第9話 一年四組の自己紹介

 日差しが傾き、橙色の光が窓から寮の中に差し込んでくる。

 白坂菖蒲はラウンジの椅子に腰を沈め、大きく息を吐いた。


「ふう……」

「お疲れですね白坂先生」


 水城杏樹が労わるように声をかけた。


「安堵と不安が半々といったところですか。状況は悪くないと思いますよ」

「まさかクランを一から立ち上げることになるなんて……」


 自分たちで組織を立ち上げ、悪意から身を守る。言葉にすると簡単だった。しかし、《青嵐》の支援があっても楽でないことは理解していた。


 菖蒲の対面に座っていた杏樹の友人が言った。


「そういえば組織を立ち上げるなら代表者が必要よね? 誰がなるの?」

「まあ、先生でいいんじゃないかな。反対する人もいないでしょ」


 窓際に立っている帆足歩が、菖蒲の顔を見た。

 菖蒲は迷う素振りを見せる。


「他にやりたい方がいればお譲りしますが……」

「いやあ、いないでしょ多分」

「そうですね。私も先生が良いと思います。とはいえ任せきりにするつもりはありませんから、手伝えることがあれば遠慮なく声をかけてください」

「分かりました。私で良ければ最善を尽くしましょう」


 教え子たちの期待を浴びた菖蒲は、決心するように頷いた。


「クラン設立までに必要な手続はいろいろありますが、スキルの鍛錬は数日中に始められるそうです。ミラさんが女子を、リオさんが男子を担当してくれると仰っていました」

「ミラさんが担当じゃないのか……」


 杏樹が言うと、男子生徒の一人ががっかりした調子で言った。大人びた雰囲気と逞しさを併せ持つミラ・バルトハイムは、一部の男子から人気を集めていた。


「ああ、そうだ。それで一つ忘れていたことが……」


 菖蒲が何か言いかけたその時、陶山千紘がラウンジへ現れた。


「夕食ができたよ。食堂に集まってくれ」


 彼女の呼びかけに応じ、寮内の生徒は食堂に集まった。

 朝食と違い、夕食は手の込んだ料理が供された。《青嵐》と取引が締結された直後に、リオが主導して食材を寮まで運搬してきたのだ。船の件といい彼は縁の下の力持ちという言葉がよく似合う男だった。


