3-息の合った変態

リビングにて、下着姿で正座する六浦。上裸のままの佐仁田。そして私はというと腕を組んで冷たい眼で六浦を見下ろす。


「ほんっっっとーーーに申し訳ありませんでした!!!」


土下座をする六浦。


「流石にもう隠し持っていないわね……全くどうしてやろうかしら……」


あまりの怒りで眉がピクピクと動くのが分かる。


「変態には相応の罰が必要かと」


上裸のまま腰に手を当てて言う佐仁田。


「貴方には聞いてないわ!」


「ああんっ!」


かなり強めに佐仁田の尻を蹴る。


全く偉そうな下僕だ。


「そうね……決めたわ」


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


下着姿のままリビングにて縛られて平吊りで吊るされる六浦。


「いい光景だわ。これでしばらく反省なさい。さて、私は部屋で読書でもしようかしら。気が変わったら降ろしに来るわ。早く私の気が変わるのを願う事ね」


「あぁん! はいっ、反省しますぅ!」


そう言うと部屋を後にする朱音。


「緊縛、いいですねぇ。羨ましいなぁ」


顎に手を当てながら言う佐仁田。


「……」


ツンとそっぽを向き無視する六浦。


「ところで……私は女王様にシャワーを浴びるよう命じられているのですが……」


「……それでしたら、西棟の浴室へどうぞ。今いる東棟の浴室はお嬢様専用のものと洗濯場を兼ねているものしかありませんので。来客用のものを駄犬に使わせるのは癪ですが……」


「西棟ですね。分かりました」


言った後、部屋を立ち去る佐仁田。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


西棟と書かれた札の前で立ち尽くす佐仁田。


「西棟まではなんとか辿り着けましたが……広いですね、この屋敷。正直どこが浴場なのやらさっぱりです。彼女に聞きに帰るとしましょうか」


クルッとUターンする。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


「六浦さん」


リビングのドアを開け声をかける佐仁田。


「……」


何も聞こえなかったかのように無反応の六浦。


「……六浦さん、浴室がどこにあるか分からないのですが、教えていただけませんか?」


「……」


無視を続ける六浦。


「六浦さーん?」


六浦のお腹をぷにぷにする佐仁田。


「あーもうっ! お嬢様から与えられた罰を楽しんでいるいるところなんです、邪魔しないでくださいこの駄犬!」


「私だって女王様に命じられた命令をこなしたいんです!」


ぷにぷにし続ける佐仁田。


「お腹を触らないでくださいこの駄犬! ……はぁ。東棟から西棟へ着いたらそのまま真っすぐ進み、突き当りを左です」


「ありがとうございます。行ってきます」


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


廊下に立つ佐仁田。


「突き当りを左、に行くと……廊下ですね」


左手に続く廊下を見つめながら顎に手を当てて考える佐仁田。


「参りました。勝手に他の部屋を開けるわけにもいかないですし……もう一度戻りますか」


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


佐仁田「六浦さん。何か間違えたらしく、浴室へ辿り着けませんでした」


「……じゃあいっそもうそのままでいいんじゃないんですか?」


軽蔑した目で言う六浦。


「それは困ります! 汗臭いと罵られるのはそりゃあ魅力的ですが、女王様の命令は絶対! シャワーを浴びろと言われたからには例え砂漠にいようとも飲み水を使ってシャワーを浴びる覚悟です!」


