第3話 異世界観光気分です

飛翔フライ、だと……!?」


 ものすごく惹かれる響き。

 背中でピコピコと動く羽を意識した。


「——それは、もしかして、空を飛べるってこと?」

〈はい。レベル1での滞空時間は十秒です〉

「少なっ!」


 ズッコケた。

 大した距離移動できないじゃん。そりゃ、飛べないよりはいいけどさ。


〈助走なしで飛べるんですよ? 高く上がりすぎると、途中で墜落することになりますが〉

「怖っ!?」


 そっか……十秒過ぎたら否応なく落ちることになるんだ。地面におりるタイミングも考えないといけないから、ちょっと使い道難しいな……。


〈最初の内は、身長の低さをカバーするのに利用するのがいいかと思います〉

「身長? ……あ、そういうことね」


 僕の今の姿、めちゃくちゃ身長低いもんな。人間仕様の環境だと、生活しにくいのかも。ジャンプより飛べた方が楽だろうし。


 でも、もっといい感じのスキルなのかと期待してたのにー。


〈滞空時間はレベルが上がるにつれて長くなります〉

「普段から使って鍛えたら、いい感じになるってこと? 街から街に飛ぶのも夢じゃない?」

〈それは……〉


 すごい困らせちゃった。

 さすがに長過ぎるか。でも、滞空時間が延びるってのは期待持てるね。


「教えてくれてありがと。実際に使って、良い利用法探してみるよ」

〈はい。——それではステータス操作に移ってもよろしいですか?〉

「お願いしまーす」


 答えた途端、ブワンッと半透明の青いプレートが現れた。僕のステータスが表示されてる。


——————


〈ステータス〉

体力:19

魔力:31

物理攻撃力:8

魔力攻撃力:13

防御力:30

器用さ:9

精神力:14

素早さ:10

幸運値:17


——————


〈ギフトポイントを1P使用することで、ステータスを一つ上げられます〉

「残ってるのは4Pだから……」


 弱いところを補強すべきか、それとも強いところをさらに強化すべきか——。

 ……うーん、なんか一桁のステータスあるのが、見た目気持ち悪いから、そっちに割り振ろうかな。あと、普段の攻撃をより高めとこう。


「物理攻撃力に2P、魔力攻撃力に1P、器用さに1P使って」

〈使用しました。ステータスはこちらになります〉


——————


名前:モモ

種族:天兎アンジュラパ

職業:魔術士、錬金術士


〈ステータス〉

体力:19

魔力:31

物理攻撃力:10(2up)

魔力攻撃力:14(1up)

防御力:30

器用さ:10(1up)

精神力:14

素早さ:10

幸運値:17


——————


 うん、いい感じ!

 ゲーム始めてみないと実際の感じはわかんないけど、十分やってけるんじゃないかな。


「これでオッケー」

〈ギフトポイントが0になりました。ギフト授与を終了します〉


 ふわっと体が浮き上がるような心地がした。


「えっ!? なんか、浮いてる?」


 気のせいじゃなかった。ほんとに地面が遠くなってる気がする。真っ白だからわかりにくいけど、ゆっくり上昇してるような。


〈異世界との狭間に滞在できる時間が0になりました。異世界の国イノカンへの転送を開始します〉

「急に!? すごい問答無用だね? もうちょっと色々説明してくれてもいいんじゃ——!」


 叫んでる最中に、一瞬意識が途切れるような感じがした。

 くるりと目の前が回るような感覚。




「——ふわっ!?」


 ざわざわと雑踏の音が押し寄せてくる。鼻をくすぐるのは海と食べ物のにおい。足の下には硬い石の感触。

 柔らかな風を感じて、パチリと瞬きをした。


 すごい。本当に現実世界みたいな感じがする。ちょっとした海外旅行? 街の雰囲気がヨーロッパっぽいから目新しくて楽しい。


「ここが異世界の国イノカンかな? 説明もなく送り込むのはひどいー」


 たぶん港街。

 僕はちょうど船からおりてきた感じに、桟橋で突っ立っていた。

 目の前の看板には【ようこそ。ここはイノカン国の街サク。通称、はじまりの街です】と書かれてる。


「……自分ではじまりの街って言っちゃうんだ」


 ゲームではあるあるだけどね。

 周囲には、僕と同じようにゲームを始めたばかりと思しき人の姿がたくさんあった。


「人間多め? でも、エルフとか獣人とかもそれなりにいるなー。獣人ってすごい種類多いんだ……」


 みんな目や髪の色を弄ってるみたいでカラフル。それ以上に目立つのが、猫系・犬系・うさぎ系などの耳や尻尾がある人たち。

 獣人を選んだら、種類を自由に決められたんだろうね。僕は強制的にうさぎだけど! 人の姿ですらないけど!

