第10話 やらねばならない時がある

 魔術をいろいろ試してみたよ。

 風魔術レベル1は風の玉ウィンドボールで、魔術は全部レベル1がボール系みたい。


 跳兎ジャンプラビに対しての攻撃力は全部同じくらいだった。でも、木魔術の木の玉ウッドボールの次に火の玉ファイアーボールを使ったら、ダメージが上がった気がする。


 たぶん木→火、火→風、風→土、土→水、水→木で使うと、属性的にいいんだね。五属性を連続して使うなら、木→火→風→土→水→木ってこと。始点はどこでもいいけど。


 ただ、モンスターによっては属性にも得意・不得意があるらしいから、単純にこうすれば大丈夫ってわけでもなさそう。工夫しがいがあっておもしろい。


「種族レベルが5になったよー。魔術士レベルも3! 大成長だね」

「あれだけ跳兎ジャンプラビを倒せばそうなる」


 なぜだかカミラが呆れてる気がする。僕は真面目に戦闘訓練してただけだよ? すごい数のもも肉と皮が集まってる事実からはちょっと目を逸らす。乱獲じゃないよー。


 スライムたちが次々に跳兎ジャンプラビを連れてきてくれるから、やめ時がなくなっちゃったんだよね。

 そろそろ次の魔術使えるようになるんじゃないかなーって期待してるんだけど。


「SPの割り振りは?」

「ステータスポイント……忘れてた!」


 そういえば、種族レベルが上がる度に、なんかアナウンスされてた。

 ステータスを確認してみたら、SP8って表示されてる。これを好きなステータスに割り振れるんだって。


 今の僕のステータスはこれ。


——————


体力:27

魔力:47

物理攻撃力:10

魔力攻撃力:14

防御力:30

器用さ:10

精神力:14

素早さ:10

幸運値:17


SP:8


——————


 体力と魔力は、種族レベルが上がる度に、自動的にSPが割り振られてるっぽい。

 もらったSPはどこに使おうかなー。


「回避を鍛えるなら素早さが重要。攻撃の精度を上げるなら器用さ。単純なダメージ力を上げるなら魔力攻撃力に割り振るのがおすすめ」

「攻撃の精度?」


 なぁに、それ。首を傾げたら、カミラがきょとんと瞬きをした。


「……説明してなかった。攻撃すると時々クリティカルが発生する。これはモンスターの弱点を突いた時に出やすい。ダメージ力が二倍以上になる」

「え、すご!」

「モモはこれまで一度も出してない。たぶん器用さが足りない」


 そういうところに器用さって影響するんだ。生産だけに関係してるんだと思ってた。


「そっかー。クリティカルは惹かれるけど、そのために全振りするほどじゃないな。結局運も関わってくるんだもんね?」

「幸運値が影響しているという噂がある。それを上げるのもひとつのやり方」


 うわー、さらに候補が増えちゃった。

 ……うーん。今のところ、攻撃力は足りてるんだよね。敵が弱いからかもしれないけど、魔術二発で倒せるし。


 となると、今鍛えたいのは素早さかな。回避とかのスキルを覚えたい! 生産活動のために器用さも上げとこう。攻撃の精度も上がって一石二鳥。


「——よし、こうだ!」


——————


体力:27

魔力:47

物理攻撃力:10

魔力攻撃力:14

防御力:30

器用さ:13(3up)

精神力:14

素早さ:15(5up)

幸運値:17


——————



 カミラが頷く。


「いいと思う。弱点補強」

「だよねー。物理攻撃力弱いから、キックとか覚えてもダメージ低いけど。それは、必要になったら考える!」


 胸を張る。これが今の僕の最良です。


「SPの割り振りまで終わったから、戦闘指南は終了。質問があったら後から聞いてもいい」

「えっ、もう付き合ってくれないの……?」


 衝撃。

 カミラがいてくれるから、安心してバトルできたのに。


「本当は一回ダメージを受けたところを私がサポートするという指南もあった。でも、モモは攻撃受けてない」


 じとっとした眼差しで言われた。なんだか恨めしそうだけど、僕は進んでダメージ受けたくないよ?


