第19話 満員御礼どころかノーセンキュー
フィールドに出るために、回復薬を作りたいなって思ったんだけど、レナードさんに「初級錬金術士になってからだな」って言われちゃった。たぶん錬金術のスキルの習熟度も足りてないんだと思う。
というわけで、工房を出て真っ先に向かったのはランドさんのところ。回復薬を買えないかなーって思ったんだけど、売り切れだった……。
「悪いな。店を開けた途端、売り切れちまったんだ」
ランドさんは申し訳なさそうにしてる。でも、しかたないよね。僕が来るのが遅かったんだし。
最初にもらった回復薬でしばらく凌げるかなぁ。東の草原は、
「——あ、そうだ。また薬草を採ってきてくれたら、回復薬を取り置きしておくぞ。今日はもう材料がないから無理だが」
「ほんと!? じゃあ、採ってくるよ!」
飛び上がって喜んじゃう。ランドさんもニコニコしてる。一番ネックだった回復薬問題の解決に目処がついた。
「——アリスちゃんはいないの?」
薬草の納品に来た時にいなかったけど、今日も姿が見えない。家にいるのかな?
「アリスは友だちのところに遊びに行ったぞ」
「そっかぁ。光魔石のお礼を言いたかったんだけど」
いないなら仕方ないか。また今度会った時に言おう。プレゼントの準備にどれくらい時間がかかるかわからないし、お礼は先に伝えないと。
「どっかで見かけたら声をかけてやってくれ」
「うん、わかった。それじゃあ、僕行ってくるね」
手を振って、ランドさんとお別れ。いざ、フィールドへ!
——と思ってたんだけど、街の市場の誘惑が強すぎた。
通りがかったら良いにおいがしてくるんだもん。これをスルーするのは無理だ。ちょうど、空腹度回復アイテムがなくなったところだったし。
「美味しそー」
市場は食材が主だけど、屋台も並んでた。昼に近いからか、人混みがすごい。
蹴られないように気をつけながら観察。装備の効果で転がらないかもしれないけど、そもそも衝撃を受けたくないからね。
「お肉と海鮮の串焼きはお安い。でも、それにパンがつくと一気に高くなるのか。お野菜も高め?」
観察した結果、この近くには農場がないのかもという考えに辿り着いた。
とりあえず、市場でりんごを五個買う。自分で生産できるレアアイテム狙いだ。
他の果物も挑戦してみたいけど、高いんだよ。りんごは一個十リョウで、どうしてそんなにお安いのって聞きたくなるレベル。他の果物は百リョウ超えてる……。
「まいどあり」
「りんごだけお安いんだね」
買い物ついでに果物を売ってる店主のおばさまに聞いてみる。
「りんごは街の一画に農場があるんだよ。でも、他の果物はねぇ……。前まではオースから運ばれて来てたんだけど、最近はモンスターの影響で滞ってるんだ」
「モンスター?」
初めて本気でモンスターの被害を受けてる人を見た気がする。
詳しく聞くと、どうやらこの街とオースの間に、強いモンスターが居座ってしまったらしい。そこを通り抜けるには高ランクの冒険者に護衛してもらわないといけないから、流通が滞って、値上げもされてるみたい。
「——それはしんどい状況だね」
「本当にそうなんだよ。オースは農業が盛んな街だから、そこと近いこの街は、ずっと農産物を頼ってきたんだ。まさかこんなことになるなんてねぇ」
おばさまは頬を押さえてため息をついてる。本当に困ってるんだなぁ。
「でも、冒険者が増えたから、近いうちに問題は解決するかもよ?」
ゲーム的に、これってオースの街に行くためのミッションだと思うんだ。そうなると、攻略重視なプレイヤーとかが、すぐさま動き出してくれそうな気がする。
居座ってる強いモンスターっていうのが、どれくらいのレベルなのかはわからないけど……序盤なんだし、そこまで大変じゃないよね? そうであってほしいな。
「そうなるといいんだけどね。あんたも小さいが冒険者なんだろう? がんばっておくれよ」
ニコッと笑ったおばさまに、りんごを一個追加でもらった。これ、前報酬? 僕が解決できる問題かな? 僕ががんばるより先に、解決される気がするけど。
〈ミッション『果物店の困りごと』が開始しました。流通の問題を解決するとクリアになります〉
……わぁお。こういう形でもミッションがあるんだ。
それにしても、解決するのは流通の問題で良いんだ? 強いモンスターを倒さなくていいの? 流通だけなら、他の方法もありそうだよね……。
ちょっと考えてみるか。
「まぁ、ほどほどにがんばるよ。あんまり期待しないでね」
「ははっ、わかってるよ。死なないように気張りなさいな」
おばさまに見送られて、ようやくフィールドに出発。向かうのは東の草原だ。いきなり新しいフィールドは無理だからね。
途中、屋台でイカ焼きを買ってしまった。だって、すごく美味しそうなにおいがしてたんだもん。
イカは
ちょっと焦げた醤油の香ばしさとイカの旨味が最高に美味でした。歯ごたえはすごかったけど。お米食べたくなる。
……ここってパン食文化なのかな。お米見ないや。どこかで入手できるかなー?
