第6話 友だちはたくさんほしいよね
子猫を抱っこしてるアリスちゃんの隣をトテトテと歩く。
歩くスピードが一緒くらいだから、お話しやすくていいね。
家に着くまで時間かかっちゃうけど、さすがにアリスちゃん抱っこしながら
のんびり歩いてたら、大通りに着いた。
まだ続々とプレイヤーがやって来てるみたい。
みんな冒険者ギルドに一目散だな。身分証作らないと、バトルのチュートリアルができないらしいから。みんな早く戦ってみたいんだろうなぁ。
「きょうは人がおおいね?」
「あ、やっぱり? 僕みたいな
戸惑った顔のアリスちゃん。やっぱり現地住民は戸惑うよね。
一応、このゲームの第一弾参加者は五万人に限定されてる上に、細かくサーバーが分かれてるらしい。だから、この街に今日やってきたのは千人くらいかな? ——十分多いね!
「そうなんだ。じゃあ、パパのおみせも、おきゃくさんいっぱいかなー」
アリスちゃんはなんだか嬉しそう。冒険者ギルドの隣にある薬のお店なんだから、もともとお客さん多そうだけど、もっと繁盛してる方がいいのか。
「商品なくなっちゃうかもね」
「いつもたくさんあまってるよ?」
「え、そうなの?」
もしかして、はじまりの街にはあんまり冒険者がいなかった感じ?
そうなると、急に冒険者増えたことで混乱が起きそうだな。
アリスちゃんのパパに話を聞いてみるか。忙しそうだったら無理だけど。
「人がおおいとこわいね……。まわり道しよ?」
「いいよ。みんな体がおっきくて威圧感あるもんね」
子どもが安全に歩ける人混みじゃないのを見て、ちょっと顔を顰める。
一部、街中で勢いよく走ってる人もいて、危ないなー。早くバトルしたいんだろうけど、睨んでる住人の顔が見えてないのかな?
「こっちだよ」
アリスちゃんの後に続いたら、細い道があった。住人だけが使える生活道って感じ。わー、洗濯物干してある……。ゲーム内なのに、現実感重視しすぎじゃない? おもしろいからいいけどさ。
「大人じゃ通り抜けるの難しそうだね」
「うん。アリスたちのひみつの道なの。モモ、ないしょにしてね?」
「もちろんだよー」
秘密は守りますとも。話す相手もいないけど。
アリスちゃんが言うには、こういう細道が街に張り巡らされていて、結構穴場スポットがあるらしい。ゲームシステムのマップには記載されてないけど、結構作り込まれてるんだな。
「モモにわたしのちずあげる」
「地図?」
ポケットを探ったアリスちゃんが、折りたたんだ紙を差し出してきた。これは、あのパターンでは……?
受け取った途端、アナウンスが聞こえた。どうでもいいけど、これナビの声っぽい。
〈チェーンミッション1『アリスと散歩』をクリアしました。報酬として【はじまりの街の秘密の地図】が贈られます。マップを更新しますか?〉
ふあっ? なんか質問された。こういうパターンもあるのか。
マップを更新ってことは、最初から使ってたマップに追記されるってことだね。それ便利そう。ってことで、更新お願いします。
〈マップを更新中です。……更新されました。マップを開いて、右上のシークレットタブから追加された情報を確認できます。はじまりの街のシークレットエリアを一人で探索できるようになりました〉
声に出さなくてもいいんだ。便利だねー。
えっと、マップの右上? あ、新しいボタンできてる。これを意識して——開いた!
追加された情報は、これまで使ってたマップの上に別の色(赤)で示されてる。
ほうほう……これまで空白だった場所がだいぶ埋まってるね。ここ、シークレットエリアだったのか。アリスちゃんがいなかったら入れなかった場所ってことだよな。
シークレットエリアのお店とか気になるのはたくさんあるけど、一番行ってみたいのは【猫まみれ】だな! どういう場所なんだろう? 広場っぽいから、日向ぼっこしてる猫がいっぱいいるのかな。猫のおやつみつけられたら行ってみよ。
「モモ、おうちについたよ」
「あ、ほんと? ここ裏口だね」
いつの間にかアリスちゃんのお家に着いてました。一階が薬店で、二・三階が住居になってるんだって。
裏道通ってきたから、裏口からお邪魔します。表通りからはにぎやかな声が聞こえてくるねー。
「パパ、ただいまー!」
「アリス、おかえり。お? なんだそれ……?」
それ扱いされた僕です。失礼だな!
アリスパパは、「冒険者じゃないの?」って聞きたくなるくらいがっしりした体格の人だった。
「僕、モモっていいます! 今日この街に来たんだ。そしたらアリスちゃんと仲良くなってね。——」
子猫を連れて二階に上がったアリスちゃんに置いていかれたので、僕がアリスパパに経緯を説明。そうしたら、すごく感謝されちゃった。
「そうか、そうか! うちのアリスが世話になったな! ちっこいくせに、頼りになるじゃないか!」
「……ちっこいは余計」
ムスッとしたら、アリスパパに背中を叩かれた。ちょっとダメージが入ったんだけど!? 僕の防御力を通り抜けてくるって、この人何者!?
