第9話 わくわく初バトル

 モンスター探し再開。

 できたら跳兎ジャンプラビがみつかるといいんだけどなー。


「って、スライム……」


 緑色のスライムが『やっほー』って震えてる。スライムが友好的なのって称号効果? もらう前から親しげだった気がするけど。


「バトルする?」


 聞いてみたら、『えっ。わたしとですか……?』って感じで怯えられた。ごめん。バトルしたいだけなんだ。嫌ならいいよ。


跳兎ジャンプラビがどこにいるか知らない?」


 期待せずに聞いてみたら、スライムは『あっちー。みんなでおいはらってあげたんだよ』と答える。


「——って、モンスターに遭遇しない原因、お前らかいっ!?」


 反射的にツッコミをいれていた。

 だって、勝手にモンスターが追い払われてるとは思わないじゃん。好意でしてくれたんだろうけど、余計なお世話ってあるんだよ? 薬草採集が捗ったのはありがたいけどさ。


「どういうこと」

「んー、スライムたちが、僕に良かれと思って、周囲の跳兎ジャンプラビを追い払ってたみたい……」

「どういうこと」


 二回聞かれた。声に滲む不可解そうな感じが強くなってる。

 Cランク冒険者さんでも、初めての状況なんだねー。初体験ヨカッタネ!


 スライムは『よぶ? つれてくる?』と窺う感じで見上げてくる。ぜひともお願いしたいです。


 僕が頷いたら、スライムも重々しい感じで頷くように体を揺らした後、どこかへ跳ねていった。周囲で一気になにかが動く音がする。

 ……この気配、もしかして全員スライム? 僕を跳兎ジャンプラビから守ろうと控えてたの?


「なんでこんなに好かれてるのかわからない」


 スライムキングを尻に敷いたからか。そんなことでスライムって好意を抱くの? 真性のM——いや、性癖……この言い方もダメか。


「たくさん囲まれてるのに襲ってこなかったのはモモに原因があった……」

「カミラ、囲まれてるの気づいてたんだ? 言ってよー」

「索敵も戦闘指南の一貫。自分で気づくべき」


 指南って、普通最初にやり方教えてくれるもんじゃないの。放任はひどい。

 でも、おかげで気配読めるようになったかも。——何気なくステータス眺めたらスキル欄に【気配察知】って表示されてた。スキル入手簡単だね?


 これ、スキルを育てるのが難しいっていうパターンかな。全部のスキルを把握するのさえ大変になりそう。【気配察知】は呪文の詠唱がいらないみたいだからいいけどさ。


「——跳兎ジャンプラビが来た」

「スライムに追い立てられてるー」


 たくさんのスライムたち、ご苦労様です。ありがとう。必死で逃げてる跳兎ジャンプラビがなんだか哀れになるけど。


 跳兎ジャンプラビは薄紫の体色をした野生感の強いうさぎだった。僕とは全然似てないじゃん! 僕はもっとふわふわでプリティーだよ。同士扱いしたカミラ絶許!


「魔術を使ってみて。跳兎ジャンプラビに対して不利な属性はない。どれでもいい」

「了解。じゃあ、オーソドックスに火魔術から」


 レベル1で使える火魔術はひとつだけ。というわけで早速詠唱。オートスキルがあるから詠唱時間は普通より短くなってるはず。五秒だって。


「ほにゃららこにゃらら——火の玉ファイアーボール!」


 いくらなんでも詠唱の呪文に手を抜きすぎじゃない? スキル使おうと思ったら、勝手に声が出たんだけど……なんか恥ずかしい。


 ——ギュビッ!