「お嬢様の言葉が絶対なんてことは当たり前じゃないですか。罵られるのが魅力的とかちょっと……いやかなりキモいです。この変態」


「変態はそちらでは? 縛られて喜んでいるくせに」


バチバチと睨み合う二人。


ガチャ


その時、扉が開く。


「空腹だわ。六浦、降ろすから夕飯を―――って……貴方たち、何をしているの?」


朱音が不思議そうな表情で言う。


「お嬢様! この駄犬が浴室に辿り着けないと言って何度も道順を聞きに来てですね……」


「申し訳ありません女王様! 浴室まで辿り着けず、ご命令を実行できませんでした!」


そのまま回転するのではないかという勢いで頭を下げる佐仁田。


「……意外とダメな所あるのね、佐仁田。いいわ、佐仁田。六浦を降ろしなさい。六浦は降ろされたら全速で佐仁田を案内してから夕飯を。いいわね?」


呆れた声色でそれぞれに命令をする朱音。


「「畏まりました!」」


息ピッタリで言う二人。


「……何を合わせているんですかこの駄犬。早く降ろしてください」


「そちらが合わせたんでしょう? 全く、あんな変態行為をして反省の色なしですか」


渋々といった表情で六浦を降ろす佐仁田。


「痛い! もっと丁寧に降ろして下さい!」


「痛いのがお好きなのでは?」


「お嬢様から与えられる痛みが好きなだけです! 誰でもいい駄犬と一緒にしないでください!」


「……」


口論する二人をジトッとした目で見つめる朱音。


「は・や・く」


一言、朱音が発する。


「はっ、はい!」


「すみませんお嬢様!」


先程までとは打って変わってテキパキと縄を外していく佐仁田。


「終わりました!」


「駄犬、付いてきなさい!」


縄を解かれた瞬間、服を着ることもせずに部屋を飛び出す六浦。一瞬遅れて佐仁田が付いて行く。


「優雅とは程遠いわね」


朱音がボソッと呟いた。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


シャワーを浴びた佐仁田と向かい合わせで座り、料理を待つ。すぐに六浦がダイニングキッチンから現れる。


大きな調理室もあるにはあるのだが、基本的にこの屋敷にいるのは私と六浦のみ。面倒なのでこの形にしている。


「さて、できました。今日は茄子のペンネ・アラビアータです。他には―――」


メイド服をしっかり着こなして料理の名前を言いながら丁寧に配膳する六浦。先程と違い、今は優雅という言葉が似合う。


「頂きます。……うん、流石ね」


ペンネを一口口に運び、頷く。唐辛子がいい具合に効いていて、とても美味しい。流石は私のメイドの作った料理だ。


「女王様、私は床でもいいのですが……」


戸惑った顔をしながら目の前のパスタに視線を落とす佐仁田。


「ダメよ、はしたない。貴方は私の所有物。所有物の食事が下品なのは私嫌いなの」


「な、なるほど……そういうことなら、頂きます」


しっかりと手を合わせて食事を始める佐仁田。なんだかんだそこそこ育ちがいいのが見え隠れする。


「か、辛い……いいですね、この痛み……!」


顔を苦悶と悦びの混じった複雑な色に染めて言う佐仁田。


「そうかしら? 辛さ控えめよね、六浦?」


「ええ。今日は茄子の味をしっかり味わうためにそこまで香辛料は入れませんでしたが……」


少し前に席に座って食事を始めていた六浦が答える。


「私、どうも辛みに弱くてですね……いえ、その痛みが好きなのでむしろ辛い料理は好きなのですが」


汗をかきながら佐仁田が言う。


……少し、気に入らない。


「そうなのね。六浦、次からは佐仁田の分は甘口にするように」


「分かりました」


「な、何故です? 遠慮なく唐辛子を大量に投入してくれて構いませんよ!? というかしてください!」


佐仁田が慌てた様子で言う。


「だって……いや、貴方に言う必要はないわ」


佐仁田が私以外から与えられた痛みで悶えるのはなんだか……気に入らない。こんなことを言うのは少し照れくさいので口にはしないが。まるでその辺の乙女のような嫉妬だし。


「しかし……」


尚も口を開く佐仁田。


「口を閉じなさい下僕。私が聞かなくていいと言ったら聞かなくていいの」


「わ、分かりました……」


若干しょぼくれた顔で頷く佐仁田。


「さてと、ご馳走様。さてと……そろそろ時間かしらね」


時計を見て呟く。そろそろ彼女が来る時間だ。


「……そうですね。はぁ、嫌だなぁ」


ため息をつく六浦。実の妹だというのにこのメイド、六浦 恵めぐみは彼女が来るのは嫌らしい。


「何かあるのですか?」


佐仁田が聞く。


「ええ。私、学校の勉強とは別に家庭教師がついていてね。ま、所謂帝王学の授業よ」


「退席していた方がよろしいですか?」


恐る恐る、といった風に佐仁田が言う。


「ああ、いてもいいわよ別に。むしろ、丁度いいし紹介するからいて頂戴。信用できる人物だから」


「なるほど、分かりました」


佐仁田が頷くと同時に、


ピンポーン


インターフォンが鳴った。

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