第18話 真心をこめましょう
「——まずは俺の錬金玉に触れて、レシピを表示させてみろ」
「はーい。ちょっとお借りしますよー」
もふ、と錬金玉に触れてみる。
初期画面が出たところで、錬金玉をイメージ。一生大切に使える錬金玉を作るよー。素敵なのができるといいな!
「……ん? さっきのと表示が違うな」
「ほんとだ。でも、錬金玉って書いてあるよ?」
レナードさんが見せてくれたものと、微妙に色が違う。ちょっぴりピンクっぽい。
材料のところには『木炭、あるいは石炭』『魔石』『真心』と書かれてる。……真心ってなに? それって物質として存在してるの?
「——こんな表示は見たことがない。とりあえず、材料を錬金布にのせてみろ」
「真心がないけど?」
この言い方だと、僕が冷たい心の持ち主みたいだ。
三角形が描かれた錬金布に木炭と魔石を並べながら、ちょっぴり頬を膨らませた。
「錬金可能になってるな……」
「真心、どこにあるの……」
錬金布に描かれてる三角形の頂点の一つ、空白の場所をみつめる。もしやここに、見えない真心が存在する? そもそも真心って見えないものだけど。材料として必要とされてるのに、それでいいのか?
「成功率は百%だ。やってみろ」
「そんな実験的な感じでいいの? 僕がずっと使う大切な錬金玉だよ?」
そう言ったら、錬金布の一部がキラッと光った気がした。
これは、もしや、本当に見えない真心がそこに存在してる……?
「——やってみる」
「急にやる気になったな」
レナードさんに驚かれたけど、気にせず続けることにした。といっても、どうやって錬金をスタートしたらいいんだろう?
「——錬金玉に触れたまま、【錬金スタート】と唱えたらいい」
「魔術と違って呪文が端的でいいね!」
魔術を使うときの、あの恥ずかしい呪文の詠唱、どうにかならないかなー。
不満を零しつつ、完成図を眺めながら口を開く。とりあえず、心を込めて唱えてみよう。
「——【錬金スタート】!」
唱えた途端、錬金布からピカッと光が溢れた。シャララって綺麗な音がして、錬金布の周囲を虹色の煙が渦のように囲んだ。
「虹色!? まさか、最高レアアイテムの……」
なんか聞き捨てならない単語が聞こえた。ゲームのガチャでありがちだけど、虹色ってすごい物ができる前触れじゃない?
僕の希少種ガチャより華やかな演出に、ちょっぴり心が傷ついたのは言葉にしない。そうはみえなかったかもだけど、僕の一大決心だったんだよ?
でも、錬金術での演出の方が人目に触れる機会が多いんだから、ゲームを作った人がこだわっていても不思議じゃないよね。……負け惜しみじゃないよ!
「……できた?」
煌めく演出のあとには、錬金布の上に錬金玉が一つのっていた。最初に示されてた絵と同じく、少しピンク色を帯びてる。
では、鑑定しましょう。
【心のこもった錬金玉】レア度☆☆☆☆☆☆
「——ぴゃ!?」
変な声が出ちゃった。
レア度の表記は、レナードさんの様子から予想していたとはいえ、重要なのは付加効果だよ。オリジナルレシピの成功率は今後すごく役に立つと思うし、それだけじゃなくてアイテムの品質向上まで……!
錬金術士のデメリットを完全にカバーできるかはわかんないけど、すごくありがたい。
「幼い少女の願い?」
「レナードさんも鑑定したんだ? それ、きっとアリスちゃんのことだよね。魔石に籠ってた思いが錬金術に使われたってことかなぁ?」
「おそらくそうなんだろうな……。そういえば、そのような例があった気がする」
レナードさんが本棚を探り出す。たくさん本があるから、時間がかかりそうだ。
僕は完成した錬金玉を眺めて待っておこう。
「これが僕の錬金玉か……」
アリスちゃんにたくさん感謝しなくちゃ。アイテムに反映されるくらいの思いを籠めて、僕にプレゼントしてくれたってことだよね。嬉しいなぁ。なにかお返ししたいけど……僕の持ち物少ない……。所持金だって、余裕ないもんなぁ。
示されてる所持金は五千七百リョウ。酔いどれ酒場での飲食に二百リョウ使ったんだ。あの美味しさで二百リョウはお得な気がするけど、頻繁には無理そうだなぁ。
いや、今考えるべきなのは、美味しいものを食べたいってことじゃなくて、アリスちゃんへのお返し。……ん? もしかして、僕がなにか美味しいもの作ってプレゼントするっていうのも良いのかな?
「——お腹空いた」
いつの間にか空腹度が減ってました。時々食べてたりんご、僕の種族特性で空腹になりにくくなる効果があるから便利だったんだけど、そろそろ底をついちゃいそうだ。買い足すべきか、違う食べ物を買うか……。
どうも、普通の料理は食べかけでもレアアイテムにならないみたいなんだよね。昨日の酒場飯、途中でアイテムボックスにいれることさえできなかった。
りんごが特別なのかな。他の果物を試してみてもいいかも?