「当たったみたい。でも、倒しきれてない」


 火の玉ファイアーボールが当たった跳兎ジャンプラビは一歩後退したけど、頭を振ったかと思うと僕を睨んできた。完全に敵としてロックオンされちゃってるよ。ひえっ。


 跳兎ジャンプラビの後ろで、スライムたちが『ふれー、ふれー、がんばれー』と応援してるのが、すごく場違いな印象がある。緊張感が飛んでいっちゃいそうだから、おとなしくしててください。


「攻撃力が足りてなかったのかー」

「あと一発でいけそう」


 そうなんだ。確かに、跳兎ジャンプラビの頭上にある体力を示すバーの半分ほどが消えてる。完全に敵対すると、このバーが示されるみたい。わかりやすくていいね。


「んー、じゃあ、違う魔術も試したいな」


 なににしようかなー。火魔術使っても、草原に延焼することはないみたいだから、周囲への配慮はいらなそうだよね。


「火を重ねると、火傷状態にできる可能性もある。でも、すぐに死んじゃうから跳兎ジャンプラビ相手だとわからないかも」

「あ、そういうのもあるんだ? 強そうな相手に遭遇したらやってみるよ」


 良い情報をゲットしました。燃やし続けたら火傷状態かー。理解しやすいね。火傷状態にすると、一定時間防御力を無視したダメージを与えられるらしいよ。めっちゃ重要だ。


「——水をかけたらどうなるのかな?」


 現実だと、暑くなって水がきたらラッキーってなるけど、ゲームだと関係ないんだろうか。気になるから使ってみよう。


「ちゃぷちゃぷばっしゃーん——水の玉ウォーターボール!」


 火の玉ファイアーボールより間抜けな呪文……恥ずかしいよぉ。無詠唱スキルとかないかな?!


 僕が密かに羞恥心で悶えてる間に、跳兎ジャンプラビ水の玉ウォーターボールが当たって弾けてた。倒したモンスターは、光になって消えていくシステムみたい。


跳兎ジャンプラビを倒しました。経験値と【跳兎ジャンプラビのもも肉】【跳兎ジャンプラビの皮】を入手しました。アイテムボックスに収納されます〉


 ひゃっほーい! 祝、初勝利だよ!

 もらった経験値がしょぼい気がするけど、最初だからしかたないね。


〈種族レベルが上がりました。2SPステータスポイントを獲得しました〉


「レベルアップ?! すごい。最初は必要経験値が少なかったんだ」


 しょぼいとか思ってごめんよ。跳兎ジャンプラビ、良い経験をありがとう!


「ん。レベル2には上がりやすい。戦闘指南続ける?」

「続ける! というか、カミラはもっとコツとか教えてくれないの?」


 今はほぼ付き添ってるだけじゃん。

 じとっとみつめてみた。カミラはちょっと考え込んでる。


「……魔術は組み合わせが大切。さっきは火の後に水を使ったけど、もっと違う順番にすると、効果が上がることがある。反対に下がることもあるから注意。さっきの水も、本来はもっとダメージが出る」

「あ、そうなんだ!? 火の後の水はダメってことか……」

「ん。状況にもよる」


 よいアドバイスありがとう。

 他にもほしいなー、と目でねだってみたら、カミラはまた首を傾げた。


「——スキルがなくても、速く走ろうとしてみたり、飛び退ったり、キックしたりしても効果がある。繰り返したらスキルを得られる。スキルになると効果が大きくなる。得られるまでの時間は、適性による」

「確かに、スキルって行動すれば結構手に入れられるもんね」


 じゃあ、体術系のスキルの習得を目指そうかな? 回避とかスキルでできたら安全性増すよね。


「ん。いろいろ試してみるべき」

「わかった! がんばるよー。さて、次のモンスターは……」


 ちらりと視線を前方に向けたら、ドドッとなにかが走ってくる気配を感じる。これ、スライムに追い立てられてる跳兎ジャンプラビだよね。おかわりも早めに用意してくれてたのかー。スライムたちは気が利く!


「よーし、魔術全種試そう! その後は回避とか体術を鍛えようかな」


 運動苦手だからどうなることかと思ってたけど、意外と楽勝な感じ。楽しーなー!



******


◯NEWスキル

【気配察知】

 モンスターの気配を察知できる。習熟度が増すと、数や距離を把握できるようになる。レベル1で察知できる範囲は、およそ半径十メートル。


◯NEWアイテム

跳兎ジャンプラビのもも肉】レア度☆

 生肉。調理すると食べられる。鶏肉に似ているらしい。煮ても、焼いても、揚げてもよし! この国で最も食べられている肉。


跳兎ジャンプラビの皮】レア度☆

 鞣して革にすると、防具などを製作するための材料になる。耐久性はあまりない。薄紫という珍しい色なので、装備の差し色に使われることが多い。


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