 菖蒲は全員が着席していることを確認すると話し始める。


「さて、今日はスキルの判定やクラン設立の話など、今後を考えさせられる出来事がありました。まずは一歩前進とみていいでしょう。方針が定まったのは悪くないと思います」


 その言葉に永遠も含めほとんどの生徒が同意した。見知らぬ土地で放り出されるより遙かにましな状況だ。一定の信用が置ける現地協力者の存在は、彼らにとって有難かった。


 菖蒲は咳払いした。


「それでですね。これからここにいる皆で地球に帰還するため手を取り合って頑張るわけですが……」

「何か問題があるんですか?」


 言いにくそうな菖蒲の様子に、杏樹が表情を曇らせた。


「いえ、そうではなくてですね……いろいろあってすっかり忘れていたことがあって」

「……何かあったっけ?」


 歩は真剣に悩むが、何も思いつかなかった。


 菖蒲は叫んだ。


「自己紹介ですよ、自己紹介! 本当なら二日目から始まるオリエンテーションの間に実施する予定だったんですが、こんな状況になって先延ばしになっていたんです」

「あー、そういえば忘れてたね」


 何事かと身構えていた生徒たちは一気に体の力を抜いた。深刻な話題でなくて良かったとほっとしたのだ。


「というわけで、この機会にやってしまいましょう。まだ話したことのないクラスメイトがいるという人も多いでしょう。どんな人がいるのか知っておくのは大切ですよ」

「そうですね。生死を共にする仲間のことですから知らないままじゃ駄目です」


 “生死を共にする”という言葉を聴いて永遠は緊張で身体が引き締まった。彼にとってクラスメイトは生死を共にするだけでなく、自らの生死を左右する存在だったからだ。

 絆という言葉が具体的に何を指すのか彼にはまだ分からない。だが、クラスメイトを知ることが避けてはならない壁であることは確かだった。

 永遠は意識してもう一度身を引き締めた。クラスメイトの発する言葉や表情を余すことなく捉えようという意思の表れだった。


「では出席番号順にいきましょう。簡単な自己アピールを付け足しても構いませんよ」




【一番 淡路あわじ祐希ゆうき


「……淡路祐希」


 地味な印象を漂わせるおかっぱ頭の淡路祐希は、ただそれだけ言うと黙ってしまった。

 露骨なほどに対話を拒絶する態度であり、誰かと目を合わせようともしなかった。




【二番 因幡いなば七曜しちよう


「因幡七曜。運命の悪戯で斯様な地へ降り立ったが、悲嘆に暮れるにはまだ早い。不条理に抗い、希望を掴むために邁進するのだ!」

「なんか凄い濃い奴でてきたな」


 両の瞳に情熱を滾らせた因幡七曜は、高らかに言い放った。

 織田晴臣がその存在感に若干気圧されていた。




【三番 稲荷いなり貴恵きえ


「はいはいどーも、稲荷貴恵だよ。皆いろいろあって気持ちの整理もついてないだろうけど、私の足を引っ張ることだけは止めてよね?」


 稲荷貴恵は相変わらずの憎まれ口でそう言うと、自己紹介を終えた。

 離れた席で杏樹が顔を顰めているのが永遠の目に映ったが、彼女の堂々とした在り様は少しだけ羨望を覚えた。




【四番 卜部うらべ希海のぞみ


「卜部希海。特技は水泳……まあ、身体を動かすことなら大体は得意かな。よろしくね」


 卜部希海はくりっとした幼さを感じさせる瞳と、すらりとした大人びた身体つきのアンバランスさが魅力的な少女だ。

 芯がしっかりしているように見え、この状況下でも冷静さを失っていなかった。




【五番 大嶽おおたけ光三郎こうざぶろう


「大嶽光三郎です。あまり人に好かれるような見た目はしてないって自覚はあるけど、別にとって食おうなんて気はないから……仲良くしてくれ」


 大嶽光三郎は四組の中でも特に異様な雰囲気を醸し出していた。

 百八十センチを超える体躯が威圧感を与えるのに加え、額から鼻にかけてついた傷跡が厳めしい雰囲気を強調させている。

 しかし、小さく笑みが浮かべられた顔と友好的な言葉は、彼が対話のできる人間であることを示していた。




【六番 織田おだ晴臣はるおみ


「俺は織田晴臣。もう知ってると思うけど俺の祖父ちゃんは悠城学園の理事長をやってる。皆で生きて帰るためにも一致団結して頑張ろうな!」


 織田晴臣のさっぱりとした性格と人の良さは、既に多くのクラスメイトの信用を獲得していた。

 彼の言葉の後には大きな拍手が鳴り、彼の人望を知らしめることになった。




【七番 加藤かとう鳩乃はとの


「加藤鳩乃です。動物や植物が好きなので何かの役に立てるかもしれないから頑張りますね」


 加藤鳩乃は穏やかな笑みを湛える、優し気な目つきの少女だ。

 ゆったりとした口調でどこか儚く、思わず手を貸したくなるような気にさせられる。そんな印象を纏っていた。




【八番 京極きょうごく進一しんいち


「京極進一です。よろしくお願いします」


 京極進一はどこにでもいそうな平凡な男子学生という表現がぴったりの少年だ。

 何一つとして特筆すべき点がなく、彼への関心を失えば容易くその他大勢の中に埋もれてしまうほど存在感が希薄だった。




【九番 久住くすみ永遠とわ


「えっと、久住永遠です。元の世界に帰れるように努力するので、皆よろしく」


 久住永遠はやや緊張気味に、当たり障りのない言葉を口にした。

 ほんの僅かな間とはいえ全員の注目を浴びるのは恥ずかしかったが、歩が視線だけで励ましてくれるのを目にして少しだけ気持ちが楽になった。




【十番 黒崎くろさき勇人はやと


「黒崎勇人。とんでもないことに巻き込まれたけど、悪い状況ってほどでもないからくよくよせずに頑張ろうね」


 黒崎勇人は目の細い頼りなさげな男子生徒だった。

 荒事を好みそうになく、楽観的な様子が見受けられた。




【十一番 小太刀こたちすもも


「小太刀李です。素人ながら多少の医療知識があるので、怪我をした際にはお任せください」


 小太刀李は医療品をいくつか入れたウェストポーチを身に着けたまま転移してきていた。

 魔物との戦いで怪我をした星加天麗を手当てしたことは、永遠の記憶にまだ新しかった。




【十二番 樹神こだまとおる


「樹神透です。ご存じの方もいると思いますが父は樹神重工の社長を務めています。まあ、こんな世界で親の地位なんて何の役にも立ちませんが、僕も自分の能力にはそれなりに自信があります。どうにかうまくやってみせますよ」


