8-ドMに罰を与えるのは難しい
「恵は土曜日まで謹慎。別館で一人で過ごしなさい」
「ど、どうか、どうかお慈悲をー!」
グチャグチャの顔で言う恵。とても嗜虐心がくすぐられる。
「いいえこれは決定事項。変わらないわ。分かったらさっさと別宅に移動なさい」
「ううー……お嬢様と4日も会えないなんて……辛い……辛すぎる……」
恵はべそをかきながら部屋を後にした。
「さて、じゃあこれからしばらくよろしくね。瞳」
瞳の方に目を移す。
「ええ、ええ! バッチ来いですよー! お金さえもらえれば、なんでもやりますとも! あ、報酬の事を聞いても?」
サムズアップで答え、その後親指と人差し指で輪を作る瞳。
瞳はこういう俗なところがあるが、たまに目にする分には日常のいいスパイスだ。瞳も、分かっているのかたまにしかしない。
「日給20万でどうかしら」
今回は4日と短いのでいつもより控えめだ。急に呼び出して私が起きている間ずっと働けと言うのだから、期間が長いほど報酬は多くすることにしている。今回のこれは、安いだろうか。別に、これが倍になろうが3倍になろうがそう変わりはしないのだが、あまりインフレし過ぎても困るので、いい具合の値段を探っているというのが正直なところだ。
「全然大丈夫、オッケーです!」
華のような笑顔で答える瞳。少なくとも足りないわけではないらしくて良かった。
「じゃあ、着替えてきてくれるかしら?」
流石にライダースーツのまま給仕されるのは困る。
「はい分かりました! 超特急で着替えてきますねー!」
言うや否や、全速で部屋を後にする瞳。
「ええ、気を付けて」
あの瞳だ、こんな言葉を言わずとも、最速で最上の結果をもたらすのは知っているが、社交辞令的に口にした。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「おー待たせしましたお嬢様ー! さあ、なんでも仰ってください!」
3分と経たないうちに瞳はメイド服に身を包んで帰ってきた。瞳の着るメイド服は、恵の着る丈の短いメイド服とは対照的に、ロングのメイド服。双子ということもあり、分かりやすいように分けている。着るのが面倒であろうこの服に、この時間でキッチリ身だしなみよく着替えてくるのは流石と言わざるを得ない。
「そうね、とりあえず食事を用意してくれるかしら?」
「そうですね、もう夕食の時間ですね! 任せてください!」
正直な話、瞳は大抵の分野で恵に勝る。それでも普段恵を傍に置いているのは恵の忠誠心故だ。そして、料理は数少ない恵が瞳に勝る分野だ。瞳の料理も高等だが、恵のそれは更に上を行く。だが、上品で整った料理が常に最高かと言えば、そうでもないのが料理という分野の難しいところ。恵は人工調味料等は殆ど使用せず、伝統的な料理をするのが常だが、瞳はそうではない。人工調味料も沢山使うし、楽をできるところは楽をする。瞳曰く、『美味しければいいんですよ!』とのことだ。私も部分的に同じ意見だ。常食するとなると別だが、普段恵の伝統的な料理を食べている身としては、たまには俗っぽいものを食べたくなる時もある。恵には悪いが、今日から数日間は俗な料理を楽しむとしよう。
「できましたよー! 海鮮炒飯です!」
瞳が料理という分野で間違いなく恵に勝るところと言えば、それは調理速度だろう。瞳は最速で最高をモットーにしているだけあり、本当にちゃんと料理をしているのか疑いたくなるほど、調理が早い。聞くと、様々な時短テクニックがあるとのこと。流石に冷凍食品等は使っていないという。
「じゃあ、いただきましょうか」
瞳も席に着き、一緒に手を合わせる。やはり食事は誰かと共にするのがいい。一人で食べる食事は、それだけで美味しさが半減する気がする。昼食だって、本当は誰かと一緒に頂きたいものだ。
一口、炒飯を頬張る。うん。たまにはこういうのもいい。
しかし、佐仁田への罰はどうしようか。アレのドMっぷりは常軌を逸している。何をしても悦びそうだ。
なんて、考えていると瞳が声をかけてくる。
「お嬢さま、どうされたんですか? そんなに難しい顔をして」
「いえ、佐仁田への罰をどうしようか悩んでいて。今回は自ら状況を面倒にした訳だし、キツいのをお見舞いしてやりたいのだけれど、何をしても悦びそうでね……」
「あー、あのドMですか。どうしましょうかね。お姉ちゃんみたいに放置、っていうのがいいのでしょうか……」