◇
そんなこんなでやって来ました、東の草原。
「……すごいプレイヤーの数」
モンスターより多いのでは、と言いたくなるくらい、視界を埋め尽くすほどの人の姿があった。たまに僕が敵に間違われそうになるのが地味に面倒くさい。今のところトラブルにはなってないけどさ。
「薬草もない……」
一番のお目当てだった薬草がまったくみつからない。もう取り尽くされてしまったのか。カミラも、街の近くで薬草を採れるのはラッキーって感じのこと言ってたもんね。
「どーしよ?」
トボトボと歩く。モンスターは湧いた途端にプレイヤーに狩られるからか、僕のところには一切近づいてこなかった。
これは、
「——あ、スラリンを召喚する?」
使ってなかったスキルを思い出した。確かバトル一回に五分間召喚できるんだよね。でも、その後一時間は再召喚できないもんなぁ。
「モモ?」
「え——リリとルト!」
声をかけられて驚いた。フレンドになったばかりの二人とここで偶然会うなんて。まぁ、二人はレベリングしたいみたいだし、ここにいるのは不思議じゃないか。
「モモもレベリング?」
「ううん。薬草採集のつもりだったんだけど……」
「ここ、全然ないよね……」
リリも肩を落として悄然としてる。もしかして、薬草採集の依頼を受けてるのかな。
「街の生産施設でも欠品みたいだぜ。掲示板が荒れてた。回復薬も買えないしよ。
ルトが苦い顔で言う。レベリングが進まないみたい。ここは混雑しすぎていて、モンスターとバトルするのが難しい感じだもんね。
「私の回復スキルがもっと高ければよかったんだけど……。攻撃力も足りないし」
「他のフィールドには行かないの?」
二人パーティーなら試してみてもいいんでは?
そう思って聞いたけど、残念そうに首を振られた。
「北と南の門を出るのって、
「へぇ、そうなんだ。
言われて思い出した。僕、カミラと一緒に戦って、そういうアイテムをもらった気がする。
アイテムボックスを探したら、確かに二個入ってた。
「——これ、あげようか?」
取り出して二人に見せたら、目を丸くされた。
「え、もう
「そんな強かったのか?」
ほぼカミラのおかげです。
前回話してなかったチュートリアルのことを説明したら、戸惑った表情をされた。
「なんか変?」
「いや、俺のチュートリアルは普通に
「そうそう。私もスライム倒して、『終わりにする?』って聞かれたから、頷いちゃったんだよね。ルトを待たせてたし」
「……あの強いおっさんと一緒に、
ルトがあからさまに落ち込んでる。盲点だったね。指南役と一緒だったら、わりと安全に
「それで、これいる?」
出したままだった
パーティー内で一人条件をクリアしてたらいいのなら、これ一個で足りるはずだよね。
「……本当にいいのか?」
「うん。まだ一個あるから」
袖振り合うも多生の縁、っていうしね。プレイヤーの初フレンドは大切にしよう。
にこにこと笑ったら、ルトが嬉しそうにしながら受け取ってくれた。
「もらうだけなのは悪いよ! モモも薬草がなくて困ってるんでしょ? 一緒に新しいフィールド行ってみない? 三人で行けば、安全性増すかもしれないよ」
リリが閃いたと言いたげな表情で提案してくる。
新しいフィールドか。確かにここにいてもどうしようもないしなぁ。リリたちがいるなら、一人で行くより心強いし——。
「僕と、パーティー組んでくれるの?」
「うん。一緒に行こう!」
「俺も、別にいいぜ」
ルトも肩をすくめながら頷いてくれた。アイテム贈呈の効果か、ちょっと態度が優しくなった気がする。
パーティーでの冒険かぁ。楽しくなりそうだね!
******
◯継続中ミッション
『果物店の困りごと』
第二の街オースとの間に強いモンスターが居座っている。そのせいで流通が滞って、農産物が入ってこない! 流通の問題を解決しよう。
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