第15話 青春って最高かよ
買った天の杖は人用のサイズだったのか、結構大きかった。これまで持ってた見習い魔術師の杖は手首を使って振れるサイズだったけど、今回のは腕全体を使って動かさないといけない。
「登山用の杖に良さそう……?」
そんな予定はないけどね。
サイズ調整も錬金術士のスキルでできるようになるらしいので、自分でがんばってみようかな。このままでも大魔術師って感じでいいけど、ちょっと邪魔だもん。
ドワッジさんが杖を背負うベルトをサービスしてくれたから、今は背中にある羽の間に斜めがけしてる。
街中で攻撃用の魔術は使えないから問題なし。他のスキルは杖がなくても発動できるしね。
「それよりも大きな問題は金策だ」
装備品店を出てからトテトテ歩く。視界の端に見えてる所持金額はたった六百リョウ。ついさっきまでは薬草で大金持ちだったのになぁ。
「これから肉を売りに行くとして、明日からはどう稼ぐかなー?」
たぶん酒場のご飯代くらいは肉を売ったらもらえると思う。でも、冒険用に回復薬とか買いたいし——。
「あ、そもそも回復薬売ってないのかも?」
はじまりの街にいくつ薬店があるかは知らないけど、ランドさんのところだけが売り切れ状態なはずがないよね。
つまり、お金があっても回復薬は買えない……!?
「——これは、錬金術士に弟子入りして、自力生産すべきか」
僕は防御力高くて、体力自動回復スキルがあるとはいえ、回復薬を一つも持たずにバトルするのは怖いもん。
というわけで明日は弟子入りしよう。
……早くバトルして能力とか装備とかの効果を確かめたかったんだけどなぁ。しばらくお預けかな。
「おっ?」
無意識で足を動かし続けていたら表通りに出た。ちょっと人が少なくなった気がする。
もしかして、みんな東の草原でバトル中だったりする……? それ、モンスターよりプレイヤーの方が多くなるんじゃない?
蹂躙されるモンスターのことを考えると、なんだかしょっぱい気分になる。特にスライムたちとは仲良くなったから、もう会えないかもしれないと思うと悲しい。個体の区別はできないけども。
「——まぁ、街中を歩けるようになったのは良いことだよね」
気を取り直して、表通りを堂々と歩く。
ようやく本来の街並みを楽しめるよ。これまでずっと脇道を通ってたようなものだからね。歩いてると空から見るのとはまた違った景色みたいに思える。
「あ、あれ、ほら、たぶんキャラクリで希少種族選んだ人じゃない?」
「ガチャのか。最初っからゲーム満喫してるなぁ」
なんか指さされました。女の子と男の子かな。このゲーム、性別も自由に選べるから、実際がどうかはわからないけど。
女の子は金色のツインテール。男の子は銀髪のウルフヘア。……なんか目に眩しいコンビですね。
僕も観察し返しながら、ちょっと手を振ってみる。そろそろプレイヤーとも仲良くなりたいよ。
「ふあっ、かわいい……!」
「おい、見た目に誤魔化されるな。中身おじさんかもしれねぇぞ」
「そうだった!」
失礼だな。……中身は想像にお任せします。
女の子は素直で可愛い感じだけど、男の子は冷めてるなぁ。もしかして、女の子の関心を奪われて嫉妬してる? 僕って罪作りな生き物!
「僕、モモって言うんだ。二人は?」
道の端にいた二人に近づき声を掛ける。男の子よ、そんな怪しいやつ見る目をしないで。ガラスの心が傷つくよ。
「私は
「おい、それ本名」
「あっ、しまった、今の忘れて!」
赤い顔して慌てる女の子を、男の子が呆れた感じで見てる。でも、僕にはわかるぞ。絶対に心の中では『可愛いな』って思ってるでしょ。
くー、甘い! 青春だねー。……こういう反応したらおじさんって言われるかも。言っておくけど、雰囲気的に二人と大して変わらない年齢だと思うよ!
「聞こえてなかったよー」
「優しいうさぎさんだぁ」
「おい、だから、見た目に騙されるなって……」
「でも、絶対このうさぎさん、悪いうさぎさんじゃないよ」
僕、見た目はこんなですが、中身人間ですよ? 完全に見た目に騙されてるじゃないですかー。
男の子が警戒心強い理由がわかった。この女の子、天然で騙されやすいタイプだ!