「私もストレス発散したいし、それは避けたいのよね……」
恵を謹慎にした今、佐仁田まで放置するとなると、私が手持無沙汰になってしまう。
「ふうむ……じゃあいっそのこと、限界まで痛めつけるとか?」
人差し指を立てて、瞳は提案する。
「いい考えだけど……アレの体力が尽きる前に私が疲れ果てそう」
改造スタンガンを耐えるのだ。相当だろう。
「でしたら、お手伝いしましょうか?」
瞳が申し出る。
「いいわね。そうしましょうか」
とてもいい考えだ。瞳は恵と同じく私の護衛のために武術を学んでおり、私に比べたらよっぽど体力がある。流石に佐仁田程ではないだろうが、攻める側としては十分だろう。
「じゃあ準備をしなきゃですね。とりあえずムチ、蝋燭辺りは用意するとして……後は何にしましょうか?」
「手錠と目隠しとかも用意しましょうか。後はそうね……縄とかも要るかしら」
「拘束具ですね! 準備しておきます」
「ふふん、アレが帰ってくるのが俄然楽しみになってきたわね」
思わず笑みが漏れる。
「おや珍しい。お嬢様がそんなに笑うなんて」
「そうかもね。今日はアレのせいでかなり苛ついたから。仕返しができると思うと笑みだってこぼれるわ」
「まあ、あの変態に教師面されたらそれは相当イライラするでしょうねー」
うんうん、と頷く瞳。
「さてと。アレが帰ってくるまで部屋で勉強でもしようかしら」
日々努力は怠らない。所有物の世話の時間もあるのだ、無駄にしていい時間はない。
「私はいた方がいいですか?」
瞳が専属の家庭教師らしく聞いてくる。
「いえ、大丈夫。分からないことがあったら呼ぶわ。まあ、復習をする予定だから、問題ない思うけれど。それより恵に料理を運んでやって」
「分かりました! では何かあれば携帯で連絡を」
そう言うと瞳は料理をお盆に乗せて部屋を去った。
◇◆◇◆◇◆◇◆
ピロン
部屋で勉強をしていると、携帯が鳴る。
瞳からだ。どうやら佐仁田が帰ったらしい。
「ううん……さて、行こうかしら」
部屋を出て、階段を下り、モノを用意した部屋へ向かう。
部屋に入ると、既に佐仁田と瞳は到着していた。
「遅かったじゃない。主人を待たせるなんて、悪い豚ね」
「申し訳ありません、女王様」
瞬時に土下座の姿勢をとる佐仁田。いい反応速度だ。
「学校では人気だったじゃない。どんな気持ちだったの?」
佐仁田の頭を軽く踏みつけながら問う。
「私の心はいつでも女王様のものです!」
「嘘。貴方、胸派だなんて叫んで、白い眼で見られることを愉しんでいたでしょう?」
踏みつけを徐々に強くしながら問い詰める。
「ああっ! そう、ですね! あの瞬間はそうでした! すいません!」
「全く……罰として今日は限界まで貴方を痛めつけるわ。覚悟はできていて?」
「は、はい! 有難き幸せです!」
「罰だと言っているでしょう! 反省なさい!」
踏みつけた足を離してこめかみを蹴り飛ばす。
「ぬっふぅ! すいませんでした!」
「じゃあまずは……そうね。佐仁田、服を脱ぎなさい」
「分かりました!」
いそいそと服を脱ぎ、下着のみになる佐仁田。
「じゃあ瞳。佐仁田の手を縛って上部で固定して」
「了解しました」
私に踏みつけられて悦ぶ佐仁田を冷たい眼で見ていた瞳は静かに答え、佐仁田の手を縛り始める。
「さてと、まずはムチからかしら。今日はバラムチなんて甘いものじゃないわ。一本鞭よ」
長く黒光りする鞭を構える。背中しか見えないが、佐仁田が興奮しているのが伝わってくる。
「そうれっ!」
長い鞭を振るう。振り方は以前瞳に習ったが、実際に人に振るうのは実は初めてだ。流石に恵に振るう気にはならない。
「ああっ!」
佐仁田が喘ぐ。
「ほらっ! そらっ! 啼きなさい、この変態!」
二回、三回、次々と鞭を振るう。元から古傷だらけの佐仁田の背中が新しい傷で埋まっていく。
「くぅっ! ありがとうございます! ありがとうございます!」
今までで一番嬉しそうな声で言う佐仁田。相変わらずのドMっぷりだ。
「反省しなさいと、言っているでしょう!」
更に二度、三度。鞭を振るう。
「あぐぁっ! すみませんでした! 醜く愚かな私めに、どうかもっと罰を!」
佐仁田は嬉しそうな声で啼いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます