第4話 挨拶は大切です
飛ぶのは楽しくなってきたけど、美味しそうなにおいに惹かれても、買いに行けないのはちょっと残念だなー。
突然上から僕がおりてきたら、屋台のおじちゃんもびっくりしちゃうよね? 中身AIだろうから、普通に対応してくれる可能性もワンチャン?
「うっ、買いに行くべきか……?」
お腹が空いた気がする。
このゲーム、ちゃんと空腹機能あるんだよ。ヘルプ見たら【飢餓状態になると体力が急激に減少する】って書いてあった。こわっ。
「最初の所持金は千リョウか。串焼き一本で十リョウって書いてあったから買えるけど、無駄遣いだよね……?」
チラッと見て記憶した値段から、貨幣価値を探る。
リョウっていうのは、ゲーム内でのお金の単位ね。昔の日本の貨幣単位(両)を使ってんのかな?
これから武器とか回復アイテムとか揃えて冒険に出ること考えると、あんまり無駄遣いはできないよねー。あの美味しそうなお肉食べたいけど。ゲーム内での食事がどんな味するのか、すごく気になるけど! 今は我慢……。
「あ、アイテムボックスに【りんご】が入ってた!」
なんか通知来てるなーって思ったら、運営からのプレゼントだったみたい。空腹回復アイテムとしてりんごが五個届いてた。
いきなり飢餓状態でゲームオーバーっていうのはひどいもんね。ありがたい配慮です。
アイテムボックスっていうのは、ゲーム内の物をしまえるやつなんだ。最初は三十種類を各九十九個まで保有できる。ゲーム内でのミッション達成報酬とか、課金とかで拡張できて、最大九十九種類までいけるって、ヘルプに書いてあった。
今のとこ、三十種類で十分だけどね。
商売するとか、たくさんの装備を持つってなったら、足りなくなるんだろうなー。たぶん、どっかで倉庫とかのアイテム預入システムが出てくると思うだけど。
「ま、そんなことはさておき。りんご食べてみよ!」
一旦
アイテムボックスから取り出したりんごを両手で抱える。僕が小さいから、りんごがすっごく大きく見えるね! 食べごたえありそう。
「いただきます!」
かぷっ。シャクシャク。
「——うん、りんご」
まごうことなきりんごの甘さが口の中に広がった。爽やかー。りんご食べたの久しぶりかも。
ステータスの空腹度を確認したら、すでに満腹に近かった。一口しか食べてないんだけど?
「もしかして、体が小さいから、食べる量も少なくて済む……?」
それは良いことなのか、悪いことなのか。
ゲーム内での食事を楽しみにしてたら、すぐに満腹になっちゃうのはガッカリするかも?
僕はそこまで重視してなかったからいいけど。美味しいのを少しでも満足です! というか、食べたい時は、満腹状態でも食べちゃうだろうな。
でも、今は食べなくていいかも。残ったりんごはもったいないけど。これ消えちゃうのかな。それともアイテムボックスに取っておける?
おそるおそる収納してみたら、なんか二枠目に収納された。つまり普通のりんごじゃないって扱いらしい。
「んん? ……【
アイテム名まで変わってる!
説明文を見比べてみてびっくりした。
普通のりんごは【空腹度を10回復する】ってなってるんだけど、【
「僕が食べただけで……まさかの、レアアイテム化……?」
アイテムのレアリティ評価が星一つから三つに変わってる。効果以上にレア度が高い気がするけど、それだけ
野生の
「はは……これ、あんま言わんとこ……」
遠くを眺める。空が青いなー。晴れてて良かった。
……現実逃避はこれくらいにして。
ひょんなことから手に入れたレアアイテムをみつめる。
これが他のプレイヤーにバレたら、ちょうだいってねだられそうだよね。バトル好きな人ほど、空腹度に煩わされないのはメリットに感じるはずだもん。
「逆に考えると、すごい商売できる……? いやいや、でも、食べかけだよ? それを売るってどうよ……」
現実世界の倫理観と『ゲーム内なんだしアリでは?』という思いがせめぎ合う。
……お金に困ったら考えよう。
「よし。さっさと移動!」
気を取り直して
「飛んで~、飛んで~、どこまでも~」
即興で歌いながら、ちょっと長めのジャンプくらいの飛行を繰り返す。そろそろレベル上がらないかなーって思ってるんだけど、その気配がない。必要経験値、鬼高いのでは?
