第38話 美味しいものたくさんだね

 門衛さんとのお話しが終わったので、第二の街オースを楽しむぞ。

 第二の街は、グリーン系の色をした建物が多いみたい。目に優しい感じがしていいねー。


「はじまりの街は港町って感じの雰囲気だったけど、こっちは山に近い町って感じ? 田畑が多いなぁ」


 周囲を見渡して頷く。

 農業が盛んだって言われるのがよく理解できるくらい、建物と同じくらい田んぼや畑が目立っている。


 街はぐるっと高い壁で囲まれているみたいで、田畑も街中にあるんだよ。外はモンスターがいるからなんだろうな。

 日本も地方の町って、わりとこんな感じだよね。果樹園が多いのは一部地域って感じがするけど。


「――ふわぁ……! 果物たくさんだ! 桃、ぶどう、さくらんぼ、梨……とりあえずたくさんある!」


 正直種類多すぎだと思う。ここ、果物天国かな? 季節感はあんまり関係なく実が生ってるのは、ゲームらしいね。


 街の一画にある果樹園で、たわわに実っている果物を眺めて、「美味しそうだなぁ……」とこぼす。食べたい。


「お? お客さんかい?」


 果樹園から男の人が出てきた。僕を見て驚いた顔をしたけど、「あぁ、噂の異世界のやつか……」と呟いて納得してる。


「ここ、販売してるの?」

「してるぞ。果物狩りができる。採った分だけ金を払ってもらうけどな」


 時間制じゃなくて、収穫に応じた料金制ってことね。意外と、いつの間にか高いお金払うことになっちゃうやつ。


「……おいくらですか?」

「種類によるぞ。ぶどうなら、一房二十リョウだな」

「お安い!」


 はじまりの街に果物が並んでた頃にチラ見したけど、倍以上の値段だったよ。……あ、でも、この街だと普通か、ちょっと高い可能性もある?

 一回、街の市場を覗いてみるべきかなー。


「……とりあえず、桃採りたい!」

「毎度ありー。桃は一個二十五リョウだぞ」


 我慢できなかった。桃食べたいんだもん。さっきソルベを食べたけど、それだけじゃ欲求はおさまらないよ。


 カゴをもらって、桃の木に案内してもらう。

 一本の木にたわわに桃が実ってた。どれも美味しそう。大きさや色味はそれぞれ違うみたい。


「どれがいいかなー?」

「甘いのは、全体的にふっくら丸みがあって、紅く色づいてるやつだぞ」

「なるほど。……じゃあ、これかな!」


 飛翔フライを使って飛んで、目当ての桃を掴む。――途端に採集スキルが発動して、あっという間に桃を収穫できた。

 桃は両手で抱えるくらい大きい。これを丸ごと食べられるとか、夢みたいだね!


「――う〜ん、美味しそう!」

「飛べるってのは楽でいいな」


 なんか羨ましそうに言われた。飛べないと、脚立とか使って収穫しないといけないもんね。


「――お前さん、ここでバイトしないか?」

「へっ、バイト?」


 次の桃を品定めしてたところで、唐突に提案された。果樹園主は真剣な表情だ。


「ああ。この果樹は基本的に三日で実がなる。種類ごとに収穫する日を分けてるんだけどよぉ……。これが、結構な重労働なわけだ。朝一番で市場に持っていかないとならねぇし。お前さんが手伝ってくれたら、ちっとは楽できるなぁと思ってよ」