 英才教育を施され中学時代まで成績トップを走り続けたと云われる樹神透は、圧倒的な自信を持って言ってのけた。




【十三番 小松こまつ茶々ちゃちゃ


「小松茶々! 入学していきなりヤバいことになってるけど、こういう時こそテンション上げていかないと! よろしくぅー!」


 悠城学園は服装自由で風紀にあまりうるさくないことが売りの学校として知られているが、それでも入学式の日から髪を赤く染め、ピアスを耳に提げてきた小松茶々には誰もが驚いただろう。

 ただ、彼女の明るくムードを盛り上げる性格には助けられている生徒も多かった。




【十四番 桜庭さくらば剛毅ごうき


「俺は桜庭剛毅。千葉県出身で、この春東京で一人暮らしを初めて悠城に通うことになったけど……まさかこんなことになるなんてな。力仕事があったら任せてくれ」


 桜庭剛毅は髪を逆立て、目つきも鋭く、近寄り難い風貌をしている。

 だが、彼が異世界の未知を前にはしゃぐ宝田に何度も突っ込みを入れる場面が何度も目撃されており、実際は親しみやすい性格であると知れ渡っていた。




【十五番 佐藤さとう真夏まなつ


「佐藤真夏です。趣味は作詞作曲。自分でも歌うし、ネットにも動画上げてたよ。もし歌が必要な時が来たら、遠慮なく声かけてね!」


 佐藤真夏は髪を束ねた快活な少女だ。

 彼女のよく通るはっきりした声が耳に残った。




【十六番 東海林しょうじつばさ


「僕は東海林翼といいます。どうぞよろしくお願いしますね~」


 間延びした口調の東海林翼は、背が高く男性モデルのような出で立ちの美男子だ。

 中性的な顔立ちは男らしいというより可愛らしいという印象が強い。




【十七番 陶山すえやま千紘ちひろ


「陶山千紘。頭脳労働がボクの得意分野だ。皆よろしくね」


 これまでも小難しい会話に積極的に参加し、要点を掻い摘んでくれた陶山千紘は、その短い時間で優れた知性を証明していた。

 転移直後に目覚めた時にも率先して皆の介抱をしていたことから善良な性格であることも確かだった。




【十八番 図師ずしこころ


「図師心だよ。親が玩具会社の役員やってて、小さい頃からゲームとかフィギュアを集めるのが趣味。仲良くしてねー」


 図師心は宝田の異世界トークに付き合っているところを度々目撃されている。

 橙色の伊達眼鏡が彼女のトレードマークだ。




【十九番 祖父江そふえ信宏のぶひろ


「祖父江信宏。俺が興味あるのはただ一つ――“この世界では金儲けできるか”だ。俺は帰還の手段を探すよりそっちを優先するからな。それだけは言っておく」


 祖父江信宏の思わぬ宣言にクラスメイトの一部がざわついた。

 彼を観察してみるとネックレスやバングルなど高価な装飾品を身に着けていることが分かる。経済力に恵まれていることを隠そうともしていなかった。




【二十番 宝田たからだ三雄みつお


「宝田三雄です! ラノベとかゲームとか大好きです! 正直言って異世界に来てテンション上がってます!」

「それはもう皆知ってんだよ!」


 昂る感情を正直に晒した宝田三雄であるが、彼のモチベーションの高さは誰もが知るところだった。

 桜庭剛毅が最早お馴染みとなった突っ込みを入れる。

 宝田と桜庭、それに図師心を加えた三名は、既に四組の中でトリオとして認識されていることを彼らはまだ知らなかった。




【二十一番 椿つばき雪成ゆきなり


「僕は椿雪成。元の世界に帰るためにも効率的に、迅速に、手早くやろう。無駄なく、テンポ良くが僕のモットーだ」


 椿雪成は感情を顔に表さず、合理主義者のような口振りで言った。

 やや神経質に思えるが冷静であり、言葉には力強さがあった。




【二十二番 弦巻つるまきあずさ


「弦巻梓です! 北海道出身で、家は牧場経営してます! よろしくお願いしますね!」


 弦巻梓は身長百五十センチ余りの小柄な少女だ。