ちょっぴり不満を抱きつつ、冒険者ギルドまでの道を最短距離で進む。道なりに進むより、込み入った路地の上を直線的に進んだ方が早く着きそうなんだよね。
——……ぁ……うわぁん!
「ん? なんか聞こえる。子どもの泣き声みたい」
風に乗って聞こえた微かな声。
それは冒険者ギルドとは違う方から響いてるっぽい。
どうしよう。ゲームなんだから、無視したところで問題はない気がするけど——。
「……子どもの泣き声スルーは、ムズいよ! 良心が痛む!」
トン、と屋根に足をついてから、
勘違いならそれでいいんだよ。冒険者ギルドに着くのが遅れるだけだからね。待たせてる相手がいるわけじゃないし。
「泣いてる子はどこかなー?」
耳をそばだて、意識を集中。途端に、様々な音が襲いかかってくるみたいに溢れて、
「うわっ!?」
かろうじて近くの屋根に着地できたけど、心臓がバクバクしてる。今のなに? なんで急に音がおっきくなったの?
耳に触れて気づいた。
今の僕って、たぶんうさぎをモデルにした生き物じゃん。ということは、めちゃくちゃ聴覚がいい可能性高いんじゃない? 意識集中したら、さらに感度が高まるんでは?
さっきみたいに声を聞こうと集中してみる。
「——あ、すごい。いろんな音が聞こえる……」
音の大きさにびびったけど、何度か繰り返したら調整できるようになった。おかげで、声の主の場所もはっきりわかったよ。
「待って、スキルはえてる……」
何気なく確認したステータスのスキル欄に、燦然と輝く【NEW】の文字。スキル名は【聴覚鋭敏】だった。
スキルって、こんな感じで入手できるんだね……。便利だからいいんだけど、この調子でいったら、とんでもない数のスキルになるんじゃない? 僕、使いこなせる自信ないよ。
「いや、今はそれより、女の子の声!」
声の主の性別までわかったんだ。女の子がこの先で泣いてるの。可哀想だから、早くどうにかしてあげないと。僕になにができるかわかんないけど。
再び
「——あ、いた!」
住宅街の一画にあった小さな公園。
茶髪の女の子——たぶん五歳くらいの子が、一本の木の下で泣いてる。
さて、どう声をかけよう……?
「うぇーん、にゃんちゃん……」
「にゃんちゃん?」
地面におりて、ちょこちょこと近づいたところで聞こえた言葉。
思わず木の上を見上げたら、細い枝のところに白毛の子猫がいる。赤い首輪をしてるから、飼い猫っぽい。たぶんこの女の子が飼い主なんだ。
「——木に登って、おりられなくなっちゃった?」
「ふぇっ?」
涙で濡れた顔が振り返った。僕を見て目を丸くしてる。驚いたことで涙が止まったのは良かった。
「こんにちはー、僕、モモだよ!」
とりあえず明るく挨拶してみた。お手て上げてふりふり。
気分はテーマパークのマスコットキャラクター(きぐるみ)です! 愛想振りまいて仲良くなるぞー!
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◯NEWスキル
【聴覚鋭敏】
意識を聴覚に集中すると、感度が十倍になる。音の聞き分けも可能。
◯NEWアイテム
【りんご】レア度☆
空腹度を10回復する。
【
空腹度を7回復する。一時間、空腹になりにくくなる。
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