 ……周りのスライムたちが時々力を貸してくれてありがたかった。跳兎ジャンプラビに不意打ちで攻撃されることなく、たまに突進を逸らしてくれてたんだよね。


 僕、もしかしてスライムに育てられたって言ってもいいのでは? ただし過保護すぎて、必要な経験も積めなかった疑惑がある。


「あははー……それはサポートお願いしたかったなー」

「はぁ。パーティー組んだら自然とできるようになるはず。後は攻撃を受けることを恐れないこと。誰かに守られてばかりでは成長しない」


 心にグサッときました。

 僕の恐怖心を正確に読み取られてる。攻撃受けるの、想像ができないんだよね。現実みたいに血は出ないけど、やっぱ衝撃はあるんでしょ?


「……最後に一回、バトルに付き合ってくれない?」


 覚悟を決めました。僕、ガッツリ戦ってみる。

 ゲームの中じゃ、バトルは避けて通れないんだし、ここで恐怖心に踏ん切りをつけておきたいな。


「攻撃される体験をする? でも、跳兎ジャンプラビじゃもう役不足」

「無抵抗で攻撃されるのは、なんか違うよなー」


 カミラと顔を見合わせる。

 僕のお願いを聞き入れてくれるみたいだけど、今からだと条件が難しいよね。でも、この【東の草原】で今の僕が本気で戦える相手と言ったら、一つしかなくない?


草原狼プレアリーウルフ、行く?」

「……行こう」


 たぶん、きっと、間違いなく、一人で行くより気が楽なはず!

 自分にそう言い聞かせて、草原の奥へと進んでいくことにした。木が生えてるエリアが草原狼プレアリーウルフのテリトリーだって言われてたからね。


「ちなみに、初心者の冒険者は草原狼プレアリーウルフと戦うなら、フルパーティー推奨」

「それ、六人がかりで戦えってことじゃん! 急に強すぎでは!?」


 思わず叫んじゃった。

 パーティーは最大六人まで組める。人数が増えるほど、当然戦力は増す。フルパーティー推奨っていうのは、それだけ敵が強いという証だ。


 まさか、草原狼プレアリーウルフが最初のフルパーティー推奨の敵とは……。北と南の門から出た先の敵はもっと強いのかな?


「初心者はレベル5までのこと。もうすぐ6になるモモならいける」

「判定ガバガバかよっ! 現時点でレベル5なんだから、僕はまだ初心者だよ。なんならチュートリアルも終わってない、ピヨピヨの雛だよ!」

「? モモはうさぎ」

「そういう意味じゃなーいっ!」


 急に天然ボケかましてくるじゃん。カミラおもしろいかよ。


 ちょっとやけっぱちになってきた気がする。通り道で遭遇する跳兎ジャンプラビに魔術をぶつけて不満発散! 今のところ、魔力はすぐに回復してるから、これくらいは目的外に使ってもいいでしょ。経験値入るし。


「私がサポートする。大丈夫」


 頭をポンって撫でられる。

 ……そんな優しくできるなら、最初からそうしてよ、もう。


「頼りにしてる……」


 むぅ、と頬を膨らませながら言う。カミラが口元にかすかな笑みを浮かべた。笑った顔可愛いね。怒れなくなっちゃうじゃん。



 もうすぐ草原狼プレアリーウルフのテリトリーに入ろうという頃合いに、一体のスライムが近づいてきた。


「どうしたんだ?」


 スライムがぷるぷると体を震わせながら『わたしたち、ここまでね。こわいから』と伝えてくる。

 さすがにスライムに草原狼プレアリーウルフの相手は荷が重いみたい。だよね。むしろこれまでよく付き合ってくれたよ。フレンドでもないのに。


「そっか。これまでありがとう。助かったよ」


 手をふりふり。スライムも体の一部を伸ばして振り返してくれた。暫しのお別れじゃ、達者でな!


「律儀……」

「確かに、モンスターって頭いいんだね」


 そのわりに、跳兎ジャンプラビは無鉄砲に戦いに来ていたような? スライムだけが特別なのかな。


 カミラの様子だと、スライムの態度も奇妙みたいだけど。普通は否応なしに襲ってくるんだって。僕に対してのこれは、きっとスライムと仲が良いからこその成果だね。


 それにしても、スライム防御壁さえ失われて草原狼プレアリーウルフに挑むとか、負け確では? ほんと、カミラ頼りにしてるぞぉ!



******


モモ

種族:天兎アンジュラパ(5)

職業:魔術師(3)、錬金術士(1)


【ステータス】

体力:27

魔力:47

物理攻撃力:10

魔力攻撃力:14

防御力:30

器用さ:13(3up)

精神力:14

素早さ:15(5up)

幸運値:17


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