 気に入ってるから文句はないよ。ただ注目を浴びるのはなぁ……。


「あれ、モンスターじゃねぇのか」

「プレイヤー表示されてる?」

「え、まんま動物な種族ってあったんだ?」


 ……きゃー、そんなに僕を見ないでー。

 そそくさと街へと歩く。身長低いから、動いてたらあんまり視線を集めないって学べた。みんな足元は見過ごしがちだよね。


 てくてく。

 僕、ちゃんと二足歩行できるんだよ! ……動物みたいに走る方が楽なのかもしれないけど、人としての意識があると、なんかしにくい。プレイヤーだってバレてるのに「あいつ四つん這いで笑」みたいに言われたら嫌だもん。


 視界の端にあるマップの表示を意識したら、街の地図が出てきた。


 道なりに行ったら、冒険者ギルドっていうのがあるらしい。プレイヤーが最初に作れる唯一の身分が、冒険者なんだよ。身分証作ったら、街の外にも行けるっぽい。

 ヘルプもあわせて読んで、事前勉強は完璧!


「つまり、まずは冒険者ギルドに行って、冒険者登録する必要があるんだ。……遠いな」


 周りの人たちがサクサク歩いてく。でも、僕の速度は遅い。だって、体が小さくて一歩で進める距離が短いんだもん。


「ここは、スキルを試してみるべき?」


 周囲をちらちら見て、注目を浴びてないのを確認してから、スキルを選択。使うのはもちろん——。


「……飛翔フライ!」


 ふわっと浮く。背中の羽がはばたくみたいに動いてるけど、絶対それで浮力は生まれてないと思う。だって、羽小さいから。


 なんか念力っぽい感じ? 魔力は消費されてないか、もしかしたら自動回復で賄えるくらいしか消費してないのかも。低燃費なのは良いことです。


 移動するのは、進行方向を意識するだけでいいみたい。すぐに慣れたよ。歩くよりラクでいいねー。でも——。


「ふぎゃっ!」


 落ちました。ズシンッて、お尻から。痛くないけど、精神的に地味なダメージをくらってる!

 さすがの防御力の高さで、実際の体力は減ってないけどね。落ちるって怖いよ。


 滞空時間十秒ってのが、思ってた以上にシビアです。慣れるまで時間かかりそうだな。使わないと上達しないし、ちょっと気合い入れようか!


「よっしゃ、もういっちょ、飛翔フライ!」


 ふよーっと飛んでいく。最初よりスムーズな気がする。

 人並みの上を飛んで、時々屋根や看板で休憩することにした。注目浴びないし、定期的に休めば落ちないし、良いこと尽くしだよ。


「おー、綺麗な街だなー」


 落ち着いて景色を見られるようになった。

 地面を歩いてたら、たくさんの人でほとんど街が見えなかったけど、上から見るとすごい素敵。映画の中みたい。


 オレンジ色の石で作られた街並みと、青い海のコントラストがいい。建物には花も飾られてたから香りを楽しんでみたり、時々二階の住人と目が合って驚かれたり、すべてがワクワクする!


「飛べるってサイコー!」


 たった十秒か、なんて思ってたの、ほんとに謝りたい。飛べるだけで最高の景色を楽しめるんだって、初めて知った。

 スイッと空を泳ぐ感じも気持ちいいしね!



******


現時点でのステータス ()内はレベル


名前:モモ

種族:天兎アンジュラパ(1)

職業:魔術士(1)、錬金術士(1)


〈ステータス〉

体力:19

魔力:31

物理攻撃力:10

魔力攻撃力:14

防御力:30

器用さ:10

精神力:14

素早さ:10

幸運値:17


〈スキル〉

◯オート系

 魔力攻撃力強化、魔術詠唱速度向上、魔力自動回復、体力自動回復


◯戦闘系

 火魔術(1)、水魔術(1)、風魔術(1)、木魔術(1)、土魔術(1)、飛翔フライ(1)


◯収集系

 採集(1)、採掘(1)、釣り(1)、全鑑定(1)


◯生産系

 錬金術基礎


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