第8話 君も友だち!

 カミラに抗議したらちゃんと納得してもらえた。ということで、チュートリアルを本格的に開始。


 敵であるモンスターはシステム的に用意されてないらしく、自分で探さなきゃいけないみたい。索敵も含めて、バトル指南ってことだね。


「どこにいるかなー?」

「街の近くはスライムと跳兎ジャンプラビが多い。あっちの木があるエリアまで行くと、草原狼プレアリーウルフが出てくる」

「なるほど。じゃあ近場で探そ」


 周りをきょろきょろ。意外といないもんだね。もっとどんどん現れるもんだと思ってた。


「……スライムはすぐに出てくるはず」


 カミラがちょっと戸惑ってる。ここまでモンスターが現れないのは異例らしい。


 どうしてかな? スライムといえば、異世界との狭間でちょっぴり仲良くなったけど。もしかして、僕がモンスターに分類される種族だから、とかありえる?


「んー……この草、気になる」


 警戒しながら歩いてたら、足元にトゲトゲした葉っぱがあった。なんか密集してる。


「それ、薬草。街の近くは採り尽くされてることが多い。ラッキー」

「そうなんだ! じゃあ採集しとこう」


 もしかして、チュートリアルが独立した空間で行われてることと関係ある? プレイヤーが一人もいないから、冒険者ギルドと同じ感じでここも隔離されてるっぽいんだよね。


 ま、ラッキーだし、ありがたく採集しちゃお。

 これ、プチッと採っていいのかな?


「あ……スキルってこんな感じか……」


 薬草に触ったら、勝手に切れた。手の中にはわさっとした草の束。薬草とったどー!


 掲げてみたら、カミラに不思議そうに見られた。楽しんでるだけなのでスルーしてください。


 そそくさとアイテムボックスにしまう。薬草の束(普通品質)✕1って表記がいいね。枠いっぱいまで集めたい。


「普通品質。採集レベル2だと、この品質か……」

「アイテムの品質は最低・低・普通・高・最高まである。普通品質はGランク冒険者なら良い方」

「へぇ、解説ありがとう」


 つまり、ランドさんは最低品質を回避したくてスキルくれようとしたのか。下から三番目は十分でしょ。


 プチプチと薬草採集をしながらモンスターを探す。なんで出てこないんだろ?


〈採集を百回行いました。称号【採集ダイスキ】が贈られます〉


「あ、なんか来た」


 ステータスを確認。

 称号【採集ダイスキ】の効果は、採集した際にアイテムの品質が上がるってものらしい。いいね!


 というか、僕もう採集を百回もしてるの? アイテムボックスの一枠が埋まってない——と思ったら、二枠に分かれてた。低品質と普通品質で、枠が違うんだね。

 称号の効果があると高品質が採れるのかな。それとも普通品質の割合が増えるのか? 要検証だ。


「暇……」

「それはごめん」


 カミラが遠くをみつめてる。

 なんでモンスターが現れないんだろうね? 探してないだろって言われたら否定できないや。つい、薬草探しに熱中しちゃって。薬草がお金に見えるんだもん。


 いや、そろそろちゃんとチュートリアルこなしたい。集中して探そう。


「——ん?」


 気合いを入れ直したところで、背の高い草の陰になにかが見えた。ぷるぷるしてる物体。見覚えあるよ! でも、なんか色が違う?

 前に見たのは青だったけど、こいつは緑。草に紛れてるから、飛び出してこないと探しにくい。


「スライム発見!」

「やっとバトル」


 カミラがそう言うけど、これ、バトルになる雰囲気かな?


 スライムは僕を見て『やっほー』って感じで体を震わせてる。


 どうもどうも。もしかして、異世界との狭間で会ったスライムさんのお知り合いです? あ、違うの。会ったことはないんだ。——あれ、王様だったの!?


 衝撃的な事実を知ってしまった……。例として用意されただけだと思ってたあのスライム、王様だったらしい。

 スライム様って呼ぶべき? 僕、クッション代わりにお尻に敷いちゃったんだけど。


「なにしてる?」

「へっ、あ、スライムとお話を……」

「敵なのに?」

「敵なのかな?」


 カミラが目を丸くしてる。ここまで表情崩してるのは初めて見た。そりゃ、野生のスライムと仲良くしてたら驚くよね。


〈スライムから情報を得たことにより、称号【スライムキングを尻に敷く】が贈られます〉


 ふぁ!? なんかもらっても微妙な称号が来ちゃった……。尻に敷くって、なんでそんな称号用意してんだよ。


 ステータスを確認しまーす。

 なになに——称号の効果は【スライムとの親密度が上がりやすくなる】か。すでに仲良くなってた気がするけどね?


「スライムくん、お名前あるの?」


 ぷるぷる。ないってさ。なんで声もないのに理解できるんだろうね。僕もモンスターだからなんだろうな。


「じゃあ君のこと【スラリン】って呼ぶね!」


 スライムくん——スラリンがぴょんと跳ねた。喜んでくれて嬉しい。ネーミングセンスないとか否定されなくて良かった。

 カミラが「えっ……」と呟いてるのは、モンスターに名前を付ける行為に対してだと思いたい。


 ——シャラン!


