第7話 ただのうさぎじゃないよ
用が済んだので、アリスちゃんたちとはそろそろお別れです。
ランドさんに調薬の仕方とか聞いても「お前さんにはまだ早い」って言われたんだもん。たぶんもっと仲良くなるか、もしくはメインミッションを進めないといけないんだと思う。
というわけで、脇道から正道に戻るぞ。
ばいばい! と手を振るアリスちゃんに手を振り返す。また会おうねー!
「——さて、やっと冒険者ギルドだよ」
裏口から出て表通りまで来たけど、人が多い。げっそりしちゃうなー。パーティー募集してる人だかりで騒がしい。
これは冒険者ギルドの中もいっぱいなんじゃない……?
おそるおそる冒険者ギルドの扉を押し開く。
ちなみに、剣が交差したマークの看板が冒険者ギルドの印らしい。魔術士だっているのにね。
「あれ? 少ない……」
驚くことに、冒険者ギルドの中は数人の冒険者らしき人と職員しかいなかった。しかも、プレイヤーって示されてる人が一人もいない。
「もしかして、ここって隔離されてる場所?」
プレイヤーそれぞれのために構築されてる空間なのかも。ゲームが始まった時の異世界との狭間ってとこみたいな。
「ま、人が少ないに越したことはないよね」
気分を上げて、いざカウンターへ。
受付にいたのは若い女性だった。青色の髪が違和感なく似合ってる。
「いらっしゃいませ……?」
「ここだよー」
視線を彷徨わせてる受付さんに、
プレイヤーが来たら挨拶するように設定されてたんだろうけど、それなら身長のこともあらかじめ考慮してくれてても良かったんじゃない?
「きゃっ、モンスター! ……じゃない?」
「じゃないんです、たぶん」
種族はモンスターかもしれないけど。
いまさらだけど、
「なるほど。友好モンスターの旅人の方ですね」
「あ、そういう感じなんだ」
モンスターであることに間違いはないんだね。
「そうではないんですか?」
「そうだと思います。それより、僕も冒険者登録できる?」
「旅人の方なので可能です」
良かったー。これでモンスターはダメとか言われたら、ゲーム序盤で詰んでることになるもん。
「じゃあ、登録お願いします!」
「かしこまりました。申し遅れましたが、私はロアナです」
「僕はモモ。ロアナさん、よろしく」
「よろしくお願いします」
受付さんにも名前があるんだね。覚えとこう。
ロアナさんは着々と登録作業を進めてくれてる。名前とかはシステムで勝手に登録されるみたい。楽でいいね。
「こちらの内容で登録いたします」
ロアナさんが見せてくれたのは、僕の名前と職業が書かれた紙。内容薄いな。スキルとかすぐに増えるから書いてないのかな。更新大変だもんね。
「はーい」
「では、身分証となるギルドカードの作製が完了するまでに、冒険者ギルドの規則をご説明します」
ヘルプ参照じゃなくて、きっちり説明してくれるみたい。
①冒険者ランクは、下はGから、上はAまで。さらに上のSは、国から与えられる英雄の称号持ちだけ。登録してすぐはGランク。
②依頼を受けて達成すると、冒険者ギルドポイントがもらえる。一定数貯まるとランクが上がる。次のランクまでに必要なポイント数は、ギルドカードに記載されている。
③依頼の一部にはランク制限がある。自分のランクの一つ上までの依頼を受けられる。でも、失敗したり、キャンセルしたりすると、相応に冒険者ギルドポイントが引かれる。悪質な場合は、一定期間の冒険者資格停止処分がある。
④依頼はソロ、パーティーのどちらで受けてもいい。依頼受託時に申告すること。メニューの依頼一覧からも依頼の受託等を申告できる。
⑤犯罪行為が発覚した場合は、冒険者資格が失われるのと同時に、すべての街で犯罪者として手配される。冒険者に捕縛依頼が出されることもある。
「——大まかな規則の説明は以上です。なにかご質問はありますか?」
「ううん、大丈夫。いたずらに依頼を受けてキャンセルしなきゃいいってことだよね。犯罪行為はそもそもするつもりないし」
「はい。納品依頼の場合は、アイテムの品質により報酬が変わることもありますのでご注意ください」
薬草の品質とかのことだよね。オッケー、理解できた!
「ギルドカードができました。質問がないようでしたら、手続きは以上になります。バトル指南の手配は必要ですか?」
「バトル指南?」
「こちらが指定した冒険者に、戦闘方法を教えてもらうことです。モモさんに負担なく、冒険者ギルド側で指南役を手配します」
それ、チュートリアル? いるに決まってるじゃん!
