11-ヒャッホー(鳴き声)
「分かりましたわ!!!」
祁答院が叫んだ。
「うるっさ……どうされたの?」
思わず本音が出た。声量のコントロールくらいして欲しいものだ。
「私、絶対勝てる勝負を思いつきましたわー!!!」
とても嬉しそうに、おめでたい頭の女は叫ぶ。
「夢乃さん、行きましょうか」
こういうのは関わらないに限る。いや本当に。
「待ちなさい龍造寺 朱音!!!」
肩をガシッと掴まれる。
力強いわねコイツ……
「……何か用でも?」
ジトッとした目で
「大食い勝負をいたしましょう!!!」
「嫌よ、馬鹿らしい」
食べれる量を競うなんてはしたないしあまりに愚かだ。それに、私は割と食べても太らない質だがそれでも食べ過ぎで体形が崩れるのは嫌だ。
「というわけでさっき買ったのと同じ種類と数のパンをくださいな!!!」
購買でパンを買い込む祁答院。
「やらないと言っているでしょう」
「さっきはそちらの土俵で戦ったのだもの、今度はこっちの番ですわ!!!」
「いや、それだって貴方が言い出したことでしょう……? 私が応じる義理はどこにもないのだけれど……」
頭が悪いにもほどがある。
「だって、たまには勝ちたいですわ!!!」
駄々っ子のように言う祁答院。
「……」
呆れてものも言えないとはこの事か。私の目の前に立っているのは本当に高校生か? いや、体の方は逆の方向に高校生離れしているのだが。
「お願いですわ!!! 負けたらもう勝負は挑みませんから!!!」
私に泣きつく祁答院。
動くはずはないが、耳がピクリと動いた気がした。なんとかして勝てないだろうか。この女から勝負を挑まれないだけで学校生活は大分気楽になる。まあ、飽くまで約束するだけなので破られれば意味はないのだが。ここはこの女にもそれくらいはできると信じることにしよう。
だがしかし、私は少食だ。勝てる気はしない。どうしたものか……そうだ
「祁答院さん。その勝負、条件によっては受けても構わないわ」
一案、もしかしたら勝てるかもしれないアイディアが浮かんだ。
「ほ、本当ですの!?」
「ええ。大食い勝負だけれど、少食の私が負けるのは火を見るより明らか。そんな勝負はできないわ。だから、代理人を立ててもいいかしら? 当然、私の身近な人物よ」
これで行こう。ダメで元々。了承を得られれば御の字だ。
「代理人……代わりに戦う人を用意するという事ですの?」
「ええ。駄目かしら?」
「いいですわよ!!!
よし、乗ってきた。
「良かった。勝負は放課後でいいかしら? そうね……近くにハンバーガーショップがあったはず。放課後、ハンバーガーショップにて勝負というのはどう?」
「分かりましたわ!!! そうなるとコレは勝負には使わない……」
抱えた大量のパンを見つめる祁答院。
食べ物を粗末にするのはあまり好きじゃない。捨てると言い出したらどうしようか。
「まあいいですわ!!! 放課後、覚悟しておきなさい龍造寺 朱音!!!」
ヒャッホー!!!と奇声をあげながらこの場を立ち去る祁答院。
やはり頭のネジがどこか外れているのではなかろうか。まあいい。
「夢乃さん、私少し電話をしてくるわ。先に教室へ戻っていて」
「分かったー。後でねー!」
夢乃さんに手を振り、校内の通話可能スペースまで急いで向かい、とある人物に連絡を取った。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「良かったね、小テストいい点取れて!」
教室に戻ると、幸恵さんと夢乃さんが小テストの話題で盛り上がっていた。
「お待たせ。……ってあら? まだ食べていなかったの?」
机の上には蓋の閉まった弁当箱と、袋も開けていないパンがあった。
「ご飯は皆で食べた方が美味しいから、待ってたんだ。食べよっか?」
幸恵さんがにっこりと言う。
やはり幸恵さんはいい友人だ。
「いただきます」
それぞれ手を合わせて食事に手を付ける。
「ところで朱音ちゃん、祁答院さんと大食い勝負するんだって?」
幸恵さんが聞いてくる。噂が広まるのは早いものだ。
「ええ、まあ。勝負するのは私自身ではないけれど」
「そうなんだ。祁答院さん、相当な大食いだけど、勝てる見込みはあるの?」
「そうね……彼女ならもしかしたら、って感じかしら。まあ、ダメで元々よね。でもまあ、勝てばこれ以上勝負をしかけないというのだから、応じないわけにはいかないわ」
代理人の普段の食事風景を思い浮かべながら答える。ああ見えて結構食べるのだ。
「……ふうん」
少し間をおいて幸恵さんは言う。
「ってあれ? もうこんな時間! 急いで食べなくちゃ!」
その後、時計を見て、慌てた声をあげる幸恵さん。見ると、昼休みが終わる10分前だった。確かに急がねばならない。
三人で急いで昼食をとった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
HRが終わり、放課後になった。祁答院はHRが終わってすぐに私の机の前にやってくる。
「さあ!!! 勝負の時間ですわ龍造寺 朱音!!!」
相変わらず声が大きい。
「そうね、行きましょうか」
荷物をまとめ、席を立ちあがる。
「ねえ、私たちも見に行ってもいいかな?」
幸恵さんが聞いてくる。見ると、夢乃さんも鞄を持って待機している。
「それは構わないけれど……そんなに見ていて楽しいものではないと思うわよ?」
「いいのいいの! 楽しいかどうかは私たちが決めるんだから!」
夢乃さんが元気に言う。
「分かったわ。ところで祁答院さん? 負けたらもう勝負は挑まないと言ったあの言葉、二言はないわね?」
「勿論ですわ!!! 気高き祁答院の名に誓いましょう!!! だって、負けるはずないですもの!!!」
おーっほっほほ!!!と高らかに笑う祁答院。
よし。後は代理人の健闘を祈るばかりだ。
4人で校門に向かう。前の道路には既にいつも私が乗っている車と、祁答院のものらしき高級車が停まっていた。
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