「スラリンが光った!?」


 急に緑っぽい光を放ったスラリンにびっくり。光が消えても、特に変化はない気がするけど……。


〈野生のモンスターと友情を育みました。スライム【スラリン】からモンスターカードが贈られます〉


 モンスターカードってなんぞや?

 ヘルプ参照——これ、フレンドカードのモンスター版みたいだね。フレンド欄にモンスター用のタブができてる。登録されたモンスターはバトル時に召喚可能らしい。パーティーメンバー、ゲットした感じ?


 フレンド第三号はモンスターかぁ……。そろそろプレイヤーともフレンド登録したいよ。すごく脇道を突き進んでる気がする。


〈〈ワールドミッション『モンスターをテイム』が、プレイヤーにより達成されました。これより転職可能な職業に【テイマー】が追加されます〉〉


 えっ!? これワールドアナウンスってヤツ? プレイヤー全員に通知されてるんだよね?

 初めて聞いたよ……。これ、僕がきっかけになってるっぽい。


 モンスターとフレンド登録すると、テイム認定になるのか。バトルに召喚できるなら、テイマーっていうより召喚士っぽいけど。


〈このワールドで初めてモンスターをテイムした報酬に、スキル【テイム】【召喚】と、アイテム【モンスター空間(草原)】が贈られます〉


 アイテム?

 確認したら、アイテムボックスの中に、草原のジオラマ模型みたいなのがあった。


 説明文に【テイムしたモンスターを保有できる空間。草原の環境が設定されている。現在の保有可能モンスター数は五体。この空間で保有したモンスターは、召喚する際の詠唱時間が短くなる。保有期間中にモンスターの世話等は必要ない】って書いてある。


 ふへー。なるほど。

 それにしても、職業ってまだ変更できないんじゃない?


 ヘルプを確認したら、転職機能が解放されないと、テイマーになるのはやっぱり無理みたい。随分と先取りしてワールドミッションをクリアしちゃったのかも。


 テイマーじゃなくても、モンスターを召喚できるの? って思ったら、召喚スキルの説明にちゃんと書いてあった。


 テイマーじゃない場合、召喚スキルがレベル1だと、モンスターがバトルに参加できる時間が五分で、再召喚が可能になるまで一時間かかるんだって。

 テイマーは無制限みたいだから、随分と違うね。


 テイマーになると、街でもモンスターを連れ歩けるようになるみたい。テイマーが増えたら、僕も街で目立たなくなるかな?


「スラリン、モンスター空間に入る?」


 アイテムボックスから取り出したジオラマ(両手で抱えるサイズ)を見せたら、スラリンが嬉しそうに体を震わせた。

 そして白い光を放って消えていく。


「えっ……あ、ジオラマの中にちっちゃいスライムがいる!」


 芸が細かいことに、モンスター空間内で動いてるモンスターの姿を観察できるらしい。インテリアにも良さそうだね。


「……よくわからないけど、おめでとう?」

「ありがとう!」


 カミラが不可解そうにしてる。でも、お祝いしてくれるってことは、異世界の住人NPC的にもテイマーは受け入れられるってことだよな。


「バトルはできなかったけど」

「そうじゃん! 今回の目的は初バトルなのに……」


 忘れてた。

 またモンスター探さないと。でも、スラリンと仲良くなったから、スライム倒すのは気が引けるなー。

 ……いつになったらチュートリアル終わらせられるんだろう。



******


◯NEWアイテム

【薬草の束】レア度☆

 草原や森など、様々なフィールドで採集できる。回復薬の材料になる他、そのまま食べても体力を1だけ回復できる。


【モンスター空間(草原)】レア度☆☆☆

 テイムしたモンスターを保有できる空間。草原の環境が設定されている。現在の保有可能モンスター数は五体。この空間で保有したモンスターは、召喚する際の詠唱時間が短くなる。保有期間中にモンスターの世話等は必要ない


◯NEW称号

【採集ダイスキ】

 スキル【採集】を使って採集を百回行うと与えられる称号。採集した際にアイテムの品質が少し上がる。


【スライムキングを尻に敷く】

 異世界との狭間でスライムキングを踏んづけた者が、その真実を知ることで与えられる称号。スライムとの親密度が上がりやすくなる。王様を尻に敷いた君はスライムから尊敬されてるよ!


◯NEWフレンド

【スラリン】

 東の草原で出会ったスライム。緑色の体で、草に紛れることができる。


◯NEWスキル

【テイム】

 モンスターを一定の確率でテイムできる。自分のレベル以上の相手には効きにくい。テイムしたモンスターはフレンド欄モンスタータブに記載され、召喚可能になる。


【召喚】

 テイムしたモンスターを召喚できる。モンスターがいる場所との距離に従って、詠唱時間が変わる。召喚すると、パーティー枠を一つ使用する。レベル1では、一回のバトルに一体召喚できる。

 テイマーはモンスターの召喚可能時間に制限なし。モンスターが負けた場合は、一時間モンスターのステータスが半減する。

 テイマーでない場合は、召喚可能時間・再召喚可能になるまでの時間に制限がある。レベル1では、召喚可能時間五分、再召喚可能になるまで一時間。


◯NEWシステム

【テイマー】

 転職可能な職業。

 モンスターをテイムし、召喚する。バトルフィールド以外でも連れ歩くことが可能。

 テイムしたモンスターのスキル・ステータスを選択し育成することができる。


******

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