、
それはそうと、第二の街ってなんて名前だったっけ?
移動し始めてすぐに、モンスターと遭遇して追いかけられることになったから、余計なことを考えている暇はなくなった。
「ふぎゃー! ここのモンスター怖いよー!」
必死に岩場を飛んだ。後ろから、ドドドッと地響きのような音がする。
敵のモンスターは巨大なゴーレムみたいなやつだ。敵の動きが速くて、逃げるのに必死で鑑定できてないから、詳細はわからないんだけど。
――グオオッ!
「なんか、鳴いてるぅ!」
滞空可能時間が来て、一旦着地してすぐ
ずっと地面が揺れてる気がするのは、モンスターの影響だよね?
しばらく必死に逃げて、ようやく少し距離をとれたので、振り返って全鑑定スキルを発動。
――――――
【苔むした岩ゴーレム】
土属性モンスター。ぼーっとしすぎて苔が生えたゴーレム。テリトリーに侵入した者を追い払う。素早さ・防御力が高く、物理・魔力攻撃どちらも効きにくい。
――――――
「急に働き者になるの良くなーい! ぼーっとしてて!」
思わず文句を言っちゃった。
僕、いつの間にこのモンスターのテリトリーに入ったのかな? 追いかけられてからこいつに気づいたんだけど……さては、テリトリー広すぎだね?
「すくすくばっさーん――【
とりあえず木魔術で攻撃してみるけど、あんまり効いてる気がしない。これ、逃げ一択なのでは? テリトリーから出れば、ついて来ない気がする。
――グオオッ!
「なんか怒ってる。ごめんなさーい!」
攻撃したせいですね。うわ、地面の揺れがひどくなってる……! 着地したら、体が揺れるよ。
とにかく逃げましょう。街までは着いてこないでしょ。
――ガアアッ!
「って、なんか増えてるぅ!?」
びっくり仰天。ところどころに苔が生えた人型の岩みたいなモンスターが二体になってた。
ポケット叩いたらビスケットが増えるみたいに、攻撃したらゴーレム増えるとか、そんなこと起こる?
「いや、普通に、別のやつのテリトリー入っただけか……」
最初から追ってきてたゴーレムが立ち止まってるのを見て、ちょっぴり安心。追加の一体にはまだ追いかけられてるけど。
「やっぱ逃げるしかないね!」
僕の攻撃力じゃ、倒すのに時間かかりそうだし。ひたすら飛んで第二の街を目指すのみ!
というわけで、全力で逃走だー。
◇◆◇
岩山が途切れた先に、高い壁が見えた。
ついでに、岩山の谷間から延びてる街道が、壁に開いた門に繋がっているのがわかる。
「おお! あれが第二の街かな!」
結局、街の名前はなんだったっけ? 思い出せないんだけど……まぁいっか。
岩山を飛んでおりて、門の前に到着。さすがに壁を飛び越えるのは駄目な気がするから、ちゃんと門を通る。
「……は?」
「こんにちは、僕冒険者のモモです。ただのモンスターじゃないよ」
門衛さんが目を丸くしてるのを見て、すかさず冒険者ギルド証を差し出す。
僕は
うさぎに羽がある感じの見た目は可愛いし、いきなり討伐されそうになるってことはないと思う。というか、そうであってほしい。
「あ、あぁ……あの、異世界から旅してきた人? ですね。モンスター種もいるとは聞いてましたが、初めて会いました」
まじまじと見つめられたけど、問題はなさそう。冒険者資格を確認してすぐに「どうぞお通りください」って言ってもらったし。
「第二の街オースへようこそ。歓迎しますよ」
「あ、オースだった!」
「はい? そうですが……」
なんか困惑させちゃった。ごめんよ。街の名前を思い出せなくて、もやもやしてたのが解消されただけだから。
時々、なんで思い出せないんだろっていうことあるよね? これ、めっちゃ気になっちゃうんだよなー。
「気にしないでー。それじゃ、入らせてもらいまーす」
「あ、ここにいらしたということは、モンスターを避けてこられたんですか?」
街に入った途端、背中に声が掛けられた。
思い出したように聞かれたけど……モンスターってどれのこと?
「ゴーレム?」
振り返って尋ねたら「いえいえ。
「……それは火の
「は……?」
ぽかんとした顔の門衛さんから目を逸らす。
あれは悲しい事故(?)だったね……。僕が言えることは一つだけ――。
「
「そんな予定はそもそも一切ありませんけど……?」
でしょうね。
僕が頷いてたら、情報を理解した様子の門衛さんが「え、でも、
「――この街の冒険者による討伐計画はどうなって……?」
「なにそれ?」
初耳の情報だ。ふざけるのをやめて真剣に聞いてみる。
「
つまり、
「……はじまりの街にたくさん冒険者が来てたのは……」
「異世界の方をスカウトするためですね」
今さら、『バトルチュートリアルでの指南役冒険者多すぎじゃね?』話の裏設定がわかったよ! そういうことか!
僕も、指南役だったカミラと仲良くなってたら、一緒に
……なにそれ、すごい楽しそうだったじゃん! すでにイグニスさんの一発で倒されちゃってるけどね!
「報酬の【転移】スキルって、もっとたくさんの人に行き渡る予定だったのでは……?」
恐ろしいことに気づいてしまった。
そのスキルを使うと、街中とかバトルフィールドに転移できるっていうやつ。
めっちゃ便利なスキルだと思うんだけど、僕一人しかもらえてないのはいいのかなーって不安だったんだ。今のところワールドミッションでしかもらえないスキルっぽいし。
本来は大多数に行き渡る予定だったなら、もらえなかったみんな可哀想では? 僕、みんながもらう機会を潰しちゃったのでは?
「――運営さんに言っとこう!」
どっかで補填してくれー! 神頼みならぬ、運営さん頼みです。僕、恨まれたくないから。
メニューから運営さんにお手紙。ついでに、魔術詠唱の文言についての苦情もしとこう。早く文言変更か、無詠唱スキルを準備してください!
「とりあえず、
門衛さんが慌てて上司が詰めているらしき門衛所に向かう。……ここ、空にしていいです? はじまりの街から来る人は、今ほとんどいない感じとはいえ、ね?
「――あ、モモさん! ぜひご一緒に! 詳しいお話を聞かせてください!」
「えー……」
うっかり心の声が出てしまった。だって面倒くさい。
門衛さんが苦笑してる。
「桃のソルベをお出しできますよ。長旅でお疲れでしょう? 休憩を兼ねて、お願いします」
「桃のソルベ!? 的確に僕の好物を提示してくるの、すごすぎない?」
あっさり釣られますけどー。
僕、桃大好きだから。第二の街は農業が盛んで、果物がたくさんあるって聞いてたから、楽しみだったんだよねー。
るんるんしながら門衛所に向かう。
――情報を話すのは面倒くさかったけど、桃のソルベは冷たくて甘くて、最高に美味しかったから大満足です!
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◯NEWモンスター
【苔むした岩ゴーレム】
土属性モンスター。ぼーっとしすぎて苔が生えたゴーレム。テリトリーに侵入した者を追い払う。素早さ・防御力が高く、物理・魔力攻撃どちらも効きにくい。
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