第20話 意見のすり合わせは大切だよね

〈フレンド・ルトからパーティー申請がきています。加入しますか?〉


 お、パーティーってこういう風に組むんだ? 答えはもちろんイエスだよ。


〈パーティーに加入しました。リーダーはルト(剣士・鍛冶士)です〉


「パーティーに入ったの初めてだ」

「私もルトとしか組んだことないよ。まだ初日——ゲーム時間で言うと二日目だしね」


 ニコニコと笑うリリに、僕も微笑み返す。……うさぎの顔だと、どんな感じで笑顔が見えてるんだろう?


「俺がリーダーだけど、問題ないよな?」

「うん。ルトは剣士で前衛だよね。僕は魔術士で後衛になるけど——」


 これ、僕が防御力強い種族って話、した方がいいかな? 普通に考えて、僕が二人に代わって攻撃受けるのが良いはずだよね。


 とりあえず、人がいないとこ行ってから考えるか。


「わかってる。俺も剣術のスキル鍛えたいから、前衛は任せろ。それより、冒険者ギルドに草原狼プレアリーウルフの牙を納品したし、フィールドを移ろうぜ」

「行動早い……」


 冒険者ギルドに行かずに、メニューから納品したらしい。僕も忘れない内にしとこう。


 街に戻りながら作業しつつ、二人の話を聞く。


「北と南、どっち行く?」

「攻略組がなにか情報出してないの?」

「んー、確認する。ちょっと待ってろ」


 ルトがなんかを眺めてる。

 納品し終えて【北門・南門の通行証】というものを受け取ってから、ルトの様子を眺めて首を傾げる。

 ちなみに納品の結果、千リョウのお金ももらった。やったね。


「ルトはなにしてんの?」

「掲示板を見てるんだよ。攻略情報とか、プレイヤーが報告し合ってるの」

「へぇ、そういうのがあるんだ」


 僕も探してみる。確かにメニューに掲示板っていうのがあった。


 なんか色んな名前がついた掲示板があるなぁ。敵のモンスターとか、アイテムとか、とにかく情報を出し合ってるみたい。雑談してるのもある。これ見てたら、時間を忘れちゃいそうだ。たまに確認するくらいにしようかな。


「北門から出たとこは、土属性のモンスターが多いらしい。防御力高めで、攻略組も苦労してるみたいだぜ」

「えー、私の攻撃は通用しないかも」

「リリはしばらく回復専門でいいんじゃないか? 攻撃はモモもいけるし」


 視線を向けられたので、力強く頷く。魔術は任せろ。


「ほんと? でも、魔術も訓練したいから、タイミング見て攻撃するね」

「りょ」


 ……返答、それでいいんだ。僕の身の周りにはいないタイプだなぁ。おもしろい。


「南の方は強いの? 木属性モンスターだよね?」

「あ? モモは知ってたのか?」


 本当に木属性タイプのモンスターが出るらしい。

 僕のこれは、レナードさんの情報からの推測。レナードさん、この街の周辺だと、モンスターが木魔石と土魔石、水魔石を落とすことがあるって言ってたから。


 水魔石は海のモンスターだと思ってたし、北が土属性なら、南は木属性しかないでしょ。


 そのことを教えたら、ルトが「へぇ」と頷きながら目を輝かせた。


「モンスターが魔石を落とすって情報はまだなかったと思う。生産に使えるんだな?」

「うん。僕もなにに使えるか、全部把握してるわけじゃないけど」

「十分だろ。これ、掲示板に書いとく」


 ルトは随分と掲示板を使いこなしてるみたいだ。早速作業しようとしてる。

 でも、それを見たリリが眉を顰めた。


「ルト。それは情報をくれたモモに許可をもらってからでしょ」

「あ、わりぃ。……モモ、いいか?」


 ちょっと申し訳なさそう。そういうマナー、ゲームの中でも結構大切だよね。リリもしっかりしてるとこあるんだなぁ。


「僕の名前とか出さないならいいよー」

「そのくらいのネットリテラシーはある」


 ルトが憮然としながらもホッとした感じで作業再開。みなさんのお役に立てたらいいなー。


「それで、南のモンスターは強いの?」


 リリが改めて聞くと、ルトは難しい顔をした。


「木属性のモンスターはデバフを掛けてくるらしい。麻痺とか睡眠とか毒とか。効果自体は弱いらしいけど、そのせいでなかなか倒せねぇって」

「うわ。私、まだ状態異常回復のスキル使えないや……」


 序盤でいきなりデバフ使ってくるモンスター? 難度高いなぁ。

 僕の天からの祝福アンジュブレスも体力にしか効果ないから、難しそう。毒とかで体力減る分は回復できるけどさ。


 たぶん東の草原で草原狼プレアリーウルフ相手に普通に戦えるくらいレベリングしてるプレイヤーが行くべきフィールドなんだろうな。


「何度も状態異常くらってたら、耐性スキルが入手できるらしい。それでも多少くらっちまうみたいだけどな」

「んー、次の街以降のために、耐性を持つためのフィールドってことかなぁ」

「だろうな」


 あ、そういう考え方あるのか。二人ともゲーム詳しそう。


「結局、どうすんの? 二つともやめて海に行く?」


 それだと薬草採れないだろうから、パーティー解散かなぁ。


 そんなことを考えてたら、二人から不思議そうに見下ろされた。


「なんで海? 釣りすんのか」

「え、海にもモンスターいるんじゃないの?」


 きょとんとした顔を見合わせる。

 これ、僕の誤解? でも、水魔石といえば海じゃない? それに、こんだけ陸にモンスターがいて、海にモンスターがいないわけないよね。


「……そういやそうだな。まだ、海に釣りしに行ったって報告を見たことねぇし、あり得るかも」

「海のモンスターって、戦いにくくないの? 釣り上げてバトルするのかな」


 確かに。潜って戦うってなったら、難度が急激に上がるもんね。


 よくわかんないけど、今は避けるべきか。

 二人も同じ結論になったみたいで、パーティー解散の危機はなくなった。一回もバトルしないで解散は嫌だし、良かったー。


「北と南、多数決にするか」

「賛成!」

「僕もそれでいいよー」


 というわけで、一斉に言うことにする。ちょうど街に戻ったところだったから、立ち止まっても大丈夫そう。


 せーの!


「「「北!」」」


 声が揃った。僕たち、どんだけデバフが嫌なの。なんか笑っちゃう。

 ルトもちょっと口元が緩んでたし、リリは「だよねー」と朗らかに頷いてた。


「んじゃ、北行くか」

「うん。南は状態異常回復覚えてからにしようね」


 僕は自力で行けるようにすべき? オートで体力回復しながらゴリ押しするしかないかな。……できたらいいな。


 とことこ歩いて街を進む。

 また市場を通ることになって、すごく心惹かれちゃった。うぅ、空腹度はまだあんまり減ってないけど、美味しいもの食べたい……。


「モモは空腹度対策は十分か?」

「一応。りんご持ってるよ」


 まだレアアイテム化はしてないけど。あとでちょっと齧っとくかな。

 このことを二人に教えるのは……まぁ、この二人なら無闇矢鱈にねだってきたり、たくさんの人にバラしたりしないだろうし、いいかも?


 あ、防御力のことも伝えとかなきゃ。やっぱり、パーティーで戦うってなったら、役に立つ情報は共有しないとね。


「バトルの時の話だけど。僕の種族、防御力のステータス高いから、盾役してもいいよ?」

「そうなんだ? 希少種なんだもんね。モモは運がいいね」

「高いってどんくらい?」


 二人とも反応がフラットな感じ。大げさに受け止められなくてありがたい。

 この二人と仲良くなったのは幸運だったかも。


「30ある」

「つよ」

「え、私の三倍ある。すごーい」


 三倍って考えると、確かにすごいね。リリの言い方軽いけど。そんで、ルトはちょっと引いてない?


「……ゲームバランス崩壊してねぇか?」

「八割でスライムっていう難関を潜り抜けたんだから、これくらいは許されたい」


 真剣に呟いたら、ルトも「そうだな」って即座に納得してくれた。

 やっぱりあのガチャ率がひどいのは、共通の思いらしい。


 でも、改めて「なんでモモはそんなリスキーなことしたんだ?」って引かれるのは解せぬぅ!



******


◯NEWアイテム

【北門・南門の通行証】

 東の草原の次に進むべきフィールドへ行くための許可証。冒険者ギルドに草原狼プレアリーウルフの牙を納品するともらえる。


******

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