「——痛いよ!」
「悪い悪い! お詫びに回復薬やるよ」
「え?」
小瓶を渡された。紫色の液体が入ってる。なんか毒々しい……。
〈チェーンミッション2『ランドと親しくなる』をクリアしました。報酬として【初級回復薬】が贈られます〉
……ランドって誰?
いや、状況から考えたらアリスパパのことなんだろうけど、急に言われたらびっくりするよ。
というかさっきから気になってたけど、今の僕の行動ってミッションが続いてるんだ? どこまであるんだろう?
アイテムの説明を確認しようと思ったら、それより先にアリスパパ——ランドさんが話し始めた。
「それにしても、今日この街に来たって、もしかしてお前さん旅人か?」
「うん、そうだけど」
ランドさんが顔を顰めてる。旅人って言葉に、ちょっと嫌悪感が滲んでたのは気のせいじゃないよね?
「……そうか。今日は旅人が一気に冒険者になったとかって話で、さっきまで大挙してこの店に来てたんだよ」
「あー、冒険には回復薬が必須だからねー」
たぶん僕がすぐに冒険者になってたとしても、同じ行動してたと思う。初日から死に戻りは嫌だもん。
チラッと店内を眺めたら、一部商品を除いてすっからかん。残ってるのは、ゲーム始めたてじゃ買えないような高価な薬だけだ。
よく見たら、表の扉に鍵がかかってる。もう閉店したみたい。商品がなければしかたないよね。
「おかげで在庫はほとんどないし、追加で作った分も売れちまった。材料さえありゃしねぇ。冒険者ギルドに薬草を発注してみたが、いつ届くことやら……」
「冒険者増えたから、すぐに依頼は受注されるんじゃない?」
薬草の依頼とか、ゲーム序盤ではオーソドックスだし。すぐ集まる気がするけど。
なんでかランドさんは首を横に振ってる。
「初心者が採集してくる薬草なんて、品質が悪くてほぼ使えん。馴染みの冒険者が受けてくれるといいが……しばらくは無理そうだな……。はぁ……」
おっきなため息だなー。
それにしても、薬草に品質ってあるのか。採集方法にコツがあるのかな?
「どういう風に採集したら高品質になるの?」
「おっ、もしかして、お前さんが採ってきてくれるのか?」
ランドさんの目がキラッと輝いた。さてはこれを狙って話してたな?
別にいいけど。これって多分、チェーンミッションの一環だよね。
「うん、僕でいいなら。冒険者ギルドで身分証作ってから行くことになるけど。採り方のコツを教えて」
「もちろんだとも! これを読め!」
「え?」
いきなり分厚い本を渡されました。これなに? 重いんですけどー。
〈チェーンミッション3『ランドからの薬草採集の依頼』が開始しました。【採集のコツ教本】が贈られました。すぐにスキル【採集】に変換されます。——既に入手しているため、経験値が加算されました。【採集】のレベルが2になります〉
お、本を読まなくて良かったみたい。
コツっていうか、採集のスキルが必要ってことね。レベルが上がってお得!
そんで、チェーンミッションをクリアするには薬草を採集してこないといけないってことか。薬草が生えてるのは街の外だし、外に行くには身分証が必要。つまり、冒険者ギルドに行かないとな。
「薬草はどれだけあってもいいからな! もちろん、品質に相応しいお金も払う。冒険者ギルドでの買い取りより色をつけてやるから、たくさん採集してこいよ」
「お金くれるの? わかった、がんばる!」
俄然やる気が湧いてきました。お金って大切だよね。貨幣価値をいまいち理解できてないけど。
「パパとモモ、仲良くなった?」
アリスちゃんが戻ってきた。ニコニコしてる。
「仲良くなったぞー、な?」
「そうだねー」
頷いたら、ランドさんからカードを差し出された。
〈【フレンドカード・薬士ランド】が贈られました。フレンド欄が更新されます〉
フレンド第二号ができました。また
友だちたくさんっていいね! ……リアルもこんなに簡単に友だちできたらいいのに。
******
◯NEWシステム
【はじまりの街の秘密の地図】
通常は侵入できないエリアに入れるようになる地図。入手するとマップが更新される。
◯NEWアイテム
【初級回復薬】レア度☆
体力を5回復する薬。飲んでも、掛けても使える。パーティーの仲間に投げて回復することもできる。
【採集のコツ教本】
【採集】スキルが付与される。すでに当該スキルを持っている場合は、経験値が加算される。アイテムボックスには収納されず、即座に消費される。実際に読むことはできない。
◯NEWフレンド
【薬士ランド】
はじまりの街の冒険者ギルド御用達薬店の主にして、優秀な薬士。一人娘であるアリスを溺愛している。仲良くなると、薬草の採集依頼を出される。
◯スキル変化
【採集】レベル2
アイテムの品質・量が増加する。
◯受諾中ミッション
【チェーンミッション3『ランドからの薬草採集の依頼』】
はじまりの街の薬の在庫がなくなった! 調薬のために薬草が必要だ。たくさん採集してきて納品しよう。採れば採るほど、がっぽり稼げるよ!
******
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます