第12話 成長特典はうまうま

 アナウンスはまだ終わってなかった。


〈種族レベルが上がったため、種族固有スキル【天からの祝福アンジュブレス】を獲得しました〉


 ほえ? 種族固有スキルってなに?


〈戦闘中の行動により、スキル【決死の覚悟】【見切り】を獲得しました〉


 次々くる! それだけ草原狼プレアリーウルフが強敵だったってこと? 確かに僕は一体倒すだけで精いっぱいだったけど。

 初心者の最初の難関なのかも。僕はカミラにほぼおんぶに抱っこだったもんな。


〈火魔術がレベル2になりました。火の矢ファイアーアローを覚えました〉


 使える魔術が増えた! でも、火魔術だけ? 確かにわかりやすく効果が見えて強そうに感じるから、跳兎ジャンプラビ狩りでも多用してたもんなぁ。


飛翔フライがレベル2になりました。滞空可能時間が十五秒になります〉


 じ、地味な変化……。ありがたいけどね。効果がきれそうになる度に、一回着地してかけ直すの大変だし。


 アナウンスはこれで終わったみたい。

 内容を確認したいけど、ここは草原狼プレアリーウルフのテリトリーなんだよなぁ。いつ襲ってくるかわかんないとこでは落ち着いてられない……。


「モモ。戦闘指南は終わりでいい?」

「うん、ありがとう。すごく助かりました」


 ペコリ、と頭を下げる。

 本当にお世話になりました。できたらこれからも仲良くしてほしいなー?


 ちょっと窺う感じでカミラを見る。苦笑された。


「聞きたいことがあったら声をかけて。しばらくはあの街を拠点にしてる」


 フレンドにはなれないみたい。まだ交流が足りないのかなー。残念だけど、今後の楽しみにしよ。


「わかったよ。また会えるの楽しみにしてる」


 そう答えたところで、目の前がグワッと歪む感覚がした。


〈チュートリアルを終了します。冒険者ギルドに転移します〉




 気づいたら冒険者ギルドの中。たくさんの人がいてうるさい。カミラは……いないな。

 しょんぼり。もっとちゃんとお別れしたかった。


「終わりが唐突すぎる……」


 ぽつん、と突っ立っていたら、誰かに蹴られた。痛くないけど、衝撃で前に転がっちゃう。


「あ? 今、なんか……?」

「こんにゃろー! 蹴りやがったなー!」


 首を傾げて歩き去っていくプレイヤーの後ろ姿に向かって叫ぶ。その声すら周囲の音にかき消されちゃったみたいだけど。


 ……ここ、フィールドより危険。

 そろそろ宿探しに行くかー。ステータス確認したらログアウトして休憩しよ。


 混雑した中をなんとか潜り抜け、冒険者ギルドの外に出る。ここも人が多いから即退散。


 みんなパーティー募集を張り切ってるみたいだなー。僕もいつかはパーティーを組みたいけど、今は自分の能力把握が優先だよね。



 一人でトテトテ歩く。

 マップにあった宿を探してるんだ。これ、アリスちゃんがくれた地図に載ってたやつだから、穴場なんじゃないかなー。普通の宿はもうほとんど埋まってそうだもん。


「あった! 可愛い宿だなー」


 大通りから外れたとこにあった宿は、屋根の形とかが丸っこくて可愛らしい。

 中で受付にいたのは、十代の女の子っぽい。高いところで結んだポニーテールが、溌剌とした印象でいいね。


「こんにちはー」

「え、もしかして旅人さん?」

「さっき冒険者になったよ」

「まさかここに来るなんてびっくり。人じゃないお客様なんて迎えたことないんだけど」


 まじまじとみつめられる。驚くのは無理もない。モンスターの見た目だし。ここ、基本的にはプレイヤーが入れないエリアみたいだし。


「誰に聞いてきたの?」

「薬屋さんとこのアリスちゃん」

「ああ、そうなんだ!」


 ちょっと表情が緩んだっぽい。知り合いかな?


「——あたし、ジルよ。母がここの女将をしてるの。今日はたまたま店番になったのよ。アリスは従姉妹なの」

「そうなんだ! 言われてみたら似てるかも……? 僕はモモだよ。部屋は空いてる?」

「ええ。部屋の大きさは……一番狭いとこにする?」

「お安い?」

「街一番の安さよ」


 こっちから要求しなくても提案してくれるとは、良心的! 僕のサイズだったら、大きな部屋は無駄だもんね。


「おいくらですか?」

「一泊食事なしで百リョウよ。長く滞在する時は事前にまとめてお金を払ってね。事情があれば後払いもオッケーよ」

「はーい。とりあえず、一泊」


 百リョウを渡す。代わりにカギをもらった。


「部屋は二階に上がって一番奥よ」

「ありがとー」


 そのまま階段に向かおうと思ったけど、ジルの目がキラキラしてることに気づいて立ち止まった。どうしたのかな?


「あの……失礼を承知で聞くんだけど……撫でてもいい?」

「あ、なるほど」


 ジルはもふもふ好き、いわゆるモフラーでしたか。僕、魅力的なもふもふだもんね!


「ダメならそう言って!」

「ううん、いいよー」


 答えた途端、ジルは「きゃー」と歓声を上げて僕に抱きついてきた。


 あの……撫でるんじゃなかった? これ、セクハラにならない? どっちがどっちを、っていうのはあえて言わぬ!


 ジルが心ゆくまでもふもふされて、解放されました。部屋で休むぞ……!



 ちょっぴりヘトヘトな感じで部屋に到着。確かに狭い。小さめのベッドとテーブルで部屋がいっぱいになってる。でも僕にはちょうどいいね。


「よいしょ、と」


 ベッドに乗ってゴロゴロ。なかなか良い寝心地です。このままログアウト——の前にステータスを確認しないと。


「ステータスかもーん」


 言わなくてもいいんだけど、気分です。


——————


モモ

種族:天兎アンジュラパ(7)

職業:魔術師(3)、錬金術士(1)


【ステータス】

体力:27

魔力:47

物理攻撃力:10

魔力攻撃力:14

防御力:30

器用さ:13

精神力:14

素早さ:15

幸運値:17


SP:6


〈スキル〉

◯オート系

魔力攻撃力強化、魔術詠唱速度向上、魔力自動回復、体力自動回復、気配察知、決死の覚悟〈NEW〉


◯戦闘系

火魔術(2)、水魔術(1)、風魔術(1)、木魔術(1)、土魔術(1)、飛翔フライ(1)、聴覚鋭敏、テイム(1)、召喚(1)、見切り〈NEW〉


◯回復系

天からの祝福アンジュブレス(1)〈NEW〉


◯収集系

採集(2)、採掘(1)、釣り(1)、全鑑定(1)


◯生産系

錬金術基礎


——————


 まずは新しいスキルの確認をする。

 新しいのは【天からの祝福アンジュブレス】と【決死の覚悟】と【見切り】だね。


 えっと。

 ヘルプ見たら、種族固有スキルっていうのは、種族レベルが上がることで覚えられるスキルみたい。種族毎に決まってるんだね。

 僕はレベル6か7で覚えたってことだ。


天からの祝福アンジュブレス】の効果は——【パーティーメンバー全員の体力を微回復する。この効果は五分間続く】だって。


 ……めちゃくちゃ良いスキルだよね!?

 パーティーメンバーいないのが悲しいけど、いつか誰かと組んだ時には、絶対役に立つはず。僕一人でも使えるしね。


 なんかルンルンしちゃうなー。

 天兎アンジュラパって、ほんと良い種族!


「次は、と——」


 スキル【決死の覚悟】ってなんぞや? オートスキルらしいけど。


 説明文には【即死攻撃を受けても体力が1残る】と書いてあった。

 ……即死攻撃なんてあるんだ?! 怖いね。体力が1残ったところでどうにかなるもの? でも、あって損はないか。


 それにしても、なんでこのスキルをもらえたんだろう。

 んー……あれかな?


草原狼プレアリーウルフの攻撃を受けるために向き合ったから?」


 というかそれしかないよね。

 どうしようもなくて覚悟決めたけど、スキルもらえてお得だったな。


「最後は【見切り】」


 説明にあったのは——【攻撃を見切って回避しやすくなる】だった。


「地味にありがたい! これから回避とか鍛えようと思ってたもんなー」


 嬉しい。体術も含めてがんばってみようかな。



******


◯NEWシステム

【種族固有スキル】

 種族レベルが上がることで覚えられるスキル。種族毎に覚えられるスキルが異なる。


◯NEWスキル

天からの祝福アンジュブレス

 パーティーメンバー全員の体力を微回復する。この効果は五分間続く。


【決死の覚悟】

 即死攻撃を受けても体力が1残る。


【見切り】

 攻撃を見切って回避しやすくなる。


◯スキル変化

【火魔術】レベル2

 火の矢ファイアーアローを使える。火でできた矢が相手に降り注ぐ範囲攻撃。同時に三体を攻撃できる。


飛翔フライ】レベル2

 空を飛べる。滞空可能時間は十五秒。


◯NEW異世界の住人NPC

【宿屋の看板娘ジル】

 はじまりの街の宿屋の看板娘。溌剌とした印象の健康的な美少女。もふもふ好き。薬屋の娘アリスと従姉妹。


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