 頭の後ろで団子状に髪を束ね、健康的で精気に満ちた笑顔を浮かべている。




【二十三番 徳山とくやま真帆まほ


「うちは徳山真帆っていうんよ。よろしゅうな」


 京都出身の徳山真帆は、のんびりした調子で話すたれ目の少女だ。

 永遠は彼女について親が料亭を経営していると帆足歩から聞いていた。




【二十四番 中村なかむら紺太こんた


「中村紺太ッス! オレッチ自分で考えるより、誰かの下について動く方が得意ッス! だから難しいことは他の人に任せるッス!」


 中村紺太はぼさぼさの髪型と八重歯が目立つ少年だ。

 言っている内容は情けないが堂々と言う様に悪印象はない。




【二十五番 夏目なつめみどり


「な、夏目緑といいます。えっと、本を読むのが好きです」


 夏目緑は前髪が長く目が隠れ気味だ。

 態度も消極的であり、人見知りする性質に見えた。




【二十六番 仁科にしな荘介そうすけ


「俺は仁科荘介。中学校の頃は吹奏楽部に入ってたんだ。この世界でもきっと俺の演奏が役立つと思うぜ? 何の役に立つのかって思ってる奴もいるだろうけど楽しみに待っててくれよな!」


 仁科荘介は一見するとスポーツマンを思わせる日に焼けた肌が印象に残る男だ。

 吹奏楽部員の経験が役立つと豪語しているが、恐らく彼のスキルに関わるのだろうと思われた。




【二十七番 猫田ねこた真琴まこと


「猫田真琴です。炊事、掃除、洗濯。日常的な雑務は私にお任せください。メイドですので」


 ショートボブでじとっとした目つきの猫田真琴は、機械的な態度で仕事人間と思わせる言葉を告げた。

 彼女は自らをメイドと称した。永遠は彼女が迷宮の部屋で、晴臣や千紘の指示に従って皆の世話をしていた一人であったことを思い出した。




【二十八番 蜂須賀はちすからん


「蜂須賀藍だ。我々が同じ部隊クランに所属するということは、一蓮托生の間柄になるということだ。不埒者や軟弱者がいるようなら私が性根を叩きなおしてやるから覚悟しろ」


 蜂須賀藍は軍人のように言い放ち不敵な笑みを浮かべると、何人かのクラスメイトに視線を向けた。

 視線の先には稲荷貴恵や祖父江信宏がいる。彼らは藍の視線をくだらないと言いたげに無視した。




【二十九番 一二三ひふみまもる


「一二三護。皆よろしくね」


 一二三護は言葉少なくそれだけ言うと、すぐに座ってしまった。

 物静かで、まるで童話の世界から抜け出てきたような空気を纏う少年だった。




【三十番 帆足ほあしあゆむ


「はーい、帆足歩です! どんな困難が待っているか知らないけど皆で頑張ろう!」


 帆足歩は男子の中で一番陽気で存在感があると言える。

 ミラやレイチェルとの会話から頭の回転も良いことが見て取れ、晴臣のように既にクラス内での高い地位を獲得していた。

 また、テンションが高い割には会話の際には相手を慮ることを重視し、一緒にいても疲れない。他者との交流を苦手とする永遠でも、彼の適度な距離感を保ち方は高く評価していた。



 

【三十一番 星加ほしか天麗てんれい


「……星加天麗だ。足を引っ張らねえように努力するよ」


 星加天麗は誰とも視線を合わせずにそう言った。

 永遠はスキル判定の時から彼女が塞ぎ込んでいることに気づいていた。

 探索にも率先して参加するくらいに積極的だった彼女が、今は消沈していることが気になったが、本人に問う勇気はなかった。




【三十二番 松永まつながたくみ


「松永匠。うーん……まあ、これといって言うことはないか。適当にやろうぜ」


 松永匠は眼鏡をかけた短髪の少年だ。

 中肉中背で本人が言うように特筆すべき点はなかった。




【三十三番 まゆずみ大刹だいせつ


「儂は黛大刹! 知ってる者もおるだろうが父親は陸上選手で、母親は女子テニス選手じゃ。黛家は皆スポーツマンなのが特色での、儂もその例に漏れんというわけだ。過酷な戦いがある時は儂を呼べ!」


