第17話 生産職の道、開始だよ
ご飯の美味しさに衝撃を受けたあとは、宿に戻って一旦ログアウト。
休憩してからゲーム再開です。
「ふぁ……この、急にわくわく感が高まるの、いいよね」
宿の外に出たら、朝になっていた。白い光がオレンジの街にふりそそぐ光景は、空を飛びながら眺めると格別の美しさ。爽快な気分になる。
ゲーム内では六時間で一日が経つんだ。早起きが苦手な僕でも、ゲーム世界では朝の清々しさを味わえるってこと。得した感じがする。
「——さて、ここが地図にあった錬金術士さんの工房だけど……」
辿り着いた工房。木の扉にガラスがはまってたから、中をのぞき込んでみる。
今さらだけど、朝早くても大丈夫だったかな?
——明かりがついてる。作業してる人もいるっぽい。
とりあえずノックしてみよう。
「こんにちはー」
「……なんだ?」
扉が開いた。顔を出した男の人は、外を眺めて眉を顰める。「悪戯か?」なんて呟いてるけど、ここだよここ。下を見て。
「僕、薬士のランドさんから紹介されてきました」
「うおっ……うさぎ?」
「
どうもーと手を振ってみる。男の人がちょっと表情を緩めた。
「……モンスター駆除を依頼したっていう、異世界からの旅人か」
「わお、ここに来て初めて、僕たちの使命を言う人に会ったや」
すっかり忘れてたけど、この国ってモンスターに侵略されて困ってるんだよね。……
「ここは、周囲に現れるモンスターが弱くて、住民も危機感を理解できてないから、わざわざ言わないんだろう。——ランドに紹介されたとか言ったな。とりあえず入れ」
招き入れてもらった。
工房は、作業するための材料がたくさん散らばってて、雑然とした感じ。ここは客を迎えてアイテムを売る場所ではないんだろう。
「すごいワクワクする感じの工房だー。僕、錬金術を教えてもらいたいんだよ」
「……なるほど。まずはランドの紹介状をみせてもらってもいいか?」
もちろんです。アイテムボックスから取り出した紹介状を渡して、工房内の観察を続ける。
あ、なんか乾燥した薬草っぽいのが瓶に詰まってる。あっちにある砂はなんだろう? げげっ、虫っぽいのもいるー! 僕、虫苦手!
「——話はわかった。俺はレナード。この街の一級錬金術士だ」
「一級?」
なんだそれ。ヘルプ見てもそんな説明ないよ。
「街で生産品を売るためには、錬金術士ギルドに加入する必要がある。そこでの試験をクリアするか、一級錬金術士から認定されると、初級錬金術士になれるんだ。経験やスキルの習熟度によって、その後三級から一級まで昇級できる」
「つまり、レナードさんは、一番能力が高い錬金術士ってこと?」
「簡単に言えばそうだな」
すごい。ランドさんってば良い人を紹介してくれたなー。
レナードさんは焦げ茶色の髪を首裏でひと括りにしてる、ちょっとワイルドな印象の人。でも、丁寧に説明してくれるから、優しいんだと思う。
「僕を弟子にしてくれる?」
「いいだろう。旅人は能力の向上が早いって聞くから、手間もかからなそうだしな」
「ありがとう!」
プレイヤーって、
ともかく、レナードさんに教えてもらって、錬金術を楽しもう。
「——あ、僕、回復薬を作ってみたいんだよ」
「いきなり薬士の分野か。まずは錬金術の基礎を教えてやった方が良さそうだな」
「分野が違うと、錬金の仕方が変わるの?」
レナードさんが作業台に向かう。その背を追って、許可をもらってから作業台に飛び乗った。人用の設備って、僕には不便なんだよねぇ。
「錬金術は特殊な設備を使う。分野が異なるアイテムを作るにはコツがいるんだ。まずは簡単なものから作ってみよう」
作業台に綺麗な丸い石と、六芒星が描かれた布のようなものが置かれた。布は僕がゆったり寝そべれそうなくらい大きい。石の方はなんか見覚えあるなって思ったら、キャラ作成の時に見た錬金術士の例が持ってたものと同じだ。
「それなぁに?」
「この【錬金玉】は、錬金術の設計図を映し出すために必要なものだ。【錬金布】は材料を並べるためのもの。これには六種類置けるが、初心者は三種類のものから始めるべきだろうな。スキルが上がったら、より上級者向けの錬金布を使うといい」
そう言って、レナードさんは三角形が描かれた錬金布も取り出した。僕にくれるんだって。無料で生産用の道具をもらえるとか、ラッキー!