「あ、また思考が逸れた。アリスちゃんへのプレゼント、どうしよう……」
「あの子にお返しをするのか?」
レナードさんが戻ってきてた。その手には一冊の本。目当てのものが見つかったみたいで良かったね。
「うん。素敵な魔石をもらったし、なんかあげたいんだけど。同じくらい気持ちがこもったものが思い浮かばないんだよねぇ」
「それなら、錬金術で作ってみたらいいんじゃないか?」
「ハッ、それがあった!」
言われるまで気づかないって、僕バカじゃん。
作ったばかりの錬金玉を触ってレシピの検索。これ、ネットサーフィンと感覚似てて、もう慣れてきてる。
「んー……? どういうのがいいかな……」
「作業しながらでいいから、説明を聞いてくれ。——錬金術では、基本的に所持品を手がかりにしたレシピが優先的に表示される。その際、極まれに、『心』という目に見えないものも材料として換算されるらしいんだ」
「僕が作った錬金玉は、そういうことだったってことだね」
アリスちゃんに光魔石をもらったときから、心も一緒にもらってたってことだ。一層ありがたいし、嬉しくなる。
「そうだな。人からもらったものを材料にする時はレシピに注意してくれ。今回は好意的な思いが籠っていたが、悪意が籠った材料を使うと、マイナスの付加効果が生じる可能性がある」
「あ、そういうことか!」
例えば、呪いのアイテムみたいなのを材料にしたら、マイナスの付加効果がある、みたいな? 使いようによっては、役に立つのかも。
でも、めったにそういう材料には出会えなそうだなぁ。
考えながらレシピを探していた手が止まる。
ピンク色のお花がついたネックレス。これ、可愛い。アリスちゃんに似合いそう。
必要な材料は——【チェリー花】【シルバー】【
「なんだ、それを作ってプレゼントするのか?」
「できたらいいなーって思ってる」
「ちょうど必要な材料も三種類か……。よし、それが無事作れたら、初級錬金術士として認めよう。ついでに錬金術ギルドに推薦状も書いてやるぞ。試験無しでギルドに所属できるようになる」
お、これは、ラッキーな展開になったのでは? いずれ錬金術ギルドに所属しないとなーって思ってたんだよね。
「それって、作ったものを街で売れるようになるってこと?」
「ああ。錬金術ギルドで生産品の買い取りもしてくれるようになるぞ。自分で店を持っていない場合は便利だ」
「それはほんとに便利!」
ゲームの中で一日中お店にいるわけにはいかないもんね。プレイヤー同士で生産品を融通し合うにしても、買い取りのシステムがまだないから、対面で交渉してお金のやり取りをしないといけない。それって、トラブル多そうで嫌だなって思ってたんだ。
生産活動でお金を稼ぐルートが確立できそうで嬉しいな。
それよりも、アリスちゃんへのプレゼントが大切なんだけど。
「——レナードさん。プレゼントに使う材料、どこで手に入る?」
「どれも街中で買えるものだが……トータルで一万リョウは超えるぞ」
「ひえっ……いや、アリスちゃんのためなら、それくらい稼ぐけど……!」
葛藤。一万リョウかー……。そのお金で別のプレゼント買えるのでは?
「モモは冒険者でもあるんだから、自分で採ってくるというのがいいんじゃないか? レベルを上げることもできるんだからな。いずれ第二の街【オース】に行くつもりなら、今のレベルのままじゃ無理だろう」
「それはその通りです。やっぱ、自分で集めるっていうのがゲームの醍醐味だよね……」
よし、楽しんで集めるか!
というわけで、採れる場所を聞いてみる。
レナードさん曰く、【チェリー花】は南の門から延びる街道沿いで採れることがあるらしい。【シルバー】と【石炭】は、北の門から出て、街道を逸れてサクノ山に向かうと、採掘できるところがあるんだって。
「——どっちも、新しいフィールドじゃん!」
僕のレベルじゃ、まだ攻略が難しいんじゃない?
これは、気合い入れてレベリングしないと……。
〈チェーンミッション1『生産職弟子入りの道』をクリアしました。報酬として【錬金玉】【錬金布】が贈られます〉
アナウンス、今さらかい!
〈チェーンミッション2『生産職ギルドに所属しよう』が開始しました〉
わかってますー。言われなくてもがんばるよー。
……これ、もしかして、アリスちゃんへのプレゼントを作りたいって言ったから、普通より難度が上がってる可能性微レ存?
******
◯NEWアイテム
【心のこもった錬金玉】レア度☆☆☆☆☆☆
◯受諾中ミッション
【チェーンミッション2『生産職ギルドに所属しよう』】
師匠の求める生産品を製作成功させると、生産職ギルドへの紹介状をもらえる。生産職ギルドに所属すると、生産活動に使う材料の購入や生産品の販売が可能になる。
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