 黛大刹は四組の中で最も背が高く百九十五センチに達する。

 鍛え抜かれた筋肉が放つ威圧感が凄まじく、彼に力で勝てる者はこの中にいないだろうと誰もが考えるほどだった。




【三十四番 水城みずき杏樹あんじゅ


「水城杏樹です。この世界ではまだ一歩を踏み出したばかりですが、皆さんと一緒ならきっと元の世界に帰れると信じています。頑張りましょう」


 水城杏樹は凛とした態度で微笑みかけた。

 彼女の柔らかな笑みに、女子生徒の多くから晴臣の時のように拍手が鳴った。




【三十五番 望月もちづき玄衛くろえ


「望月玄衛。実を言うと、俺は迷宮探索を結構楽しみにしてる。せっかくだから帰るまでに存分に楽しもうと思ってるよ。皆も気を張らずにやろう」


 望月玄衛はこの世界での生活を心から楽しもうとしている生徒の一人だ。

 焦らず急がず自分のペースで進めようとするスタンスは、慣れない生活によるストレスも軽減されるだろうと永遠は思った。




【三十六番 森重もりしげ秋音あきね


「森重秋音といいます。森重グループの創業者一族に名を連ねておりますわ。持てる者としてノブレス・オブリージュを全うするのが私の使命。気高く、優雅にいきましょう」


 胸を張って誇り高く名乗った森重秋音は、確固たる自信に満ち溢れている。

 永遠は樹神透が言っていたことを思い出す。彼女は“冥樹の果実”に関心を寄せていた。上に立つ人間としての在り方を語る彼女がどのような意図を持っているのか、少しだけ気掛かりだった。




【三十七番 吉田よしだ志津しづ


「吉田志津でーす。三度の飯よりも食べることが好きでーす。よろしくー」


 吉田志津は腹の辺りがぽってりと丸まっている――言葉を濁さずに言うなら肥満気味の体型だった。

 性格は楽天的で、温厚な草食動物を連想させた。




【三十八番 りゅう晶葉あきは


「竜晶葉よ! 特技は射撃! どんな敵でも私が撃ってやるから安心しなさい!」


 竜晶葉はツインテールが似合う熱血的な女子生徒で、戦いに対する積極的な姿勢が明らかだった。

 彼女は新たな生活に向けて大きな意気込みを見せており、恐らくクラスに良い影響を与えるだろうと思われた。




【三十九番 若松わかまつ羅紋らもん


「俺の名は若松羅紋。高校生活始まっていきなり過酷ハードな異世界生活だが、冷静クールに、華麗スマートにやろうぜ?」


 会話に横文字を多用する若松羅紋の外見的特徴を述べるなら、まず最初に目につくのが茶色に染めたドレッドヘア、そしてサングラスだ。

 小松茶々と同様に風貌が与える印象には頓着しない性格だった。




【四十番 湧井わくい穂菊ほぎく


「私の名前は湧井穂菊! よろしくね! 家に帰れなくて寂しいと思ってる子もいるだろうけど心配しないで! きっとあっちでも私たちを探すために何か手を打ってるはずよ! 私のパパ警察庁勤めだし、きっと捜索も始まってると思うから!」


 警察官僚の娘だという湧井穂菊は、日本警察が事態の解決に動き出しているという希望的観測を述べた。

 異世界に囚われた人間を探しだすことなど不可能に近いのではないかと思うクラスメイトは多かったが、彼女なりに励まそうとしているのだと悟り口を挟まないことにした。




【担任 白坂しらさか菖蒲あやめ


「では、最後に私が。皆さんの担任を務めさせていただく白坂菖蒲です。唯一の大人としてできる限りのことはしたいと思います。私たちは決して一人ではないということを心に留めて、皆で乗り越えていきましょう」


 白坂菖蒲はそう言って締めくくった。

 この場で決意表明をした生徒の幾人かは、菖蒲の言葉を噛み締めるような表情を見せた。




 それから彼らは夕食の時間を楽しみ、その日は大きな出来事もなく終わった。

 一年四組の四十一名は、ベッドの中で各々の感情を胸に秘めつつ眠りについた。


 彼らの多くは、まだこの先待ち受ける数奇な運命をまだ知らなかった。

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