「——まずは錬金玉に触れる。すると、作れる物のレシピが表示される。作りたい物をイメージするだけで検索できる」
ブンッと目の前に薄青色のプレートが現れた。たくさん絵や文字が書かれてる。でも、レナードさんが操作したのか、すぐに表示が切り替わった。
映し出されたのは一つの絵。
「これって、錬金玉?」
絵とレナードさんが触れてるものを見比べる。そっくりだ。
無色透明な丸い石。ツルツルで綺麗なんだよ。
「ああ。錬金術に必須の道具も、錬金術で作る」
それって、最初の一人目はどうやって作ったんだろう? 錬金玉なしでも作業できるのかな?
「錬金術を生み出した最初の錬金術士は、道具を使わずに錬金していたらしい。極めたら可能なのかもしれないな」
聞く前に答えがきた。最初の一人、すごーい。もしかして、僕もがんばれば道具無しでできるのかな。……あんまり期待せずにいよう。道具使うのが不便ってわけじゃなさそうだし。
「えっと……絵の横に書かれてるのは材料?」
「そうだ。錬金玉に必要なのは石炭、あるいは木炭」
つまり、炭素?
「炭から石ができるの?」
「錬金術とは、そもそも物質の組成を操作するものだからな。構成しているものが同じなら、組み替えれば炭から石だって作れる」
炭素でできた透明な石って、ダイヤモンドでは?
レナードさんが持ってる錬金玉を鑑定してみる。
——————
【錬金玉】レア度☆
——————
やっぱりダイヤモンドじゃないっすかー。お高い宝石を量産できそうな能力すごいな。この世界だと、あんまり価値ないのかな?
まぁ、そんなことはおいといて。説明文も気になる。
これ、錬金が失敗する可能性もあるってことだよね。オリジナルレシピができそうな感じなのも興味深い。
自由度高いって評判のゲームだけあって、生産活動も工夫のしがいがありそうだなー。
「まずは、モモ用の錬金玉を作ってみろ」
「いきなり!?」
レナードさんは驚いてる僕のことなんか気にしてないみたいで、黒い塊を作業台に置いた。
「これは木炭だ。あとは魔石も必要なんだが……おっと、在庫を切らしていたな……」
渋い顔をしてる。魔石? 確か、僕が持ってたような。アリスちゃんの子猫を救出した時にもらったんだよね。
「——悪いが、魔石を自分で手に入れてき」
「これ、使える?」
ごめん、セリフを遮っちゃった。もしかして、これから魔石探しのミッションが始まる感じだった?
「……光魔石か。もちろん使えるが、珍しいものを持ってるな」
「珍しいの?」
レナードさんはぎこちなく動きながら、僕が取り出した光魔石を受け取った。
「この辺だと、木魔石と水魔石、土魔石は入手しやすい。北と南の門の外や海にいるモンスターの中には、そうした属性の魔石を落とすものがいるからな」
良い情報もらった。つまり属性のある攻撃とか耐性があるモンスターがいるってことだよね。というか、近くの海でもモンスターに会えるのか。開始地点だったから、てっきりモンスターはいないもんだとばかり思ってた。
「そうなんだー。この光魔石はアリスちゃんにもらったんだよ」
「ああ、あの子は魔石集めが趣味だからな」
なんか納得されたけど、アリスちゃんの意外な趣味を知っちゃった。石集めって子どもはしがちだけど、魔石みたいなレアなアイテムを集めるのは大変そう。
「……もらって良かったのかな」
もしかして、この光魔石、アリスちゃんが大切にしてるものだったのかな? 友だちの証とか言われたもんなぁ。ここで使ったらもったいないような気もする……。
「アリスは気に入った人にプレゼントするために集めてるんだ。確か、子猫の首輪には火魔石をつけてたな。……錬金玉は錬金術士にずっと寄り添うものなんだから、人からもらったものを材料にするアイテムとして相応しいんじゃないか?」
錬金術士に寄り添う……なんか良い表現だね! 確かに、もったいないというより、特別感が増した気がする。
「そっか! じゃあ、この光魔石を使って錬金玉を作って、僕、ずっと大切にするよ」
「それがいい」
ふふ、アリスちゃんのおかげで良いものができそうな予感がする!
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◯NEW
・レナード
はじまりの街の錬金術士。一級の凄腕。特定の人物からの紹介状があると弟子入りできる。レナードから教えを受けると、錬金術関連のスキル習熟度が上がりやすくなる。
◯NEWアイテム
【錬金玉】レア度☆
【錬金布】レア度☆
錬金用の材料をのせる布。描かれている図形によって、一度の錬金で使える材料の種類が変わる。図形ごとに、必要な錬金スキルが異なる。錬金術基礎のスキルで使える錬金布は、三角形が描かれたもので、三種類の材料を使って錬金できる。
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