「そろそろ名前を呼びたいから、プレイヤー名教えてくれない?」
「あ、私はリリ。こっちのぶっきらぼうなのがルトだよ」
ルト、ぶっきらぼうとか言われちゃってますやん。さてはリリ、あまりに注意されるから鬱陶しくなってますね? でも、リリのためを考えて言ってるんだと思うから、優しくしてあげて。
「……よろしく」
「確かにぶっきらぼう——あ、つい言葉にしちゃった」
軽く睨まれました。正直な感想なので謝れない。えへへー、と笑って誤魔化したら、「ぶりっ子か」と言われました。ムカッ。キャラに成りきってると言ってほしいな。
「モモ、よろしくね。というわけで、フレンド登録しよう!」
「コミュ力おばけ……」
「間違ってねぇな」
ニコニコと無邪気な笑みを浮かべるリリに驚く。僕、ここまですぐに距離を縮めるのは無理かも。ルトと共感して、ちょっと仲良くなれた気がする。
頷き合いながらフレンド登録。
プレイヤー同士だと、ギルドカードの裏にあるQRコードを見せあって、登録申請をするらしい。他人から不躾に登録申請がこないように、わざと手間を取らせてるんだね。
「私は治癒士と裁縫士で、ルトは剣士と鍛冶士なの。モモは?」
「魔術士と錬金術士だよ」
「あ、錬金術士って、このゲームが本格的にサービス開始された時に追加されたってやつだよね。アイテムの品質下がるらしいけど、実際どうなの?」
興味津々に聞かれても答えられなくて申し訳ない。
「まだ生産活動してないんだよ。だからわからないなー」
「そうなんだ。私たち、バトルのチュートリアルをした後、すぐに生産施設で試してみたんだ。びっくりするくらい簡単に作れて楽しかったよ」
リリは本当に楽しそう。僕の返事にガッカリした感じも見せなくていい子だな。
……なんか、ルトに軽く睨まれた気がする。思考を読むスキルとかないよね?
「そっかー。僕は明日から錬金術士に弟子入りするつもり。リリの話で、生産職も楽しみになったよ」
そう言ってみたら、リリとルトはちょっと驚いた顔をした。どうしたんだろう?
「もう弟子入りのミッション始まってんのか? ベータ版経験者?」
「違うよ。冒険者になる前に、脇道に逸れて楽しんでたらいつの間にか——」
これまでの流れを軽く説明する。
リリは素直に感心して笑ってるけど、ルトは呆れた感じかな。僕にとっては楽しい時間だったんだけどねぇ。
「……ここまで最初から本筋を逸れてるやつ初めて見た」
「いいじゃん。女の子の困りごと解決してあげるとか優しいと思うよ? それにシークレットエリア入れるのは、大きなメリットだと思う。私もそのミッションやってみようかな」
「確かにありだな。ただ、はじまりの街でそんなに時間使うのはなぁ」
乗り気なリリと躊躇ってるルトを交互に眺める。
このゲームって自由を楽しむもんだと思ってたけど、バトル三昧で攻略重視な人も多いのかな。バトル以外も楽しまないともったいなくない?
「同じとこでミッション発生するとは限らないよ?」
「そっか。アリスちゃんを探すところから、ってなると時間がかかりそうだね」
「俺はそれより、早くレベル上げしたい」
ここぞとばかりに主張するルトに、リリも頷いてる。
二人でパーティー組むのは決まってるんだね。仲良さそうだし、下手に知らない人と一緒になると、ルトが苦労しそうだから、それも当然かも。
「モモも、タイミングがあったら一緒にパーティー組んでバトルしに行こう?」
「うん! ぜひ。あと、生産品とか、お互い融通できたらいいなー、なんて……」
図々しいかな、って思ったけど、リリが「もちろん、いいよ!」と答えてくれたからホッとした。ルトも「まぁ、それくらいなら」って頷いてるし。
「うさぎさんのお洋服作ってみたいなー」
「それはマジでお願いしたい」
つい真剣に答えちゃった。
装備品扱いにはならなくても、見た目を変えるだけなら服を着れるんだよね。この姿、可愛いんだけど、裸みたいに思えるからぜひ服がほしい。自分で作るのは、センスに自信がないんだよなー。
「ほんと? 余裕できたら作ってみるね!」
リリは本当に素直で可愛い人です。拝んでもいいですか?
……ルトに冷たい目を向けられたから、実際にはしなかったけど。
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◯NEWフレンド
・リリ
金髪碧眼。人間。治癒士、裁縫士。ルトとは幼馴染。素直で明るい女の子。騙されやすいのが欠点……?
・ルト
銀髪緑眼。人間。剣士、鍛冶士。リリとは幼馴染。ちょっとぶっきらぼうだけど、本当は優しい男の子。
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