2-変態はすぐそこに

高級そうな調度品の並ぶ大きなテーブルのある部屋。祖父の会社の応接間だ。頑固そうな初老の男、龍造寺 昇蔵しょうぞう。私の祖父だ。が片側に、もう片側に私と佐仁田が座り、六浦が隣に控える。


「お爺様、私には浩一さんしかいません! 何を言われても変えません!」


祖父の目をしっかりと見据えはっきりと言う。


祖父は白く長い顎髭を撫でながら答える。


「ふむ……朱音の意思は分かった。だが儂が相応しいと判断しなければ許可はできんな。小僧、お前に朱音を幸せにする自身はあるのか?」


「はい、もちろんです!」


即答する佐仁田。この即答はいい即答だ。


「ふん、口では何とでもいえる。経歴は見た。先月までの経歴はまあまあだな。及第点をやろう。だが勤めていた会社を辞めた理由は? 何故辞めた?」


「朱音さんとお見合いをしたので。折角なら朱音さんの傍で、支えてあげたいと思ったので転職のために辞めました」


元々龍造寺グループとは別の系列で働いていたのだ。丁度いい口実だ。


「ほう……なるほどな、ならばいいだろう」


「なら……!」


私はすかさず身を乗り出す。チャンスには素早く動け。他でもないこの祖父の言葉だ。


「だが結婚の許可を与えるまでには至らん。昨日の話は聞いた。そこは評価しよう。とりあえず我がグループの末端で働け。経歴などいくらでも詐称できる。実際に働いて功績を挙げよ」


「任せてください。必ずや、お役に立って見せましょう」


これが嘘にならない辺りがこのドMの優秀なところだ。


「時に朱音」


私の方を見て祖父は言う。


「なんでしょう、お爺様」


姿勢よく答える。


「この男に決めたと言ったな。決め手を言ってみよ」


「少し前にお見合いを行った際の事です。流石はお爺様の集めた方々、それはそれは優秀な方々ばかりでした。しかし、彼らは私の財産や血統ばかりを見ていて、私自身には微塵も興味が無かったのです。しかし浩一さんは違った。ちゃんと、私自身と向き合ってくれた。話してくれた。それが、決め手です」


これは事実だ。誰も彼も、私の持つ財産、立場、血筋を見るばかりで誰も私自身に興味など無かった。


「……分かった。儂も忙しいのでな。今日はここまでにする」


納得したともしてないともとれない曖昧な表情で祖父は頷く。


「では、失礼します」


立ち上がり、一礼をする。


「失礼します」


佐仁田も同じように礼をして三人で部屋を立ち去る。


一人になった昇蔵は額に手を当てる。


「ッハァー……儂の孫娘、可愛すぎ」


そして立ち上がり、本棚から一冊本をのける。その裏には隠しカメラが。


「美人も美人、大美人。ハァー……結婚させたくない……」


カメラの画像を確認しながら呟く昇蔵。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


見慣れた景色の中から見慣れた屋敷が見えてくる。屋敷の前に車を停め、六浦が先に降りて後部ドアを開ける。


「ようやく肩の力が抜けるわ」


車を降りつつふう、と息をつく。


「佐仁田。よくやったわ、褒めてあげる。頑固なお爺様から末端とはいえ職を与えられるなんて、大したものよ。何か褒美をあげなくちゃいけないわね」


屋敷の中に入りながら言う。


「とりあえず……そうね、そこに跪きなさい」


靴を脱いでリビングに入り、私は言う。佐仁田は言われるがままに膝をつく。静かに佐仁田に近づく。

そして、佐仁田の首筋を舐めて、耳元で囁く。


「私、お爺様との会話で貴方しかいない、って言ったでしょう? アレはね、本心からの言葉。私は貴方が大好き。貴方しかいない。執着と言っても差し支えないわ」


そう言った後、靴下を脱ぎ、ソファに座り、足を組む。


「貴方はどう? 私の事が好き? Noとは言わせないわ。忠誠を誓って」


「忠誠……」


佐仁田はゴクリと喉を鳴らす。


「そう、忠誠。誓うなら、ここにキスをして」


足の裏を佐仁田の目の前に突き出す。


「私は……これまで特定の女性に特別な感情を抱いたことはありませんでした。そんな時、貴方とのお見合いの話が来て。正直、行ったのは仕事の関係で仕方なくでした。ですがそこで会った貴方は魅力的だった」


静かに私の足の裏にキスをする佐仁田。


「素晴らしい。これで貴方は私の所有物。貴方は私のいう事を何でも聞く。いいわね?」


「もちろんです!」


「返事は『はい』以外あり得ないの。返事は?」


佐仁田の顎を軽く蹴りながら言う。


「はい!」


嬉しそうに言う佐仁田。


「ズルい……私もお嬢様のモノなのに……」


いつの間にか後ろにいた六浦が不服そうな顔で呟く。


「我儘な子は嫌いよ。それに昨日約束したもの。所有物との約束とはいえ約束を破る女にはなりたくないの」


「……では私は家事をしてきますので、ご用がありましたらいつも通り携帯でご連絡ください」


渋々といった表情で言う六浦。


「ええ、助かるわ」


「では、失礼します」


退室する六浦。


「さて……どういたぶろうかしら」


自然に口角が吊り上がるのを感じながら私は佐仁田をどう料理するか考えた。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


目隠しをされて四つん這いになった上裸で汗まみれの佐仁田。その体には大量のバラ鞭の跡が。


そう、ひとまずバラ鞭で叩くことにした。


「ふぅ。中々いい声で鳴くわね。でも疲れたわ。今日はおしまい。汗で汚いし、シャワーでも浴びてきなさい。不潔な豚は嫌いよ」


目隠しを外しながら言う。腕も疲れてきたし、何より飽きてしまった。


「はい、女王様! ……場所を教えてもらってもいいでしょうか?」


「……」


「アヒィン!」


無言でバラ鞭を振るう。


「失礼。豚に口答えされて少々苛立ってしまったわ。でも知らないことは仕方ないものね。そこのドアを出て右の突き当りよ。左側は私専用だから決して入らないように。入ったら貴方の事は捨てるわ」


「はい!」


佐仁田が返事をして部屋を出る。従順すぎるのも考え物だ。面白みに欠ける。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


廊下を歩く佐仁田。


指示された通りの扉へ着き、それを開けると、


「……あ」


女物のパンツを被った六浦がいた。


「へ、変態だああああああああああ!」


逃げ出す佐仁田。


「し、失礼な! 変態はそちらでしょうこの駄犬!」


追いかける六浦。


「貴方たち、騒がしいわ―――ってソレは!?」


騒ぎを聞いて部屋から出てくる朱音。そして六浦の姿を見て赤くなる。


「む、六浦、何をやっているの! とりあえずソレは隠しなさい! この豚に見せていいものではないわ!」


耳まで真っ赤にしながら言う朱音。


「お、お、お、お嬢様!? す、すみません! えっと、えっと……」」


慌ててポケットにパンツを仕舞おうとする六浦。しかし慌てたせいで逆に中の物が出てくる。六浦のポケットからは更に大量のパンツが。


「む、六浦ーー!!!」

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