 なるほど。ここの果物が市場に卸されてるのかー。果樹はたくさんあるみたいだし、三日で生るんだったら、収穫が大変なのも理解できる。


「僕、毎日は来れないよ?」

「おう。時間がある時だけでいい。バイト代は、好きな果物三十個ってことで」

「果物三十……!」


 すごく心惹かれる。

 果物一個二十リョウとしても、一回で六百リョウの報酬ってことだよね。果物を買うお金が浮くのは最高だ。来るのは気が向いた時だけでいいっていう緩さだし。


「――わかったよ。その依頼受ける!」

「お、ほんとか。助かるよ。俺の名前はフルーオだ。よろしくな」

「僕はモモだよ。よろしくねー」


 フルーオと握手。


〈デイリーミッション『果物収穫バイト』を開始しました。毎朝にミッションを達成することができます〉


 アナウンスもあったし、正式なミッションだったんだね。

 ゲーム内時間の一日は、現実時間の六時間に相当する。現実時間の二時間ごとに、ゲーム内では朝・昼・夜が来るんだ。

 朝のタイミングでログインできてたら、忘れずに果樹園に来ないと。


「今日はもう昼時だから、また明日以降から頼むな」

「りょうかいです」

「とりあえず、桃三つ、サービスにしてやるから、持ってけ」

「いいの!?」


 今日の桃採集も、三つ無料になっちゃった。ラッキーだったな。

 るんるんしながら、あと二つを選びに選んで採集する。どれもふんわり甘い匂いがして美味しそう!


「桃好きなら、街中心部の『桃カフェ・ピーチーズ』ってところに行ってみるといいぞ」

「桃カフェ?」

「桃を使ったメニューが山ほどある。評判が良いらしいぞ。ここの桃も卸してるしな」


 お得意様を紹介された。

 桃を使ったメニューがたくさんとか、惹かれないわけないよね。絶対行こう。


 フルーオさんにカフェがある場所の地図をもらったら、システムのマップに反映された。便利でいいねー。現実もこうならないかな。


「とりあえず、お腹空いたから早速一個いただきます!」


 桃を抱えて口を開ける。皮を剝かなくても、ゲームシステムで問題なく食べられるんだから便利だよね。バトル中に悠長に皮を剝いてられないからだろうけど。


 かぶりついた瞬間に、じゅわっと果汁が溢れてくる。甘くてみずみずしい。


「うっまーい!」

「そりゃ良かった」


 夢中で食べちゃって、半分がなくなったところで満腹状態になっていることに気づいた。やっぱり僕って、燃費がいいよね?


「あ、鑑定するの、忘れてた。りんごみたいにレアアイテム化するかな……?」


 りんごは食べかけだと、天兎アンジュラパの食べかけりんごっていうアイテムになって、空腹になりにくくなる効果が付与されてたんだけど。桃はどうだろう?


――――――

天兎アンジュラパの食べかけ桃】レア度☆☆☆

 空腹度を五回復する。一時間、空腹になりにくくなる。

 天兎アンジュラパが五十%食べ残した桃。

――――――


 やっぱりレアアイテム化してる!

 天兎アンジュラパって、果物特化でアイテムに影響を与える感じなのかな。ラッキー。


 もう満腹だし、残りはアイテムボックスにとっておこう。食べ残しをしまえるのも、果物だけなんだよね。


「もういいのか?」

「うん、お腹いっぱいだから」

「モモは小さいからなぁ。いっぱい食って大きくなれよ!」


 桃を一個追加でもらった。

 僕はこれ以上大きくならないと思うけど、ありがたく受け取ります。やったね。


「それじゃ、僕、街探索に行ってくるね!」

「おう。街中で宿探すなら『黄金りんごの宿』がおすすめだぞ」

「なんか派手そうな名前だね?」


 フルーオさんのおすすめに首を傾げながらも、とりあえず地図をもらっておく。街中にあるみたいだし、歩いてたら着くでしょ。高そうだったらやめればいいし。


 大好物の桃を食べられてご機嫌なまま、街中を歩く。

 お米もほしいな。リリはお寿司が好きだって言ってたから、作ってあげたい。なにより、僕はどんぶり飯を食べたいんだ。豪華海鮮丼とか、夢だよね。


 田んぼや畑を横目に、建物が密集してそうなエリアを目指す。マップ上に冒険者ギルドとかのマークが付いてるから、そこを目指せばにぎやかなところに着くはず。

 田畑エリアはあんまり人がいないもんなー。


「――おお? いい匂いがする……」


 建物がたくさんのエリアに入った途端、魅惑的な香りがしてきた。これは、バーベキューの雰囲気。

 クンクンと匂いをかいで、探し歩く。


 街人にちょっと驚かれてるけど、すぐに「あぁ、異世界の」って納得してくれるから、問題はなさそうだ。

 周囲の反応を半ばスルーしながら歩いた先に、屋台エリアがあった。


「ここ、市場?」


 料理を作って売ってる屋台や、食材そのものを売ってる屋台もある。というか、食べられないアイテムも売ってるから、ごちゃまぜ大規模な市場だね。


 とりあえずいい匂いの元の屋台に並ぶ。人がたくさんってことは、人気の屋台なんだろう。楽しみー。……さっき満腹って言ったけど、食べられないわけじゃないもん。


「うお? あぁ、異世界の……」

「そうです。冒険者だよ。ここの屋台はバーベキューしてる感じ?」


 列の先頭まで来たらちょっと驚かれたけど、その反応既に飽きてるんだよね。スルーして商品を眺める。


 お客さんみんな、串に刺さった料理を買ってたからなんとなくわかってたけど、ここ串焼きのお店だったみたいだ。野菜とお肉が一緒に刺さってるのが人気なのかな。


「そうだぞ。一番人気はトウモロコシとピーマン、夢羊ドリームトンの肉を刺したやつだな」

「美味しそう! 二本ちょうだい」

「毎度あり!」


 手早く焼き上がった串をもらった。結構具材が大きくて食べごたえありそう。

 トウモロコシはしょう油を塗られてて香ばしい感じ。ピーマンはなんかのタレがついてるのかな。夢羊ドリームトンのお肉はラムっぽい感じ。


 一本をアイテムボックスにしまって、屋台から少し離れたところでかぶりついてみる。


 最初はピーマン。りんごを使った焼き肉のタレっぽい味付けだ。ピーマン自体苦みが少なくて食べやすい。うまうま。


 続いて夢羊ドリームトンのお肉。どんなモンスターなのか想像できないけど、味はジンギスカンっぽい。結構分厚いお肉だけど、タレの味が濃いからか、クセを感じない。柔らかいし美味しい!


 最後はトウモロコシ! 僕的に、焼きトウモロコシはデザートの分類だ。

 噛んだ瞬間に溢れる果汁。しょう油がちょっと焦げた感じの香ばしさで、飽きることなく食べられちゃう。甘じょっぱい食べ物って、止まらなくなるよね。


「うまうまー」


 堪能してたら、街の人が「あのうさぎさんが食べてるの美味しそう。どこで買ったのかしら。あ、あそこの屋台ね」って感じで言いながら通り過ぎていく。


 僕が行った屋台は、さっきよりも列が長くなってた。……僕が販促した感じ? 美味しいからみんな楽しんでくださいな。


 食べ終えたら自動的に串が消えた。料理スキル使うと、自動的に皿が現れるし、この串もそのたぐいなのかな。


「お腹いっぱい。ちょっと休憩したいな……」


 近くにベンチがあるし、一休みしよう。


 ……それはそうと、僕、そろそろログアウトしないといけないなぁ。空が暗くなってきてる。


 今日は一日いろいろあったけど、終わりよければ全てよし。桃も串焼きも美味しかったもん。


「次もきっと楽しくな~る!」


 願掛けの言葉は、一番星まで届いたかな。



******


◯NEWアイテム

天兎アンジュラパの食べかけ桃】レア度☆☆☆

 空腹度を五回復する。一時間、空腹になりにくくなる。

 天兎アンジュラパが五十%食べ残した桃。


◯NEWミッション

『果物収穫バイト』

 第二の街オースの果樹園で果物を百個収穫する。ゲーム内で朝の時間帯のみ、何度でも達成可能。達成報酬は果物三十個。


******


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