「手配してください!」
「かしこまりました。——現在手配できる冒険者はCランクのカミラです。よろしいですか?」
「誰かわかんないけど、たぶん問題ないよ」
聞かれたところでどうしようもなくない?
首を傾げてたら、ツンツンと背中をつつかれた。振り返ったら黒髪の美人さんが無表情で佇んでる。
「……私がカミラ」
「あ、そうなんだ? よろしくー。僕はモモだよ」
そういえば、ここに来たとき依頼書を眺めてる後ろ姿を見かけたかも?
ローブ着てるから魔術士さんかな。僕の職業にあわせて用意されてたんだろうね。
「ん。街の外に行く」
「すぐに始まる感じかぁ。準備はいらない?」
聞いたら、カミラがじっと僕を眺めた。美人にみつめられたらドキドキしちゃう。
「杖持ってる」
「気分しか上がらないらしいけど」
「魔術発動体として使えたら十分。攻撃力上げたかったら、あとでお金稼いで自分で買う」
「了解ですー」
話し方淡々としてるな。聞き取りやすい声でいいけど。美人だし。
「——あ、でも、防具は?」
「モモは旅人の服を持ってない?」
「ないねー。友好モンスターってやつみたいだから!」
人の姿の種族だと、旅人の服が初期装備でもらえるらしい。雀の涙ほどの防御力があるとか。
まあ、僕は自前の毛皮で防御力抜群だけどね! う、羨ましくないんだからっ。
「モモだけないのは可哀想。——うん、これあげる」
カミラがブレスレットみたいなものをくれた。
〈冒険者カミラから【防御力+1】のブレスレットを贈られました。装備しますか?〉
+1……! しょぼい、げふん——ありがたいな!
早速つけてみよう。銀色の金属でできてて、なかなかおしゃれかも。サイズは自動調節してくれるんだ。良かった!
「似合ってる」
「ありがとー。準備できたから、行こ」
カミラと一緒にいざ
〈チュートリアルを開始します。街の外に転移しますか?〉
お、便利!
冒険者ギルドの外はまだたくさん人がいそうだから嫌だったんだよ。転移しましょー。
〈【東の草原】に転移します〉
グワンッと視界がブレた。
でもそれは一瞬で、気づいたら草原にいる。草と土のにおいがリアルだなー。
「ここは【東の草原】。街の東門から出たらここに着く」
「他にも門があるの?」
「西は港。北と南に門。そこから街道がある。どっちも第二の街【オース】に繋がってる。ここよりモンスターが強いから注意」
「そうなんだ。最初のレベル上げはこっちでしろってことだね」
周囲を見渡す。東の方に大きな山が見えた。ここは山の裾野にあたるみたい。
「あれはサクノ山。地中で火のエンシェントドラゴンが眠ってると言われてる」
「エンシェントドラゴン!?」
急にすごい名前が出てきた。強そうなんだけど、序盤で出てくるもんなの?
「ん。実物を見た人はいない。でもたまに火を噴く」
「……それ、火山の噴火じゃない?」
「そうかもしれない」
カミラの口元がちょっと緩んだ。わかりにくい笑い方だなー。貴重だからこそのご褒美感があってラッキーな気がする。
「この島自体がサクノ山から流れ出た溶岩でできてるらしい」
「待って、ここ島なの?」
初耳。マップじゃそんなことわからなかったよ。
「今は大陸と繋がってる」
「あ、それも溶岩で、ってことだね」
なんかそんな話どっかで聞いたことあるなー。……あ、桜島だ! 鹿児島県にある活火山。名前も似てるし、桜島がモデルなのかも。
カミラに詳しく話を聞いたら、大陸(イノカン国)って鹿児島県に似た形になってるみたい。なるほどー、イメージしやすいね。
つまり、はじまりの街があるサクノ山は、イノカン国の内海にあるってことか。
「【東の草原】で現れるモンスターは、スライムと
カミラがそう言ったところで僕をマジマジとみつめた。なに? なんか嫌な予感がするよ。
「モモはうさぎ? 同士討ちは嫌?」
「僕は
失礼しちゃうな、もう。
******
◯
・ロアナ
はじまりの街の冒険者ギルドの受付嬢。青い髪の美人。グラマラス。
・カミラ
はじまりの街のCランク冒険者。職業は魔術士。ソロで活動している。
◯NEWエリア
【東の草原】推奨種族レベル1以上
はじまりの街の東側にある草原。サクノ山の裾野に広がっている。
現れるモンスターはスライム、
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